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オーロラとサッチャー効果

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 学校にいても、まわりを避けるようにして、なるべく気配を消している翔子だった。普通にしていれば、浮いてしまった自分の存在が却ってまわりに対し、保護色を使っているかのような状態になり、意識しなくても、存在感だけはどこかにもたれているのではないかと思えたのだ。
 だからと言ってまわりを避けていると、翔子を毛嫌いしている人は別にして、それ以外の人には、どこか胡散臭さを感じさせる存在として印象に残ってしまう。それはまるで移動した後に、影のようなものだけがその場所に残ったことで、その人がこの世から消えてしまったかのような錯覚に陥るのに似ている気がした。
 翔子のクラスには、男子の中で浮いてしまっている存在の男の子がいた。彼の場合は翔子と違って、まわりを必要以上に意識しているようで、翔子にもその意識が伝わってきていた。
――一人になることが怖いのかも知れないわね――
 と思って見ていたが、彼の様子を見ている限り、どこか男らしさを感じるところがなかった。
――だから、まわりから浮いてしまっているのね――
 と思ったが、実際に彼のどんなところに男らしさを感じないのかという具体的なことは分からなかった。
 ただ、漠然と男らしくないと思うだけだったが、この思いは、
――まわりが自分を見つめる目と似ているのかも知れない――
 と感じた。
 そのうちに、彼の視線が翔子に向けられているのを感じた。
 最初、彼がまわりを意識している目が必要以上に感じられたのと同じ目で翔子を見ていたのだ。
――気持ち悪いわ――
 と感じた。
 彼は翔子を意識している姿を隠そうとせず、露骨に見ている。気持ち悪く感じたのはそのせいであった。
「なんで、そんなに私のことを見ているの?」
 痺れを切らした翔子は、自分から詰め寄った。
 すると彼は、視線は露骨だったにも関わらず、問い詰めるとしどろもどろになり、
「あ……、え……」
 としか言わない。
「そんな母音だけの言葉じゃあ、何も伝わらないわよ」
 と、罵声にも似た声を挙げた。
 実際に怒りがこみ上げてきていたからだった。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃあ……」
 というので、
「何は、そんなつもりじゃないって言うの? 私を露骨に見ていたでしょう? 私に何か言いたいことでもあるんじゃないの?」
 と聞くと、
「あ、いえ、そんなことはありません。ただ……」
「ただ、何なの?」
「ただ、あなたが強い人だと思って、羨ましく見ていたんです」
 どうやら、気持ち悪い目で見ていたわけではないようだ。
――私のことを意識して見ていたのは、羨ましく思っていたからなんだわ――
 と思うと、翔子の方も、悪い気はしなかった。
「そう、私はてっきり気持ち悪い目で見られていると思っていたわ」
 というと、
「いいえ、そんなことは断じてありません。僕はあなたのその強さに憧れているんです」
 と、早口でまくし立てた。
 彼のように必死に言われると、それが言い訳なのか、それとも本当に自分の言いたいことなのかが曖昧な感じがした。しかし、その時話をしていて、曖昧に思えなかったのは、翔子の中に、彼に対して少し見直した部分があったからだ。
 しかし、彼の態度を許せるほどではない。ただ、彼を見ていて苛めたくなる気持ちになったのは、翔子にも不思議だった。まわりから干されていることを納得していた翔子だったが、彼を見ていて苛めたくなる気持ちになるのは今まで翔子に向けられていた視線に近いものだと感じた。
――何とも不思議な感覚だわ――
 そして、
――自分がまさか人を苛めたくなるような衝動に駆られるなんて――
 と、自分の本性がそこにあるかのようにも感じたのだ。
「確かあなたは、近藤君よね?」
「ええ、近藤守といいます」
「そうそう、守君ね。君は、私のどういうところが羨ましいの?」
 と聞くと、
「僕は、昔からずっと苛められてきたので、苛められっこの目からいつもまわりを見ていました。なるべく人に近づかないようにしようと思っていて、それは近づくと、反射的に攻撃されるという無意識の思いが働くからなんです。だから、人が横を通っただけで、足を避けようとする態度を取る。それがまわりにはナヨナヨした態度に見えるようで、女の腐ったようなやつだなんていわれたりもしていました」
 と近藤は言った。
「女の腐ったようなって表現、ちょっとカチンと来るわね」
 と言い返すと、
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです」
 と、またうろたえていた。
「分かっているわよ。あなたは、言われたことをそのまま私に言っているだけなんだってね。でもね、少しでも何かを考えながら話しているのなら、もう少し違った雰囲気になると思うの。あなたは言葉を選んで話しているように、言葉の間に少し間をおいているようだけど、それは私から見れば、わざとらしさしか感じないわ」
 と、痛烈な言葉をぶつけた。
 彼は完全に固まってしまっていた。
――ちょっと言い過ぎたかしら?
 と感じたのは、彼の顔が真っ赤になって、まるでりんごをワセリンか何かで磨いて、ピカピカになっているような雰囲気だった。
――針でつつけば、パンっと割れてしまいそうだわ――
 と感じさせた。
「ごめんなさい」
 と言って、顔を上げることのできない近藤を見ながら、
「ねえ、守君。私はあなたが嫌いじゃないのよ。むしろ好きなタイプなのかも知れない。だから、私は少しきつくいうこともあるかも知れないけど、勘弁してほしいと思うの。でも、あなたのような人と話をする人がいるとすれば、きっと私のような言い方になるのかも知れないわね」
 と、近藤に向かってそう言った時、翔子はハッとした。
――そうか、彼が内に篭っているのは、ひょっとするとそこまで分かっているからなのかも知れないわ。自分から誰かに話しかけても、結局自分が口撃されて、それでまた内の篭ってしまうという堂々巡りを繰り返すということが分かっているのね――
 と感じた。
 しかも、その堂々巡りが、元の場所に戻ってくる堂々巡りではなく、次第に構成している輪が、どんどん狭くなってくるのを感じているのだろう。そこまで考えてくると、翔子は不思議な感覚に見舞われた。
――ヘビが自分の尻尾に齧りつき、ずっとそのまま食べ続けると、どうなるのかしら?
 何とも不思議な発想である。
 中学の時に、彼女との話の中で、異次元への思いについて話をしたことがあったが、その時に出てきた「メビウスの輪」の話、その時翔子が頭に描いたのが、その時に感じた、
――ヘビが自分の尻尾から飲み込み続けたらどうなるか?
 という発想であった。
 その時に思い浮かべたのは、白ヘビだった。
 実際に白ヘビというのはあまりお目にかかったことはない。希少価値であろうし、動物園でも見たこともなかった。
 しかし、白ヘビへの思いは、不思議と昔からあった。子供の頃に見たおとぎ話の中に白ヘビが出てきたという思いも強かったし、なぜか頭の中の発想として、瓶詰めにされている白ヘビの発想があったのだ。
 それを一度祖母に話したことがあった。もちろん小さい頃のことであったが、