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聖夜の伝染

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 達郎と付き合いの長い人はそのことを知っている。武雄はそこまで付き合いが長いわけではないのでハッキリは知らないが、達郎を知っている人に言わせれば、
「あいつは、女性と付き合ってから、結末まで、いろいろなパターンがあった。自分から別れることもあったし、相手から別れを言われる時もあった。でも相手から別れを言われる時でも、本人にはその気はないようなんだけど、まわりから見ていると、まるで自分から相手に別れを切り出させる時もあるように感じるんだ。だが、何と言ってもあいつの場合は自然消滅が多い。どうしてなのか分からないが、ひょっとすると、同じ時期にお互いに相手を嫌になるのかも知れない。自然消滅が一番害がないように思えるが、あいつの場合は自然消滅の後のショックが大きすぎるのか、立ち直るまでに一番時間が掛かっているんじゃないかな?」
 自然消滅の時に一番時間が掛かっている……。
 つまりそれが、ちょうど達郎にとって、鬱状態の入り口の時なのかも知れない。そして達郎と同じように相手の女性も躁鬱症で、彼女も同じように鬱状態への入り口に差し掛かっている。
――きっと、相手の女性も同じように大きなショックを受けているんだろうな――
 達郎は、自分がショックの間も相手の女性のことを考えることがある。その時は鬱状態がほとんど見え掛かっている時で、そんな時の方が却って落ち着ける。自分がどこにいるか分からない時ほど、これから先一体どうなるか分からない気分に陥るのだ。
 それだけ鬱状態というのは何度陥ってもショックの大きなもので、まるでロケットが成層圏にぶつかって火の玉になってしまう時の様子を思い浮かべていた。
 だが、別れる時に前からこんな感じだったわけではない。達郎が大学に入学して初めて知り合った女性と別れた時から、こんな風になってしまった。今ではほとんど、一番ショックの残る自然消滅ばかり、達郎はどうすれば今のショックから立ち直れるかを考えていたが、
――大学で最初に付き合った彼女、由紀のような女性ともう一度知り合えば、今自分の中にある呪縛を取り除けるかも知れない――
 と考えていた。
――このままでは結婚もできない――
 すぐに結婚したいという願望があるわけではないが、本当に結婚したい相手と巡り合った時、その時も今と同じ呪縛に苦しんでいれば一体どうすればいいというのか?
 恵美と一緒にいると、由紀を思い出していた。ただ、それも皆で一緒にいる時の恵美を見た時だった。二人きりになると、恵美の中から由紀が消えてしまう。それを自分が躁状態だからではないかと思っている。達郎は女性を好きになると、今まで、躁状態から鬱状態、鬱状態から躁状態になる壁を超えたことがない。それは自分の中で、
――躁状態の時と、鬱状態の時では、好きになるタイプがまったく違う――
 と思っているからだ。
 だが果たしてそうなのだろうか?
 自分で勝手に思い込んでいるだけではないかと、最近達郎は感じるようになってきた。もしそれが本当であれば、感じるようになった理由の一つとして、武雄の存在が大きいかも知れない。達郎は武雄の中に
――主従関係を持った二重人格――
 という性格を見ている。自分の中の躁鬱症と比較になるのかどうか分からないが、今までに感じたことのない不思議な性格である。
 そんな武雄を見ていると、達郎は、自分の性格もかなり屈折していることに気付き始めた。
 本来ならあまり好きではないはずの武雄の持っている
――主従関係を持った二重人格――
 という性格を知りながら、武雄との仲を解消するどころか、武雄を利用して女の子と知り合おうという意識があるのは、それだけ、
――自分の性格をもっと知りたい――
 と思っているに違いない。
 達郎にとって武雄は自分のために必要な人間であることを、武雄も理解しているように感じたが、実は武雄も同じように達郎を利用して、自分を垣間見ようとしているのに気付くまで、まだ少し時間がかかった。達郎と武雄は、お互いにそのことについて触れることはないが、次第に以心伝心してきていることには、ウスウスではあるが、気が付いてきているのだった……。
 そして恵美が見た達郎に対して二重人格だと感じたものが実は躁鬱症であり、そして違う人格が、同じ時期、達郎の中に存在しているわけではない。影に隠れているわけではなく、どこにいるのか、実際には分からない。そのことが今達郎の回りにいる人間を、どのような道に導いていくのか、それを最初に誰が気付くのか、まだまだ達郎を取り巻く人間の性格が達郎に与える影響は、深いところにあるかのようだった……。

                   ◇

 理沙と恵美は、会社が思ったよりも近くにあることで、時々連絡を取り合って会っていた。いつも連絡をしてくるのは理沙の方で、恵美は理沙が誘ってくるから会っているのだと自分に言い聞かせていた。最初はグループ交際のようなこんな関係を、
「面白いじゃない」
 と言って楽しんでいたのは、理沙だった。
 恵美も内心では楽しんでいたが、二人とも、自分の相手の男性と、それほど長く付き合って行くつもりはなかった。遊びで付き合う程度ならいいが、恋愛、ましてや結婚など、ありえないと二人ともに思っていた。ちょっとした軽い付き合いを、本当であればできないと思っていたのは、理沙にも恵美にも共通して言えることだったが、偶然出会った二人がお互いに、男性二人から声を掛けられるというのも不思議なものだし、何と言っても、その日に二人ともが、男性と別れた日だというのも面白いものだ。女性同士はその話で盛り上がったが、男性二人はそのことを知らない。
「私たち二人の秘密にしましょうね」
 と恵美が言うと、
「うん、分かったわ。こんな面白い状況を継続していくには、誰にも話さない方が効果的ですものね」
 と、理沙は面白がって、はしゃいでいた。
 恵美も、元々茶目っ気のある性格なので、理沙がはしゃいでいると、はしゃぐタイミングを逸してしまったことで、自分が今度はまとめ役に徹しなければいけないことを理解していた。理沙のような性格の女性は好きなのだが、自分がまとめ役に徹しなければいけないのは、どうにも納得いかないところであった。
 いつもなら恵美は、男性の前に出ると、おしとやかになり、可愛らしさを表に出すのだが、露骨なまでに隣で理沙に可愛らしさを表現されると、自分は二番煎じに終わってしまう。
 恵美と理沙の二人の共通点としては、
――他の人と同じでは嫌だ――
 という思いを持っていることだった。
 お互いにそのことを他の人に知られたくないと思っているようだが、理沙にも恵美にもそれぞれ、相手には言えないところもあったりしたのだ。それは子供の頃に感じた忌まわしい記憶であり、本当なら忘れてしまったと思っていたことを、二人がこの間のクリスマスに知り合ったことで、思い出してしまったのだった。
 理沙は武雄のことを気に入っていながら、実は達郎のことが気になって仕方がなかった。武雄を気に入ったのも、実は達郎がそばにいたからだと思っているくらいで、理沙の意識の中に達郎は、
――今まで忘れていた何かを思い出すことになるかも知れない――
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次