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短編集42(過去作品)

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――ショートカットの似合う女性は、ロングもきっと似合うだろう――
 という感覚があるからである。ロング系の女性は比較的大人しい女性が多く、話をしていても話題がすぐに切れるのではないかという思い込みもあった。
 やはりそれは思い込みであった。玲子という女性、話を始めるといろいろな話題が豊富で、特に二人とも東京から離れたとはいえ、共通の話題として東京を出せば、会話に事欠かない。時間を感じることなく会話を続けることができそうだ。
 東京では、意外と近くに住んでいたようだ。もっとも隣室に誰が住んでいても気にならない都会での生活、田舎にいて思い出すのだから親近感が沸いてくるのである。それにしても、同時期近くにいたと思うだけで、まるで前から知り合いだったような気持ちになるのも無理のないことだ。きっと彼女もそうに違いない。
「田中さんと向こうでも会ってみたかったですね」
「そうですね。同郷だと思えばどんな会話になったでしょうね。でも、もっと子供っぽい会話になったような気がしますね」
「どういう意味ですか?」
「都会って、華やかなイメージの中に自分の身を置こうとするような気分にさせられるじゃないですか。だから、自然にウキウキしていたりしますよね。そういうまわりの環境があるから……」
「都会では自分を飾っていると?」
「悪い意味ではないのですが、自然に警戒心を隠そうと考えるから、そういう風に見えると思うんですよ。でも、今ここで話している二人はきっと自分を素直に出していると思います。自分を飾ろうとせずにですね。だから、私は嬉しいんです」
 玲子は敬介の言葉を噛み締めながら聞いていた。
「都会っていろいろな魅力があるんですけど、迷いも伴いますね。特に田舎で育った人間にはそれがあると思います。でも、逆もあると思うんです。都会に出てきてまわりの雰囲気に染まりやすい人は、感覚自体が麻痺してしまって、迷いすら感じない人もいました」
 玲子は都会での生活を思い出しながら話していた。
「玲子さんは、向こうで誰かとお付き合いしていたりしたことがありますか?」
 都会にあまり染まっていないわりに、落ち着きを感じる。それが彼女の後ろに男性の影を感じる理由だった。いきなりで、
――少しまずかったかな――
 と感じたのは、彼女が返事に迷っていたからだ。
 初めて見せる彼女の戸惑い。落ち着いている中に妖艶さを感じた瞬間だった。男性の影を感じても、田舎に帰ってくるということは、別れて帰ってきているということなので、過去は過去、敬介は話だけを聞ければ、こだわりたくないと思った。
――玲子さんを女性として意識している――
 今までに感じたことのない感覚だった。都会で女性と付き合ったこともあったが、軽い付き合いで、こんな感覚を感じることなく、気がつけば付き合っていた。別れる時もあっさりしたもので、
――また次がいるさ――
 というくらいの気持ちの切り替えの早さに自分でもビックリしていた。そして実際に軽い付き合いの女性はすぐに現われるものである。
 今から考えれば付き合っていたとまで言えるかどうか疑問である。きっと相手も付き合っていたという感覚ではないだろう。
――少しの間の遊び相手――
 それだけだった。そして去っていった理由も、敬介の中に田舎臭さを感じたからではないだろうか。軽い付き合いを望んでいたのに、無意識にでも少しずつ深く入ろうとした敬介に彼女たちは、田舎臭さを感じた。
――男なんて星の数ほどいるのよ――
 と、ほくそ笑んでいる彼女たちの顔が思い浮かんできそうだ。
 少なくとも玲子にはそんな雰囲気はまったくない。いい意味なのか悪い意味なのか、玲子にも自分と同じような田舎臭さを感じる。そこが、敬介にとって新鮮であった。
 都会に住んでいると少しは都会に染まって帰ってくるものだ。だが、彼女にはそれがない。都会にいると、
――長いものには巻かれろ――
 という気持ちになる。そして、都会から帰ってきたといっても都会にいたことを心の底で自慢したい思いが燻っていて、
――自分は田舎者ではないんだ――
 と思ってしまいがちだ。実際に敬介が帰ってきて田舎の人を見た時、
――何て暢気な連中なんだ――
 と少し気が抜けてしまったくらいだ。だから、田舎の連中を信じないのかも知れない。
 信じない理由はそれだけではない。確かに都会のように皆同じような行動をしていて、個性が感じられないのも問題だが、学生の頃まではこれが普通だと思っていたが、都会から帰ってみると、まるで皆が他人のように思えてならなかった。
 見る目が今までと違うのは当然かも知れない。最初は、都会経験者ということで、興味を持った目で見てくる。それがいい意味なのか悪い意味なのか分からないが、興味本位であることには違いない。
 どうしてもこちらも、そんな目でまわりの人を見てしまう。一線を引いているのは今でもそうだが、それでも慣れてきたところはあった。それがまわりにも伝わるのだろうか、自然と打ち解けてきたように思える。一生懸命に仕事をしている姿は、田舎の人も都会の人も同じで、お互いにそれが分かってくると、自然と気持ちも伝わってくるようだ。
 玲子の場合は、帰ってきても都会にいたような雰囲気はなかった。最初から都会に染まることをしていなかったのかも知れない。さぞかし最初から田舎の雰囲気に馴染めたことだろう。
 順応性があるのはいいことだ。それがなくて苦労し、そして、自分の首を絞めていった人を今までにいっぱい見てきた敬介である。それが、人や環境に安易に染まるというのでは疑問があるが、玲子の場合は自然に打ち解けているのだ。羨ましい限りである。そしてそれが玲子という女性の最大の魅力である。
 田舎者でもなく、都会にも染まっていない女性を求めていた。恋愛感情にすぐ結びつくわけではないが、少なくとも癒しの気持ちになれる。
 今の敬介には気持ち的に余裕がある。だからこそ、玲子のような女性に出会えたように思う。
「ずっと前から知り合いだったような気がしますね」
「そうですね。違和感なく話せますね。近くに住んでいたというのも、偶然であっても何か親近感が湧きますね」
 お互いに目を合わせてみた。一人で寂しい思いをしていた都会の生活を思い出していると、近くに住んでいたはずの玲子を想像してしまう。
 アパートやマンションが立ち並ぶところでは、隣室が誰だか興味も湧かない、そんな都会での生活。息苦しいのは空気が汚いだけではない。人間関係に感じる息苦しさは、そのまま煩わしさへと変わっていく。
――あの頃に出会っていれば――
 と思わなくもないが、しかし、こちらに帰ってきてから出会うからよかったのかも知れない。
 もし都会で出会っていたとしたら、どんな付き合いになっただろう?
 都会の垢抜けた女性がまわりにいると、あまり目立たなかったことだろう。彼女も同じように化粧をしていたとすれば、似合っていないように思うのは、田舎で見ているからだろうか。
 化粧が似合わない女性というのは確かにいるものだ。それも二パターンあるように思える。
作品名:短編集42(過去作品) 作家名:森本晃次