小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

聖夜の伝染

INDEX|38ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

 恵美の方も、友達と彼氏とでは、明確に分けていた。意識して分けようとする人も少なくはないだろうが、友達から彼氏に昇格した人と、うまくいくはずはないと思い続けている人は珍しいかも知れない。それなのに、たった一人だけ付き合うことになったその人とは、円満に別れることができた。
「これ以上付き合っていても、お互いに先が見えているのは分かっているよね?」
 彼の言い始めたタイミングは絶妙だった。恵美の方からも、言わなければいけないと思っていたところへのタイミングのよさは、それだけ彼が恵美に気を遣ってくれていたということだろう。
――本当に最初から友達としての出会いじゃなかったらよかったのに――
 結婚を考えるまでに至ったかも知れない。付き合っていた相手と、
「またお友達から」
 などと言うわけにもいかない。
 だが、彼とは最初からの納得ずく、それでも別れが辛いのは、本当に彼のことが好きだったのだろう。きっと、これからどんなことがあっても、彼のことは忘れないに違いないと思っている。
 恵美にとっての男女交際が何か分かっていないことでの戸惑いが、今まで自然消滅の多かった原因で、最初はそれを相手のせいだとばかり思っていた。しかし、自然消滅の原因が、伝染にあるということを考えるようになると、男女交際とは何かということを追及する必要もないように思えてきた。ただ、伝染がどこまでの範囲までもたらすものなのかを考えると、意識しなければいけない時もあるだろう。ただ、今はまわりに流されることが冷静に見ることができると思い、自分から行動は決して起こさないように心掛けていたのだった……。

                   ◇

 恵美が達郎と自然消滅したことを悟った武雄は、自分も理沙と自然消滅してしまうことを覚悟しなければいけないと思った。元々、無理のある付き合いだったのかも知れない。達郎と武雄は普通にバイト仲間というわけで、気心が知れたというところまでいかない中途半端な仲だった。
 しかも恵美と理沙は、声を掛けられたその当日に知り合ったわけで、恵美も理沙も、知り合った三人とは、本当に初対面だったのだ。一緒にいた相手といくら意気投合したといっても、初めて会ったその日にグループ交際の一角を担うことになるなど、想像もしていなかったであろう。
 武雄は理沙のことを好きになりかけていた。
 武雄は今までの性格としては、
「好きな人は好き、嫌いな人は嫌い」
 というハッキリした性格だった。そのせいであろうか、好きになりそうな人はすぐに分かった。
 今までに一目惚れもしたことがない。高校時代に付き合った女の子も一目惚れではなかった。躁鬱症を感じるようになってからの武雄は自分の躁鬱症が、誰かに移されたものではないかと思うようになっていた。
 武雄が四人の中では、一番まわりに気を遣っているかも知れない。しかしそれは性格的なものではなく、自分が一番分かっていないということを意識することで、成り立っている性格だ。
「まわりの皆は自分よりも優秀なんだ」
 という思いが根底に潜んでいるからなのかも知れない。
 四人の中で伝染という意味では一番染まりやすいのも、武雄なのかも知れない。
 一番落ち着いているように見えて、実はまわりに染まりやすい性格だというのは、逆に言えば、一番分かりにくい性格であるとも言えるかも知れない。もしこれが武雄でなければ、きっと染まりやすいタイプだとは、誰も思わなかったに違いない。
 武雄はなるべく人に染まりたくないと思っていることから、人と同じでは嫌だという性格になり、自分よりまわりが優秀だと思うのは、その反動だと思っていた。
 しかし、実際には言い訳であるということを、まったく意識していなかったのだ。鬱状態になってくると、言い訳であるということを意識するようになり、まわりの誰もが信じられなくなってしまう。
 武雄には、全貌があらかた見えているようである。
 恵美と理沙がクリスマスの日に偶然出会った。
 二人は、ちょうど同じ出会った日に、それぞれの彼氏と決別している。本当の偶然なのかまでは、武雄には分からなかったが、そこへ声を掛けたのが、達郎と自分であるという事実には違いない。
 どうして理沙と恵美に声を掛けたのかというと、声を掛けようと最初に言ったのは、達郎だった。
「俺に関わりがある人だと思うんだ」
 と、達郎が言ったその相手は、理沙だった。理沙の親友の妹が、まさか達郎が意識していた女性だったというのも、後になって聞いたことだった。
 理沙と最後に会った時、理沙の口から聞いた。
「あなたと一緒にいると、何でも話せちゃう気がするのよ」
 と、理沙が言っていたが、同じ言葉をかつて何度も聞いたことがあった。
 武雄は、自分が女の子にとって話しやすいタイプの男性だとは決して思っていない。それは謙虚さではなく、そんなにまわりの人から当てにされるタイプの人間ではないと思っているからだ。
――なるべく他の人と同じでないようにしたい――
 と思っている男が、まわりから見て話しやすいタイプであるはずがない。遠ざけようとすればするほど人が寄ってくるという人もいるようだが、タイプや環境は、そんな人とはまったく違っている。
 武雄の性格を謙虚だと思っている人もいれば、謙虚ではなく、言い訳が謙虚に見えるだけだということを分かっている人もいた。
 まわりから見て二重人格に見えることがある武雄だが、同じ考えでしかないはずなのに、見る角度によってまったく違った結果を産むことになるということを、自分では分かっていない。自分で分かっているのは、躁鬱症が定期的に出たり引っ込んだりしているということだ。
 由紀という名前を最近になって、よく達郎から聞かされる。由紀がどんな女の子なのか、そしてその姉の美佐枝がどんな女の子なのかということを想像していると、二人とも、かつて知り合いだったような気がしてならなかった。性格的にどこかが違っているのだろうが、頭の奥に封印された記憶の中に、美佐枝と由紀は存在しているかのようだった。
 美佐枝という女は相手の中にもう一人の自分というのを見つけることに長けていたことを思い出した。武雄も自分の中に同じような性格が秘められていることをウスウス感づいていたが、それは自分は決して相手と目を合わさないようにしようと決めていた時のことだった。
――目を合わせてしまうと、すべてを読まれてしまう――
 そう思うと、また謙虚な言い訳が頭を擡げ、すべてのことを他人に委ねるが、心の中では自分がやったという記憶を確信に近い状態で残してしまう。
 そうなると記憶は嘘で固められたものになってしまい、思い出そうとして思い出せる時というのは決まってくる。
 躁状態から鬱状態に入る時はどうしても思い出せないが、鬱状態から躁状態への有頂天であれば思い出すことができるのだ。
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次