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短編集42(過去作品)

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 と思っていたが、まだまだこれからの人生、何があるか分からない。人のことばかりが気になる時期なのかも知れない。
――そういえば、青い色ばかりが気になるような気がするわ――
 最初はもっと自分のことを知りたかったが、今では青い色を感じると安心している自分に気付く。
――もし、今のような精神状態で赤だったら怖いわ――
 きっと明日になるのが怖くて怖くて仕方がないだろう。
 赤を感じると、それが不吉なことではないかと思うのも、被害妄想のようなところがあるからだろうか。
――人の視線が気になる――
 と思うことがあり、気になるのはそれが熱い視線ではなく、冷たさを含んだ視線だからである。
 その日、綾香が見た色は何とも言えない青色だった。今までに濃い赤い色を見たことはあったが、青で濃い色は見たことがなかった。まさに紺碧というべき色である。
 濃い赤は血の色のイメージだが、綾香が感じる濃い赤は、定期的に訪れる。ちょうど一ヶ月周期で、月のものと時期が重なっている。
 綾香は重い方だと思ったことはないが、体力的、精神的に疲れを感じている時と重なると重たくなることもあった。そんな時の赤い色が印象的である。
――本当に何でも分かる砂なのね――
 と感じたが、考えてみれば自分の状態は自分にしか分からないのだ。
 重たいと思うから濃い赤に見えるのであって、思い込みが見させる錯覚かも知れない。
――どうして女性ばかりがこんな辛いのかしら――
 と感じているが、それだけ女性の身体が強いからだ。華奢に見えても男よりも肝心な時には強いのではないかと思うとすれば、きっと子供を生む時だろう。正直言って怖い。陣痛の苦しみを人から聞かされたことがあったが、話を聞いているだけで痛みを感じそうで、それから考えれば月に一度のものは、陣痛に耐えるために必要な苦しみだと思うことにしていた。そうすれば少しは苦しみから救われそうな気がする。
 その日に見た青い色、夢の中にも出てきた。どんな夢だったかは覚えていないが、起きてから汗を感じたことで、冷や汗を掻くようなものだったことは否めない。
 今までに赤い色を見て汗を掻くような夢の記憶はあるのだが、青い色での冷や汗はあまり感じたことがなかった。
――私って冷たい人間なんだ――
 と感じる時があるとすればそんな時だ。
 どちらかというと自己中心的な考えをする方で、
「あなたって悟りの境地を開いているようなところのある人ね」
 と言われたことがあった。皮肉にも聞こえ、どこが悟りなのか分からないが、学生時代からまわりと協調するよりも、一人で行動することの方が多かった。
 人と一緒にいることが多いが、気持ちは他の人と一緒ではない。いつも自分のことを考えている。
 人にいくら親切にしても、今までそれが自分に戻ってくることがなかった。テレビドラマなどを見ていると、実に都合よく戻ってくるように作られているが、現実はそんな甘いものではない。
 人から親切にされても、顔を見ていると偽善的に見えるのはどうしてだろう。かなりひねくれた性格をしているのだが、相手の表情に暖かさを感じないのだから、どうしようもない。
 しかしそれでも、自分の表情はとても楽しそうな顔をしていることだろう。親切にされれば自然に顔がほころんで楽しい気分になれるのだが、それも一瞬だ。
 話し終わった瞬間、すぐに顔から血の気が引いてくるのを感じる。親切にしてくれた人との、指が痺れるくらい他のことが見えていないような会話に酔ってしまって熱くなった身体が、一気に冷えてくるのだ。
 熱く燃え滾ったようになっていた血液が一気に冷えてくるのを感じる。そのギャップが瞼の裏に写っている赤い色から青い色に変えてしまうのだ。
 最近ではそれが当たり前のようになってしまって、あまり情熱的な考えにならないことが多い。
 熱があり、体調を壊して病院に行くと点滴を打たれる。熱を帯びた腕に注射針が刺さって点滴の冷たい液が注入される。その時に痛みを感じることが時々あるが、熱い身体に流れ込む冷たい液が、病気で敏感になった神経を刺激するのだ。他の人が冷静に見えたり、瞼の裏に浮かんでいた赤い色が青く変わったりするのも同じようなものである。それだけ神経を敏感に刺激していたに違いない。
 あまり喜怒哀楽を表に出さない綾香は、人から冷たく見られているようだ。しかし、たまにであるが、瞼の裏が赤く見える時があると、まわりすべてが自分中心に動いてくれているという思いの中で、余裕が生まれてくる。普段の自己中心的な思いには余裕がなく、いつも冷たい感情に包まれている。
 自堕落になりかかることもあるが、それは自分が鬱状態になりかかっていることを示しているからに違いない。
 青い色に対し背筋がゾッとするような気持ちを感じた綾香、きっと何かの前兆かも知れない。通勤の車の中でハンドルを握る手の平は、すぐに汗でドロドロになっている。
 季節的には秋が近いというのに、まだセミの声が大きく響いている。
 綾香の住んでいるマンションから国道は近かった。国道を横切るのに、横断歩道はない。少し離れたところに歩道橋があるだけだ。綾香はずっと危ないと思っていた。
 最近、大きな事故は起こらないが、以前は何度かあったようだ。
 ここも以前は横断歩道があったのだが、車の量が多いことを考慮して歩道橋にしたようだ。車には都合がいいが、歩行者にはたまらない。事故が多かったというのは、やはり歩道橋ができてからすぐのようで、まだ歩道橋に慣れない人が痺れを切らし、ガードレールを乗り越え、強引に渡るという暴挙が頻繁にあったようだ。
 特に完全な十字路というわけではない四つ角で、しかも歩道橋の影になるところから人が飛び出してくるのだから事故も起こりやすい。運転手は、
――人が飛び出してくるはずはない――
 と思いながら運転しているので、咄嗟の時に避けようがないだろう。下手に避ければ対向車と正面衝突しかねない場所では、出会い頭の事故はどうしても避けられない。
 だがそれも一時期で、歩道橋に皆が慣れてくると、事故も徐々に減ってくる。最近ではまず事故が起こるということもなくなっていた。
 綾香が引っ越してきてからの街は、あまり大きな事件も起こらない平和なところだった。住宅街に学生街、ビジネス街はあまりなく、若者が集まる街として有名だった。
 喫茶店やブティックが多く、ファッションにそれほど興味のなかった綾香でも時々立ち寄る馴染みの店もできた。
 その日は休みだったので、朝食を喫茶店で食べて、馴染みのブティックに寄ってみようと考えていた。さすがに休みの日の朝は、同じ時間帯の通勤通学者で溢れている道が、ガランとしていてまったく違う顔を示していた。
――こんなに広い道だったかな――
 と思いながら馴染みの喫茶店に入ると、すでにそこには常連の客が数人、新聞を読んだりしながら、コーヒーをすすっていた。
 店の表は歩道橋の見える国道沿いにある。窓際の席に座って歩道橋を見ていると、普段自分が何気なく渡っている歩道橋が思ったより大きなものであることに気付く。
作品名:短編集42(過去作品) 作家名:森本晃次