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聖夜の伝染

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――美佐枝がここまで徹底した女性だとは思わなかったわ――
 と、その時に感じた。そして、美佐枝はよほど気に入った男性でないと付き合うことをしないのだろうと思ったのだ。
 そんな美佐枝が、卒業して就職すると、スピード結婚した。それだけ高校時代と環境が違っていたのか、そのせいで、よほどの寂しさを美佐枝は味わうことになったというのか、理沙には到底理解できないことだった。
 高校時代のわだかまりがあり、さらに卒業後のスピード結婚によっての完全な絶縁状態だったことは、理沙の中でトラウマのようになっていた。
――美佐枝のようにしっかりしていると思っていた女性でも、寂しさは人一倍で、寂しさのために頼る相手を絶えずそばに置いておかないと、生きていけないような性格になってしまったのかも知れないわ――
 と、感じていた。
 それが、理由は分からないが、離婚し、そして、親を頼ることなく一人で暮らしている。救われたというのは少し違っているのかも知れないが、
――美佐枝が自分のところに戻ってきてくれた――
 という意識が、
――救われた――
 という表現を感情が選んだに違いない。
 美佐枝と今日出会ったのは、何かの縁があったからに違いない。その場にいたのが恵美だったというのも、何かの因縁を感じる。
 恵美の中に美佐枝を見ていたのかも知れないとも感じたが、性格的にはあまり近いとは思えない。
――恵美とは、知り合ったばかり――
 という意識が強く、恵美を見ていると、美佐枝がどうしてスピード結婚したのに、すぐに別れることになったのか、知りたい気がしてきた。
「結婚していた男性というのは、どんなタイプの人だったんですか?」
 この質問を浴びせたのは恵美だった。
 理沙は一瞬焦ったが、言葉に出してしまったものを引っ込めることはできない。もっともこの質問は理沙がしたかった質問であり、恵美が代弁してくれたようなものだった。理沙は恵美の大胆さに驚かされながら、
――私も肝を据えないといけないのかしら――
 と、目を輝かせている恵美の横顔を眺めていた。
――私には、あんな表情はできないわ――
 と思い、恵美の言動が他人事だから簡単に言えたというわけではないことを感じていた。
 美佐枝はすぐには答えられる状態ではなかった。
 無理もない。初対面の相手から、真顔で心の奥を突かれるような質問をされたのだ。今までの美佐枝なら、
――何よ、人の人生に土足で入り込んできて、厚かましいにも程があるわ――
 とでも言いたげなほどである。
 確かに圧倒された表情をしていたが、すぐに我に返り、
「優しいところと、クールなところが同居しているような人だったわ」
 理沙はそれを聞いて、すぐに二重人格なのではないかと感じた。
「付き合っている時には分からなかったの?」
「そうね、そこまで分かるには、交際期間は短かったわね」
「それなのに、スピード結婚?」
「ええ、焦っていたわけではないと思ったんだけど、一目惚れすることのなかった私が一目惚れだったの。一目惚れがどれほど自分に相手の気持ちを第一印象で焼き付けてしまうかということを、その時初めて知ったのよ。だから、第一印象が擦れないうちに結婚してしまおうと思ったんだけど、今ではどうしてそんな風に感じたのか分からないくらいだわ。きっと、住む世界が違うってあなたに言った報いだったのかも知れないわ」
 報いというよりも、言い放ってしまったことで、自分の人生が後戻りできないということを悟ったのだろう。
「住む世界が違うってあなたが私に言ったあの言葉、私は、今でもよく覚えているわ。でも、あれをあなたが本気で言ったとは、どうしても思えないの。今でも同じことを思ってる?」
 理沙は、訴えるように聞いてみた。
 美佐枝が、その問いに対して、どう答えるかは、恵美にも大いに興味があった。返答によっては、理沙への見方を変えないといけないと思ったからだ。
 恵美は、美佐枝とは今日一日、今だけの付き合いだと思っている。これ以上、一緒にいる人ではないという思いと、このまま一緒にいると、理沙と美佐枝とのどちらかを選ばなければいけない時が来るような気がして仕方がなかった。その時には、どちらも選べないという選択肢はないのだという思いも頭にあり、もし、そうでなくても、結論を後ろにずらせばずらすほど、どちらかを選択できなくなってしまうのではないかと思うのだった。
「そうね、確かにあの時は、住む世界が違うというのを実感していたわ。そして、その思いを正直にぶつけた。それはもし、あなたでなくても、相手が誰でも同じだったかも知れないわね。あの時の私の住んでいた世界は、誰かが特別だとはどうしても思えない世界だったのよ」
 美佐枝がそう答えた。
 理沙はまた少し考え込んでしまった。
「私たちの高校時代は、自分にとって特別な人を探していたような気がするわね。今のあなたの言葉を聞いていると、さらにその思いが強くなってきたわ」
――それがあなたなのよ――
 という言葉を付け加えなくても、美佐枝であれば分かってくれるはずだ。そうでなければ美佐枝と仲良くなったりなんかしなかっただろう。元々は美佐枝の方から仲良くなろうと言ってくれたのを思い出していた。
「そういえば、妹さん、お元気ですか?」
 美佐枝には妹がいた。
 高校時代、一緒にいる時、いつも妹のことを気にしていた美佐枝を思い出した。
「ええ、元気にしてるわ」
 また、少し寂しそうな顔になった。美佐枝はすぐ顔に出る。それだけ正直者なのだろう。
「たった一人の妹で、子供の頃から苛められっこだったの。だから、私がついていてあげないといけなかったのよ」
 と、美佐枝は高校時代に言っていたが、それも嫌だという雰囲気ではなく、まんざらでもない様子だった。
 妹思いの友達は他にもいたが、ここまで気に掛けている人は少なかった。その頃の妹とは一度か二度会った程度だったが、ほとんど自分から何も話そうとしない女の子で、暗いというよりも、
――危なっかしい女の子――
 というイメージだった。
 男から見れば、放っておけないタイプに見えるんだろうけど、他の女の子には、いじいじしているくせに、男の子から気にされているのが、我慢できない気持ちになっているのだろう。
 苛めているのは男の子ではない。女の子だという。確かに理沙の小学校の頃も、苛められている女の子がいたが、男の子が苛めていることはほとんどなかった。女の子から露骨に苛めを受けている子のほとんどは、男の子からは、可愛いと思われている子ばかりではないだろうか。
 理沙が美佐枝を、
――高校時代、唯一信用できる友達だ――
 という思いを感じていたのも、妹を思いやる気持ちに共鳴したからであろう。理沙も苛めとまではいかないが、小学生の時、まわりからシカトされた時期があったことで、美佐枝のような友達が現れるのを、じっと待っていたのだ。
 理沙は一人っ子なので、姉がほしかったのは間違いない。
――姉のような存在――
 そう感じたのは、美佐枝にだけだった。
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次