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聖夜の伝染

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――自分にないものを持っているからだ――
 と気付いてから、女性に対しても、明らかに自分とは違う性格、あるいは、自分とは違う世界に住んでいた人に憧れを持つことが多かった。
 自分とは違う世界に住んでいる人を、高校生の頃までは見ようとしなかった自分に気が付いていた。
――あの人たちは、違うんだ――
 同じ家に住んでいて、血が繋がっている親に対してさえ、違う世界を感じていたのだ。他人に対して、そう簡単に気を許してはいけないんだという思いを持っていたことも事実で、それだけに親以外の人に憧れるなど、考えられないことであった。
 その気持ちが変わったのは、やはり大学に入ってからだろう。こちらがいくら警戒しても、最初は土足で入り込んでくるような厚かましい人ばかりだと思っていた。実際に、
「いい加減にしてよ」
 と声を荒げて怒った人もいた。怒られた人は、何事だろうと思ったに違いない。
 情けなさそうな顔をしながら、モジモジした態度を取られると、
――言い過ぎたかな――
 と思って反省をする。
 少し顔が緩んだのであろう。相手もすぐに笑顔を見せ、
「よかった」
 と言って、満足げな顔を見せた。
 こちらが気を許したわけでもないのに、少し表情を変えただけで、救われたような気持ちになるのを見ると、自分がどれほど小さな人間であったかということを思い知らされる。その時にやっと自分が仲間を作ってもいいのだと、誰からなのか分からないが、許された気がした。気持ちを許すということで、心が晴れやかになると、今まで見えていなかったものまで見えてくるような気がしてくるから不思議だった。
 そうやってまわりを見ていると、
――皆、それぞれ違うんだ――
 と思うようになった。
 当たり前のことのはずなのに、何を今さらと思ったが、自分にないものを人が持っていたり、人にないものを自分が持っていたりすることに興味を持った。それがどういうものなのかを探すのが好きになり、特に人にないものを自分が持っていたりすると、喜々とした気分になった。
 逆に自分にないものを持っている人を尊敬するようになった。何か困ったことがあり、自分だけでは分からない時も、自分にないものを持っている人に聞けば、何かの突破口が開ける気がするからだ。
 理沙にとって、同性の友達は新鮮だった。もちろん彼氏がほしいとはいつも思っていたことであるし、友達も彼氏がいない人は皆彼氏をほしがっている。それでも、
「私たちの仲は変わらないわね」
 と、言ってくれた友達が嬉しかったのだ。
 しかし、本当に彼氏が友達にできてしまうと、どこかぎこちなくなった。本当に今までと同じような仲でいられるわけはないと思っていたが、やはりぎこちなくなった。それはそれで文句は言えない。自分にも同じことが起こらないとは限らないからだ。
――いや、信頼を置いている友達でもぎこちなくなったんだ。自分がならないという保証は皆無に等しい――
 とまで感じていた。
 実際に彼氏が自分にもできた時、友達との関係はおろか、まわりまで違って見えてきた。背景の色が少し赤っぽく見えていた気がした。本当はさほど明るくないにも関わらず、自分の中では明るい色だとして認識している色が意識の中にあったからなのかも知れない。
 理沙は、あれほど変わることはないと思っていた自分までもが、本当に変わってしまったことに気付き、愕然とした。そして情けなさを感じ、自分が一番嫌だという意識を持っていた親と同じではないかと思うと、悔しさが滲み出てきたのだ。
 理沙が恵美を見た時、彼女には自分と同じものがあるように思えた。それが、まさか同じ日に二人とも、男性と別れたという事実であるとは、しかも、方法は違えど、自分から相手を振るということに至ったのだとは、思いもしなかった。
 理沙にとって、彼氏を振ると、女性の友達が懐かしくなる思いは、無理もないことであった。元々、同性の友達との仲を優先することが多かった理沙だったので、男性と別れることになると、女性の友達ができることに違和感などなかったのだ。
 少し歩いてみたかったのは、恵美に対して友達になれると感じたところに、声を掛けてきた男性たちに対して簡単に返事をしたが、それでよかったのかどうかを考えるためだった。
 恵美と仲良くなるには、二人だけではぎこちなくなってしまい、最初はよくても、もし途中で会話が途切れてしまったら、そこから先はお互いに気まずくなってしまうだけで、そのまま別れてしまうことが目に見えた気がしたからだ。
 恵美の性格を見てると、自分と比べて明らかに暗い性格であることは分かった。そのくせどこか抜けているところもあり、理沙のような女性から見ると、
――扱いやすい相手――
 というように見えていた。
 恵美であれば主導権は自分が握ることができる。学生時代から、自分が主導権を握れるような友達がほしかったのだが、なかなか現れなかった。集団の中でのリーダー格とは違い、二人の中での優劣感を味わうことができれば、それで嬉しかったのだ。
 もし、これが集団でのリーダー格ということであれば、話が違ってくる。自分から率先して動いたり、纏めるためには自分が楽しむわけではなく、皆を楽しませる役回りになってしまうであろう。それは理沙の中では考えられないことだった。
 理沙は、単に自分が優越感を得られれば、今はそれでよかった。言葉は悪いが、そのために恵美を利用し、恵美と仲良くなるために、男性二人を利用しようと思ったのだ。そんな気持ちを持っている中で、恵美と二人だけで待っていることは、理沙にはとてもできることではなかった。その場をなるべく外して、恵美と二人きりになる時間を少なくしなければいけないと思ったからだのだ……。

                   ◇

 恵美は理沙が席を立ってからも、しばらくそこにいた。理沙がどうしてこの場を離れたのかなど、想像もつかなかったが、自分の暗さが一緒にいることに耐えられなかったのかも知れないと思った。
――当たらずとも遠からじ――
 と思っていたが、実際にもまさしくその通りだったのだ。
 あdが、恵美は、理沙が自分と仲良くなろうという思いでいることを知らなかった。頭の中になかったと言った方が正解かも知れない。最近の恵美は、自分のような女性と友達になろうなどという女性は、なかなかいないだろうと思っていた。
 恵美は高校時代を思い出していた。あの頃は男性が結構言い寄ってきて、吟味するのも大変だったが、ある意味楽しかった。それが一人の男性に決まってから、その人と付き合い始めると、まわりが急に恵美に興味を示さなくなったのだ。
 本人は態度を変えているつもりはないのだが、まわりから見れば分かるのだろう。恵美に対してずっと付き合っていきたいと思う人はあまりいないようだ。
 特に女性の友達は、なかなかおらず、計算高い人が近寄ってくる。そういう意味では理沙と知り合ったのも、縁なのかも知れないが、普通の縁ではなく、因縁を感じるものがあったのだ。
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次