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短編集42(過去作品)

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 化粧をすると却ってひどくなるような、言い方は悪いが修復しようとしても不可能なのに気付いていない人。見ているだけで、男からすれば腹が立ってくるような人もいる。もう一つのパターンは、化粧をせずとも十分に魅力的で、化粧をすることで、元々の魅力を削いでしまうようなもったいない場合もある。
 玲子は明らかに後者である。せっかくの顔立ちを崩してほしくないという思いがあるだけに、薄化粧は嬉しい。
 化粧一つでも、彼女の性格が分かってくる。
――自分のことをよく分かっているんだな――
 と思える。
 そんな女性と知り合ってみたかった。見栄や外聞で自分を着飾るのと同じように、化粧で相手の興味を惹こうという見え見えの考えは嫌だからである。
 化粧が嫌いというわけではない。確かに似合う人もいるが、それも自分を分かっているからであって、分からない人は悪い意味で目立つ。
 玲子を見ていて、何か懐かしさを覚えるのはなぜだろう?
 以前に会ったことがあるような感覚があるのだが、田舎で会ったという記憶はない。では、都会にいる時に会っているのだろうか? 確かに都会ではいろいろな人に会う。駅ですれ違ったことくらいあるような気もするが、それをいちいち覚えていることもないだろう。
 だが、都会の光景を思い出してみるが、都会の中での玲子を思い浮かべて、どうしても想像できない。都会の中でいい意味での異質さを感じ、きっとハッキリと覚えているに違いないほどの印象だ。
 では、この懐かしさはいったい?
 やはり田舎のイメージに合うのだ。自分が一緒にいる光景を思い浮かべると違和感がない。まるで夢の中で出会ったのではないかと思えるほどだ。
 夢の中で出会った女性の顔はほとんど覚えていない。知っている女性であっても、夢の中に出てくる表情は、普段会っている時と違って感じるのは、
――夢を見ているんだ――
 という感覚があるからに違いない。夢を見ていると、自分の姿を見ることもできる。見ているのは第三者として傍観している自分で、主人公の自分を冷静な目で見ている。見ている時に、
――果たして自分だという感覚があるのだろうか――
 と感じるほどである。
 以前にどこかで出会ったことがあるような気がするという思いは、この時が最初ではない。小さい頃には何度かあったように思う。田舎で育った敬介は、小さい頃から冒険心旺盛だった。よく友達といろいろ探検したものだが、山で囲まれているため、その山のあちこちに通っている洞窟が特徴のこの街では、冒険するには困らない。
 よく親や学校の先生から、
「洞窟に近づいてはいけません、危ないからね」
 と釘を刺されていたが、言われれば行きたくなるのも冒険心が強いからだろうか。いかにもワンパク少年だった敬介は、探検隊を自分で組織するくらいリーダーシップのある子供だった。
 今では、あまりまわりの人のことを気にしなくなったが、それも都会という水に浸かってしまったからかも知れない。
――都会になんか染まるものか――
 と思っていたのが、却って災いしたのだろう。
 だが後悔はしていない。人のことに干渉しないのが確かに都会の人間だが、それとは少し違うと思っていた。田舎の人だって結構人間同士で結びついているように見えるが、それは秩序を守るためというだけで、基本的には人に干渉したくないに違いない。そこが田舎の一番嫌なところである。
 子供の頃に探検した洞窟の中で、探検隊の皆が揃って嫌がっていたところがあった。それは、後から聞いた話で、昔、落ち武者が隠れていた場所だったらしい。そこで村の平和を考えた村人に惨殺された歴史があり、その後、洞窟では不可思議な出来事が何度も起こっているので、行ってはならないという話である。
 誰もそれを教えてくれない。そこに入ろうとした人を止めると、止めた人間もロクなことがないという言い伝えがあるからで、何も知らない敬介だけが、中に入っていった。
 しかし、皆が想像したような恐ろしいことは何もなく、少し中に入っただけで、ひんやりとしていたのを今でも覚えている。
――何だ、結局何もないじゃないか――
 と感じ、出口へと急いだが、その時に、
――あれ? 以前にここに来たような感覚があるんだけど、どうしてだろう――
 と感じた。しばらくその感覚は残ったが、結局、
――いつ来たというのだろう。夢にでも出てきたのかな――
 という疑問だけを心の奥に残して、次第に忘れていった。完全に胸の奥に封印してしまったといっても過言ではないだろう。
 暗くて湿気の多かった洞窟を出ると、そこは眩しい太陽に照らされた乾ききった世界だった。西日が差し込むような時間帯だったが、眩しさは相当なもので、一気に身体の疲れを感じた。その日は家に帰ってから食事をした後、ぐったりとして寝てしまったようだった。
 その日に夢を見た。洞窟に入っていく夢だが、洞窟の夢というよりも、表に出てきて眩しかった西日のイメージが強く残っている。ハンバーグのような匂いを感じ、一気に身体から力が抜けてくるのだった。足の裏にはだるさを感じ、頭もまともに働いていない。遊び疲れたのとは、少し違う感覚である。
 夢の中で女性を見た。彼女は白い服を着ていて、肌も真っ白に見える。
――幽霊――
 最初に感じたことだった。ドラマで見た幽霊の姿にそっくりだったが、考えてみれば潜在意識が見せるのが夢というもの、自分の想像以上のものを見るということはありえない。
 幽霊に見えるが足はある。幽霊ではないだろう。
 すべてが夢から覚めて感じたことで、そもそも夢で見た内容を、これほど覚えているなど今までになかったことだ。
 あまりにもゆっくりこちらに向って走ってくる姿が見えるのは、足が宙に浮いていたからだ。だからこそ幽霊だと思ったのかも知れない。しかしその形相はあまりにも激しく、その場にいれば、却って身体が竦んでしまいそうな勢いである。
 彼女の後ろから追っ手が迫っている。後ろを振り返りながら走っているのに気付くと、後ろの方から金属の軋む音と馬の駆ける音が聞こえる。どうやら落ち武者に追われているようだ。
 その夢の主人公は自分ではない。自分が出てこない夢など今まであっただろうか。きっと彼女にも自分の姿が見えていないに違いない。助けてあげたいがどうしようもないもどかしさと、その場にいないことがありがたいという複雑な気持ちを持って夢を見ている敬介少年だった。子供のことだから、その場にいないことがよかったと思う方が強いことだろう。
 その証拠に目が覚めてから、身体中にまとわりつく汗を感じた。息が切れていて、喉がカラカラに渇いている。悪夢を見ていた時と変わらない。
 落ち武者の顔を見てみたいと思うのは怖いもの見たさだけではなかった。元々怖がりの敬介にそんな勇気などあろうはずもない。
 では、なぜ見たいと思ったのだろう? それは知っている人の顔に思えたからだ。しかし見てしまうこと恐ろしいと思うあまり、見たかも知れないものを思い出すことはできない。永遠に封印してしまうことになるに違いない。
 次の日の朝、何事もなかったかのように、仕事に出かけた。会社に着くと寒気を感じ、
――風邪を引いたな――
作品名:短編集42(過去作品) 作家名:森本晃次