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聖夜の伝染

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 こんな鬱陶しい季節を全員が同じ気持ちでいることに、理沙は耐えられなかった。それは自分がまわりに対して取っている態度が露骨なものであるのかどうか分からなかったからだ。まわりが自分に対して取っている態度には鬱陶しさを感じるのに、自分の態度が分からないと、まわりに対してそれだけ気を遣わなければいけないと思うからであった。
――きっと彼にも気を遣っていたんだろうな――
 人に気を遣うことは嫌いだった。それも育ってきた環境から生まれたもので、気を遣うことは、自分の気持ちを必要以上に押し隠すことであって、却って相手に不信感を与えることになると思ったからだ。
――そんな思いを彼にしている――
 鬱陶しいと思われても仕方がないと思うようになったのも、その頃からだった。
 彼は、勘が鋭い男性だった。いい加減なところがあって、勘が鋭い男性というのは、どうにも付き合いにくい相手であるということに、秋口になる頃に気が付いた。きっと、彼にもそんな気持ちが伝わっていたに違いない。それなのに、彼は態度を変えることはなかった。元々が忍耐強いところがあった。スポーツマンっぽいところのある人に惹かれるのが理沙だったのだが、彼は一見、スポーツマンというにはほど遠い雰囲気だったのだ。
 背も低いし、少しポッチャリしている。外見は、冴えない男という雰囲気があったのだが、それでも彼に惹かれたのは、忍耐強いところがあるからだったのだ。
 それと理沙には表には出していないが、外見が冴えない男性の方が競争率が低くていいという思いがあった。表には出していないが、まわりの親しい人には分かっていたようだった。
「理沙はどうも玄人好みのところがあるからね」
 と、どちらかというと少数派であることを理解している人も少なくなかった。それだけ天邪鬼に見えていたのだが、逆に言えば、自分の中で緻密な計算が施されているところもあり、それでいて、自分にいまいち自信が持てないところがあったということであろう。
 勘が鋭い彼は、理沙が付き合っていくうちに、次第に本性を表してくるのに気付いた。最初は競争率が少ないことを望んでいたが、やはり外見も気になるようになってきたことが理沙の態度を見ていると、露骨さを感じてくるようになったのだ。
 しかも、子供の頃からの性格が見え隠れする。大人しい性格だと思っていたが。そこには誰にも譲れないほどの硬い性格があったのだ。融通が利かないところが随所に見られ、何でも半分分けというところは、いくら付き合っている相手であっても、納得できることではなかった。
 付き合っている相手だからこそ、納得がいかない。お互いに自由なところがあってこそ、信頼関係が生まれるものだと思っていたこともあって、彼にも忍耐を伴って付き合っているところがあったのだ。
 お互いに忍耐力を持って付き合い始めると、先が見えているのかも知れない。あとはどちらから言い始めるかというのが焦点であり、引き際を間違えないようにしないと、別れた後にも、しこりが残る。相手に対して残るしこりだけではなく、自分の中で後遺症として残ってしまったら、立ち直るまでに相当時間が掛かってしまうだろう。
 お互いに相手の気持ちを分かっているつもりだった。
――自分から言い出すのも癪だし、かといって、相手に愛想を尽かされるのも嫌だ――
 この思いは理沙の方が強かった。
 実際に露骨に表に出ていたのは理沙の方で、彼は何を考えているのか分からないほど、冷静だった。まわりから見ると、二人の仲がギクシャクしていることは分かるだろう。だが、ギクシャクの原因は理沙にあるようにしかまわりからは見えないに違いない。そうなると、不利なのは理沙の方で、自分から言い出すタイミングを、自らで失わせているようだった。
 彼は本当に冷静だった。笑顔を見せることはなかったが、普段からあまり表情の変わらない人だったので、それも彼の態度には有利だった。別れに向かってのキャスティングボードは、明らかに彼に握られていると言ってもいいだろう。
 いよいよクリスマスに近づいてくると、今度は理沙が修復を考え始める。
――クリスマスのイベントを機会に、また仲良くなれるかも知れないわ――
 実際に、彼に対して本当に嫌いになったわけではない。彼も同じだろう。だったら、出会った頃の思い出をお互いに思い出せば、その時点に戻れるかも知れない。この思いが、理沙の中にはあり、最後の砦だとも言えただろう。最後の砦とは言いながらも、理沙は高い確率で修復できると思っていた。自分だってクリスマスのあの時に戻れれば、今までの楽しかったことを思い出して、気持ちが新鮮になれると思っているのだから、男性だったら、余計に修復する気持ちが強いと思ったのだ。ただ、これは学生時代に仲が良かった友達と話したことだったが、
「男性は、女性に比べて未練がましいところがあるから、別れに際しても、楽しかったことを思い出すもののようだわ」
 と言っていた。
 その意見には理沙も賛成で、今まで付き合ったことがある男性も皆そんなタイプだった。きっと彼も同じなのだろうと、タカをくくっていたのだ。
 だが、実際に付き合ってみると、そんなことはなかった。まるで女性のような淡白さがあるところだった。そして、普段は普通に男性である。見かけによらず、男らしさを持っていたのだ。
 そんな融通の利かない男を、そのうちに見限ろうと思っていた。いつ見限ろうかと思案していた。もう修復の余地はない。理沙もすでに覚悟を決めていたのだ。
 いよいよクリスマスが近づいてくる。大きなイベントは今日が最後、心の中で引導を渡すつもりで、
――今日はたっぷり優しくしてあげよう――
 と思っていた。もちろん心にもないことで彼に対しての引導にはふさわしいだろう。そう思うと理沙は鳥肌が立ってくるのを感じた。今まで男性をフッたことなどない理沙にとって、楽しみであることは間違いなかった。
 理沙は、思い切りおしゃれをして、普段よりも大人っぽい服装で出かけた。
――最初で最後だわ――
 これがあの男に見せる偽りの自分、そして、偽るのは最後にしようと思った。最初だと自分では思っているが、それは自分で決めることではないような気がしたが、偽りの自分がどんな女に変貌するのかをドキドキして楽しみにしていたのだった……。

                   ◇

 クリスマスの声を聞くというのに、今年は誰とも一緒にいる気にはなれない。今まで何人もの男性に言い寄られてきた。
 中学時代から、同級生はもちろん、先輩からの方が多かった。さすがに中学生の頃はウブだったので、男性と付き合うなど考えられず、それでも言い寄ってくる男性を突き放すだけの度胸はなかった。
 名前は恵美という。
 中学時代には、女性の友達も少なかった。男性から言い寄られるばかりの恵美に対して、まわりの女の子がいい気がしないのも仕方がないことだった。
 そのせいもあってか、気が弱い性格が表に出るようになっていた。そこを男性には好きになったようで、
――恥じらいがある。清楚な感じ――
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次