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聖夜の伝染

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 真っ赤な衣装に身を包んだ「にわかサンタ」が、ビラ配りをしたり、プラカードを持って店の宣伝をしたりしている。師走の街にはクリスマスを祝うカップルばかりがイメージとしてあるが、仕事をしている人、さらには、クリスマスどころではない人まで様々な人が溢れているのを、ベンチで座って見ていると、感じることができる。頭の中では分かっていても、歩きながらではなかなか気付かない。立ち止まって座ってみると、今まで見えなかったもの。見えていたとしても、意識していなかったものを見ることができる。毎年同じようにやってくる年末も、昨年と同じだったのかというのを思い出そうとしても、思い出せなかった。同じようにやってくるクリスマスを感じると、まるで昨日のことのように思い出すのに、実際には一年という期間があり、その間にどれほどいろいろなことがあったのかということを、今さらながらに感じさせられた。
 真っ赤な衣装に白い髭、皆同じに見えるが、身長も違えば体格も違う。同じような衣装の二人が並んでいれば、体格の違いは一目瞭然、衣装が同じなだけに、余計に違いが分かるというもので、特に二人の前で配っている二人は、その典型だった。
 一人はスラッと背が高く、きっと格好いいのではないかと思い、もう一人は背が低く、ずんぐりしている。その人のことを比喩するのは控えたいと思うほどだった。
 理沙と恵美、それぞれ二人が見ている相手は違っていた。理沙が見ていたのは。背が高くスマートな男性で、恵美は。背が低いずんぐりとした男の方だった。理沙は恵美も同じようにスラットした人の方を見ていると思っていたので、まったく気が付かなかったが、お互いの視線がちょうど目の前でプラカードを持ってビラを配っていた二人とそれぞれ目が合ったのだった。
 まず、ビラを配っていた背の高い男性が理沙の方に寄ってくる。プラカードを持ったずんぐりの男性は、持ち場を離れることに抵抗を感じているのか、どこか遠慮がちで、困ったような素振りをしている。理沙は彼が意外と律儀な性格であることに気が付いていた。
 女性が気になれば、仕事を放っておいてでも近づいてくる男性に、少し警戒心はあったが、風貌といい、女性慣れした雰囲気のある男性に自分が惹かれていることに、理沙は気付いていた。
 恵美の方は、整理整頓が苦手だということを意識しているので、律儀で面倒見のよさそうな男性に惹かれる。暖かさを感じるからであろう。そういう意味では、ずんぐりの男性が自分に合っていると思ったのだ。スリムな男性が自分に合っていないと思ったわけではなく、相手が自分を相手にしないだろうという思いがあり、それが恵美の性格である、
――諦めの早さ――
 に繋がっているのかも知れない。
 恵美は、ずんぐりの彼に整理整頓の得意な性格であるという印象を持った。恵美はそれだけで彼に興味を持ち、隣の男性にはまったく興味を示さなかった。隣の彼はそんな恵美に苛立ちすら感じ、余計に理沙の方に意識を集中させていた。
「こんばんは」
 まず、背の高い男性が、理沙に向かって声を掛けた。
「こんばんは」
 理沙も、彼を見上げながら返事をした。表情は少しこわばっていたが、これも半分計算ずくで、いきなり笑顔を見せるよりも、印象が深まるだろうと思ったのだ。
「こちらに座ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
 二人の男性は、女性二人を挟むように座った。もちろん、理沙の隣には背の高い男性。恵美の隣にはずんぐりの男性。ちょうどいいカップルである。
「お仕事、大丈夫なんですか?」
「ええ、一時間やれば、十五分休憩してもいいことになっていますので」
「じゃあ、ちょうど今が休憩時間なんですね?」
「はい、そうです。普通であれば休憩時間までそんなに意識しないんですけど、あなたと目が合って、すぐにでも休憩に入りたくなりました」
「まあ、お上手ですね」
 歯が浮いたようなセリフを平気で言えるのは、それだけセリフに似合った雰囲気を持った男性なのか、それとも、よほどの自惚れ屋さんなのかと思って見たが、前者の方がイメージとしては合っていた。だが、それだけ今までにもいろいろな女性に同じことを言ってきたのではないかと思うと癪に障る気もしたが、まだ出会ってすぐに結論を出すことでもなく、彼の雰囲気をゆっくりと味わってみることにした。
 さすがに休憩中とはいえ、二人ともサンタの格好を解くわけにはいかない。休憩室ならいいのだろうが、表でさっきまでビラを配っていた場所である。まずいのは分かっていたが、想像だけでは物足りない。どんな顔をしているのか、実に興味があった。
「女性がお二人で、それぞれ誰かと待ち合わせだったんですか?」
「いえ、待ち合わせというわけではないです」
 理沙が答えながら、恵美を見た。恵美とも初めて会ったのだ、何も知らない相手なのに、勝手に返事をしてもいいものかと思いながら、アイコンタクトを感じ、恵美の顔が、
――その通り――
 と言っているのが分かったので、理沙は言葉の後に、二度ほど頷いて確かめるような素振りをした。
「そうなんですね。僕たちはお互いに別々の派遣会社から派遣されたんですが、なかなか気が合うような気がしていたんですよ。実は、二人が会うのは今日が二度目だったんですよ」
 と答えてくれた。
「あら、そうなんですね。実は私たちも今日ここで会ったばかりの初対面なんですよ」
 と理沙がいうと、
「そうなんですね」
 まるで驚いた様子のない男性に、理沙は少し拍子抜けした。
 だが、考えてみれば、想像くらいはつきそうだ。カップルばかりのベンチに、女性二人で座っているのである。顔見知りではないという発想も向こうから少し離れた目で見れば、一目瞭然のことなのかも知れない。
 それにしても、他の二人は何も喋ろうとしない。気になって横を見てみた理沙だったが、話をしないまでも、見つめ合っているような二人を少し羨ましく感じた理沙だった。
――何も言わなくても、目を見れば分かるのかしら?
 目を見ただけで分かり合える仲の人というのは、いてもおかしくないと理沙は思っていた。だが、それもその日初めて出会って、最初から何も言わない相手と分かり合えるなど、考えられないことではないか。ただ、分かり合えるかも知れないとお互いが思ったとすれば、少しでも気持ちを察することのできる話ができれば、口数は少なくても構わない。むしろ口数が少ない方が、却って信憑性が高く感じられる。
 理沙と背の高い男性も会話は最初だけで後は、口も湿りがちになった。時間が決まっていて、しかも休憩時間だという決まった名目があると、なかなか会話を選ぶのも珍しい。
「あと一時間で終わりなんだけど、その後、どこかお食事にでも行きませんか?」
 と声を掛けられて、理沙は恵美を、恵美も理沙を見た。お互いに意義はないようで、またしても理沙が代表して、
「はい」
 と答えた。どうやら、女性側の代表は理沙ということで全員が了解したようである。男性側の代表もそれに伴って背の高い方の男性になった。話が決まってしまうと、待ち合わせ場所はもう一度ここ、二人の男性は仕事に戻り、理沙は、
「私は少し時間を潰してくるわ。あなたは?」
 というと、
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次