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聖夜の伝染

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 としか答えようがないだろう。
 これが二人の一致した意見だったが、二人の意識の共有の中に存在し、二人とも分かっていることであった。
 だが、武雄には武雄の、達郎には達郎の、二人の女の子に対しての気持ちもあった。だからこそ、二人の間で競合することがなかったのだろう。
 武雄の中には、理沙に対して、恵美にはないものをまず最初に感じた。
 ルビーの指輪を最初に見た時に感じたのが、その最初だったのだが、ルビーの指輪を見て理沙を気に入った本当の理由を、達郎に悟られないようにしなければならなかった。
 武雄は、今回のナンパに対して、文字通り、ナンパな気持ちであればそれでよかったのだ。相手を好きになったりすることはなく、大学生の中でも「遊び」で終わらせればそれでよかった。
 最初から乗り気だったのは達郎の方で、武雄の方からすれば、ただの「付き合い」程度のものだった。せっかく友達になった達郎から、
「クリスマスの日にナンパしよう」
 と声を掛けられた時も、
「そうだな、気分転換にはいいな」
 と、中途半端な答えしかしなかったが、
「何気取ってるんだよ。これでいつも野郎同士の会話の中に、少し色がついたようでいいかも知れないじゃないか」
 と、あくまでも達郎の意見は能天気だ。
 考えてみれば、お互いに同じ時期にナンパして、片方だけがうまくいく可能性だってあるのだ。もし二人ともカップルになったとしても、どちらかがすぐに破局を迎えれば、それで男の友情にもヒビが入らないとも限らないのだ。そんな事態を考えようともしない達郎に、
――一体何を考えているんだろう――
 と思わずにはいられなかった。
 それでも達郎の話に乗ったのは、やはり武雄が田舎から出てきてずっと友達もいない学生生活を送っていたからだろう。なぜか武雄は同じ大学で友達を作ろうとしなかった。きっとグループでつるむのが苦手な性格だからなのかも知れない。大学内で友達ができたとしても、友達と二人で行動することは珍しいようだ。二人だけで行動したとしても、できた友達にはさらに他に友達がいて、武雄はその中で
――何番目の優先順位がついているんだろう?
 と思いながら一緒にいなければならない状態では、落ち着くことなどできるはずもない。それなら、いっそ友達などいない方がいいと思うのだった。
 武雄には、孤独な影が見え隠れしているようなイメージを抱いた人は、少なくなっただろうが、その原因の一旦に、武雄の性格が直接影響していることに気付く人は、ほとんどいなかったに違いない。
 自分の性格を押し殺して、いつも前を見て歩いているつもりでいると、それだけでまわりの人に、本当の性格を悟られないということも、えてしてあるものだ。
 普通であれば、自分に自信を持たなければできないことのはずなのに、性格を押し殺すことでできてしまうのだから、押し殺すことに対して、自分に自信を持っているのかも知れない。
 武雄の気持ちを本当に分かってくれているのではないかと思うのが達郎だった。達郎には武雄にはないところがある。何と言っても、達郎は自分の性格を押し殺すようなことはしない。人に言えないことはあっても、言いたいことを押し殺すようなことはしない性格だった。
 そんな達郎に、武雄は心の中で敬意を表していた。それも表に出すことはなく、ただ横目でじっと見ているような感覚である。
 武雄が押し殺す性格の一番強いものはやはり、
――主従関係が存在する二重人格――
 であろう。
 人は、大なり小なり、二重人格な面を持っているというのは、達郎も思っていたことで、自分にも存在する二重人格は、人畜無害だと思っていた。実際に分かる人にしか分からないようで、分かる人は、それだけ達郎のことを真剣に見てくれている人なので、嫌な気はしなかった。
 武雄の場合、主が表に出てくることはめったにない。ただ、従者が表に出ている時は、必ずその後ろに主が存在していて、まるで影のように操っているのだ。その時の武雄は、操られている意識があるからなのか、身体に力が入らない。自分ではない何かに操られていることの気持ち悪さを感じながら、気持ち悪さに慣れてくると、自分を動かしている影の存在に身を委ねるところまでになっていた。
 身を委ねることは気が楽であった。
 まるで二人羽織の前にいる人間のようで、下手に力を入れると、後ろの人間にプレッシャーを与える。実際に自分を動かしているのは、
――目に見えない自分――
 であり、何をされるか分からないのは、まったく考えが見えてこないからだ。それを思うと、
「ちゃんとあなたに従いますから、何を考えているのか、教えてください」
 と、お願いしたくなるくらいである。お願いしたとしても、影の自分は何も言わない。本当に影の自分など存在するのかを疑問に感じながら、影の存在を不気味に感じないようにしようと心がけているのだ。
 従者の部分の武雄が、もし主に逆らったとすれば、その気持ちは主には分からないだろう。それが従者としては、都合のいいことだった。従者が初めて逆らったのは今までにもあったことだが、最初から最後まで主はそれに気付かなかった。ひょっとすれば、今も気づいていないかも知れない。
 今回も、主は気付いていないようだ。それは、武雄が達郎を親友として感じ始めていることだった。達郎が親友としてふさわしい人間かどうかというよりも、寂しい気持ちになった時、いつも目の前にいたのは達郎だった。
――生まれて最初に見たものを親だと思う――
 という習性を持った動物がいるのと似ている感覚かも知れない。気弱な時に目の前にいた人に委ねる気持ちにあるのは当然と言えば当然だ。
 達郎の方も武雄に委ねている部分は多々あった。達郎の方がむしろ委ねる気持ちは強いに違いないが、お互いに委ね委ねられたり、結構いい関係なのかも知れない。
 ただ、これだけは誰にも言っていなかったことがあるのだが、実は武雄には田舎に残してきた恋人がいた。
 武雄の一番悪いところが、優柔不断なところなのだが、なぜかそのことはあまり目立たない。最後の最後まで迷ってしまって決めかねている。一旦迷ってしまえば、後はどんどん選択肢が狭まっていくことが分かっているのかどうなのか、捨てることができない気持ちがどうしてもそうさせるのかも知れない。
 優柔不断な性格が、都会に出てくることで災いすることも多いだろう。だからなるべくまわりの人に知られないようにしているのだが、本当は知ってもらって、理解してもらうべきだということに頭が回らないのだ。
 それだけ冷静でいるつもりでいても、それはただ、怖がっているだけの自分を隠しているに過ぎない。しかもそれは外的な要因に弱いオブラートに包まれているだけなのだ。
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次