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聖夜の伝染

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 ということであった。
 この性格はすぐに気付いたわけではない。恵美にとっては段階を踏んで気付いたことだ。理沙も同じように段階を踏んで気付いているとは思ったが、ハッキリとは分からないので、希望的観測であることに違いはなかった。
 相手に達郎を選んだのは、理沙を見ていて、彼女が武雄に気があるというのが最初から分かったからである。確かに自分も達郎の第一印象が気になったのもあるが、それは達郎が、
――自分にないものを持っている――
 ということが分かったからである。
 しかし、そのことを意識しなくても、恵美は達郎を選んでいた。それは理沙が武雄を選ぶことが分かったからである。
――私たち四人を、客観的に見たら、どうなのかしら?
 と恵美は考えていた。
 きっと、恵美は武雄と、理沙は達郎とカップルになるだろうと思うのではないだろうか。
 恵美は達郎のことをいろいろと想像してみたが、一見して感じるのは、プレイボーイの雰囲気である。下手に近寄ると、泣かされるような羽目に陥ってしまう女性が目に浮かんでくる。
 その女性の顔にはモザイクが掛かっていて、なるべく自分を想像したくないという思いが無意識にモザイクを掛けているのかも知れない。恵美にとって男性から裏切られるという経験は正直なところないだろう。
――裏切られるかも知れない――
 と思ってみていて、妄想が潜在意識を超えたとしても、自分に正直に考えると、やはり信じられない気持ちの強さから、顔にモザイクを掛けてしまうのだろう。
 最初から潜在意識の枠を超えることのない限り、顔にモザイクが掛かることはない。もっともその時は、モザイク以前に、妄想すら難しかったのではないだろうか。
 恵美は、この四人の中で、一番客観的に見ることができる人間だった。ただ、それは冷静に見れることだというわけではない。
――冷静に見ることができるのは誰かという、それは武雄さんに違いない――
 と恵美は分析していた。
 冷静にまわりを見ることができるくらいであれば、もっとまわりを、そして全体を見ることができ、前の彼氏と別れた時に、初めて自由を感じることもなかっただろう。さっきも彼ら二人からナンパされた後に理沙が、
「少し歩いてくる」
 と言った時、自分もその場から立ち去っていたかも知れない。その場にとどまったのは、落ち着いていたからではなく、その場から離れることに違和感があったからだ。それは自分が自由になったのだという意識が自分の中でまだ確立されていなかったからで、その場から離れることで、自由を逃がしてしまいそうな不思議な感覚に襲われていた。
 達郎のことを考えてみた。
 彼は見るからに軽薄なのだが、今の恵美にはちょうどいいのかも知れない。
 茶目っ気があって、自分にはないものを相手に求めるタイプの恵美が、考えてみればどうして今まで付き合っていた相手をフッてしまったのかということを考えてみた。
――束縛されているように感じたのかしら?
 相手に委ねる気持ちを持っていたはずなのに、人に頼ることを自分から拒否したのだろうか?
 達郎は軽薄に見えるが、人への気の遣い方が絶妙なのだという見方もできる。「おばさんグループ」のようなわざとらしい気の遣い方をしない達郎に対して感じるのは、「憧れ」であるように思う。
 そういえば、恵美は今まで人に憧れたということもなかった。
――きっと私に憧れていた人の目ばかりを感じていたのかも知れないわ――
 男性からモテることの多かった恵美は、まわりの視線に対して、
――まるで女王様のようだわ――
 という意識があったに違いない。
 ただ、それが人を従わせるという意識ではなく、視線を浴びることが悦び以上の何者ではないという意識を心の奥に秘めていただけなのだろう。
 達郎は恵美を見ていて、どう感じたのだろう?
 恵美は今まで達郎が出会ったことのないような女の子だった。
 達郎は、軽薄なナンパ風に見えるが、自分からナンパができるほど、肝が据わっているわけではない。本当は、
――一人では何もできない小心者――
 だったのだ。
 達郎のような男性は意外と多いのかも知れない。恵美の回りにはいなかっただけで、もしいたとすれば、今日、達郎に興味を示さなかっただろう。達郎もそのことは分かっているようで、恵美とカップルになりながらも、どこか不安な気持ちを拭い去ることはできなかった。何とか会話を繋ごうとしていろいろ話しかけてくるのだが、恵美の反応にどう答えていいのか分からず、戸惑っている様子も伺える。
 よく見ると額から汗が滲み出ていて、喉がカラカラに乾いているのか、声が枯れている。ただ幸か不幸か、まわりにはその状態が、
――熱弁をふるっているから――
 という風に見えるようで、彼への違和感は、意外と誰も抱くことはなかったようだ。
 恵美には、そんな彼が新鮮に見えた。前に付き合っていた彼も、最初に同じことを考えたので、
――懲りないわ――
 と思ったのだが、恵美の中には、
――今度こそ、自分を信じてみたい――
 という思いもあった。
 茶目っ気があり、整理整頓ができないタイプのくせに、何かを決める時、急に肝が据わることがある。いつもではないが、肝が据わってきた時の恵美は、まわりが見ていても分かるようで、もしここに恵美を知っている人がいれば、目の色の違いに気付くことだろう。
 達郎は、そんな恵美の視線を分かっていないようだ。だが、恵美が自分を気に入ってくれていることは分かった。
 達郎の特徴は、自惚れが激しいところである。確かに小心者で、自分に自信が持てないところもあるが、人からおだてられたりすると、調子に乗って、自惚れることがある。
 一見、短所のように思うが、自惚れがその人の力になり、普段潜在している能力が、表に出て、いい方に発揮されるのだから、もはや長所である。
――長所と短所は紙一重――
 まさしくその通り、裏返しの紙一重であった。
 子供の頃から、どうしても自分に自信を持てなかった理由の一つに、
――実際に触れたり、目で見たものしか信用できない――
 ということが性格としてあったからだ。
 自分が見たものや実際に触れたものでなければ信じられないのだから、ほとんどが信じられないということだ。少なくともまわりの人間のいうことが、まともに信じられないのも無理のないことであり、それが友達と呼べる相手であっても同じことだ。
 達郎が自分から友達を作ったことはほとんどない。いつもまわりから達郎に寄ってくるのだ。それは彼の軽薄な性格が功を奏しているというべきか、友達になった人の誰もが、達郎自身から友達を作ろうとしなかったなど、誰も信じていないに違いない。
 今日一緒にいる武雄と友達になったのも、バイトで偶然一緒になって、ちょっとした話から意気投合したのだが、終始武雄が会話の主導権を握っていた。だが、武雄の側からすれば、
――達郎に会話を引き出された――
 と思っているようで、達郎が会話の相手であれば、聞き上手なところがあるからなのか、相乗効果があるようだ。
「達郎は二重人格だ」
 という人が多いが、最初に知り合った人からは、
「そんなことは信じられない」
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次