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聖夜の伝染

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 恵美の方からすれば、少し不満のようだった。モテたことのあるイメージしか残っていない恵美にとって、男性から選ばれるのは、プライドが許さない屈辱的なことであった。だが、それでも背が高いいかにも好青年から選ばれたのだから、幾分かは救われた気がしていた。とりあえず、このまま推移を見守っていこうという気分にさせられたのだ。
 恵美は、理沙がどこに行っていたのか気になっていた。自分はいつの間にかふらついていて、気が付けば戻ってきていたという感覚しかない。その前に理沙が何か目的があるような雰囲気で出かけていたので、何かを買うか、誰かに会う目的でもあるのかと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。人に会うにしても、三十分未満で戻ってくるというのは、あまりにも中途半端すぎる。目的がないとすれば、単純に自分と一緒にいたくなかっただけだろうが、そのまま帰ってしまってもいいところでもあるのに、また戻ってきたというのは、戻ってきている姿が小さく見えたことと何か関係があるのかも知れない。
 ただ、お互いに無作為に歩いていただけだったが、いろいろ頭の中で考えていただけだった。
「寒いから移動しましょうか?」
 背が高い男性が、恵美に声を掛けた。それを聞いて、表情が少しこわばっていた恵美だったが、精一杯の笑顔を見せ、
「ええ、参りましょうか」
 と、目線は理沙を見た。理沙は何も言わずに恵美に従うようにして席を立ったが、その表情は無表情だった。主導権を取られたことで怒っているのかと思ったが、そうでもないようだ。ただ、何かを考えているのかも知れないというのは、恵美には分かった。恵美も理沙もお互いに相手が一人でいろいろ考えるタイプであることは分かっているようだ。
「このお店、入りましょう」
 と言って、二人の女性を引っ張って行ってくれたが、理沙は少し不思議な気がしていた。
 クリスマスというと、どこの店の予約でいっぱいのはずなのに、見るからに予約制のレストランを、ここ一時間の間で予約できるというのは、ちょっと考えられない。席に案内されて、腰を下ろして少し聞いてみた。
「ご予約はどうされたんですか?」
 二人の男性は顔を合わせて苦笑したが、恵美も理沙の話を聞いて意味が分かったのか、ハッとした表情になっていた。
 背の高い男性が代表して話してくれたが、
「実は、僕たち二人、去年のことなんだけどね。それぞれ彼女を誘ってここで落ち合うという話をしていたんですけど、予約を取ってから、二人とも失恋したんですよ。僕たち二人と、彼女たち二人はそれぞれ友達だったので、一組が気まずくなると、もう一組もぎこちなくなってしまうのも当然かも知れませんね。そのせいもあってか、ここの時間は限られているので、すぐに他に移らないといけないんですよ」
「それなのに、また二人で私たちを?」
 口を挟んだのは恵美だった。
「そうですね。僕たち二人は女性の好みもお互いに違っているので、女性の好みのことで喧嘩することはない。それに一人ずつで彼女ができても、僕たち自体がぎこちなくなってしまうのは、避けたいという思いが強いんですよ」
 と、今度は、ずんぐりの男が口を挟んだ。
 聞いた相手と違う人からの返答に、恵美は面白くない気分になった。
――このままここから立ち去ってやろうか――
 と思ったくらいだが、せっかくのクリスマス、一人でいるよりも、発展性がよく分からない相手であるが、一人でいるよりマシだということで、もう少し付き合ってみる気になった。そして何よりも理沙に自分が興味を持っていることを自覚していることもあり、このまま立ち去る気分には、毛頭なれなかった。
「じゃあ、自己紹介からしましょうか? まず、僕ですが、僕は達郎と言います。大学三年生で、学部は法学部です」
 背の高い男性に完全に主導権を握られたが、誰も文句は言わなかった。
――背の高い男性が達郎――
 自己紹介の場では、苗字を言わなくてもいいようだ。これが達郎たち男性のやり方なのかも知れない。
「次は僕ですね。僕は武雄と言います。大学では医学部に所属しています」
 あまり会話が得意ではないのは、外観のせいかと思っていたが、よく聞いていると、アクセントが少し違っている。田舎出身であることを、過剰にいすきしているのではないだろうか。
 武雄が医学部だと言った時、理沙は彼の白衣姿を想像したが、ずんぐりではあるが、白衣を着ればそれがそのまま貫禄に繋がりそうな気がする。外観で人を判断してはいけないと思っている理沙だったが、それもいいイメージに変わるのであれば、別にいいのではないかと思うのは、矛盾した考えなのだろうか。
「じゃあ、今度は私ですね。私は理沙と言います。一応、普通のOLをしています。趣味はお料理です。よろしくね」
 理沙は、本当は趣味と言えるようなものはなかったが、しいていえば料理が好きで、練習していた、だから、まず料理という言葉が最初に出てきた。
「私は、恵美。私もOLしてます。趣味は、えっと、小説を書くことです」
「すごいですね。僕は芸術的なことはからっきしなので、絵を描いたり文章を書いたりできる人には憧れを感じます」
 間髪入れずに、達郎が言った。それはまるで、
――自分の選んだ相手に間違いはなかった。目に狂いはなかったんだ――
 と言いたげだったのだ。
 恵美と達郎、理沙と武雄のカップルがまさに出来上がろうとしていた。四人はそれぞれに喧嘩することもなく、スムーズに相手が決まったことを素直に喜んでいたが、その中で一人だけ、懸念を持っている人がいた。それは武雄で、
――あまりにも簡単に決まったけど、大丈夫なのかな? グループ交際のようになると、一組が気まずくなると、もう一組も影響がないわけではない。嫌な予感がする――
 と感じていたのだ……。

                   ◇

「パスタのおいしいお店、知ってますよ」
 と言い出したのは、武雄だった。
「じゃあ、そこに行きましょう」
 と後押ししたのは、達郎だった。主導権は達郎が握っているように見えて、実は武雄の側にあるのではないかと思ったのは、理沙だった。恵美はそこまで考えることなく、この状況を楽しみながら見守っているようだった。少なくとも理沙にはそう見えたが、男性二人からは、恵美にはどうも人見知りするタイプだということしか、感じていなかったようだ。
――そういう意味では恵美は損をしているのではないか?
 グループの中には必ず一人はいるタイプの女性で、まるでまわりの引き立て役のようで、もし彼女の親友であれば、見ていてイライラするに違いない。ただ、初対面でありながら、恵美に対して、正面から見てはいけないのではないかと思わせるところがある恵美なので、ただの人見知りだけだとは理沙は思っていない。
 恵美はそんな理沙の視線を感じていた。だが、気持ちを抑えることができるようになっていた恵美は、理沙にも本当のところを悟らせない何かを持っていたのだ。
 男性二人、女性二人のグループは、武雄の話していた店に着いた。中はさすがにクリスマスイブ、お客さんでいっぱいだったが、武雄が従業員に一言声を掛けると、声を掛けられた従業員がこちらにやってきて、
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次