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オーロラとサッチャー効果

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「あなたの将来は、正直決していいものではないかも知れません。でも、自分の気持ちに正直になっていれば、必ずいいことがあります」
 それを聞いて、
――藁をも掴みたいと思ってくる人は、この言葉を聞いて嬉しくなるんだわ――
 と、翔子は感じた。
 では翔子はどうだろう?
――以前の私だったら、きっと喜んでいたに違いないわ――
 と感じた。
――以前の私?
 それはいつのことだろう?
 中学時代のことか、それ以上前のことだろうか?
 翔子は子供の頃は、人を疑うことのない素直な少女だった。
――素直って何なのかしらね――
 そう思うようになったのは、確か中学時代ではなかったか。
「人のいうことを素直に聞きなさい」
 判で押したような言い回しは、親からも学校の先生からも言われた。
 一度ではなく何度でもである。
――しつこいわね――
 と感じたこともあったが、子供の頃の翔子は、しつこくても素直だといわれたことが嬉しくて、しつこいと感じてもすぐに忘れていた。
 素直という言葉は、どこをどう切ったとしても、悪い意味であるはずがない。
――もし素直という言葉を悪くいう人がいれば、それはその人がひねくれているからだ――
 とさえ思っていたほどである。
 そんな翔子が素直という言葉に反発するようになったのは、先生の言葉に矛盾を感じた時だった。
 翔子が小学四年生の時、学級委員をさせられたが、その時、先生に言われる前に、教材の用意をしておいたことがあった。先生は、
「新宮さんありがとう。あなたはよく気が利くわね」
 と言って褒めてくれた。
 だが、今度は別の機会に、同じように教材を用意しておくと、
「新宮さん、そんなことまでしなくてもいいの」
 と、同じ先生なのに、まったく違ったことを言ったのだ。
 どうやらその時の先生はプライベートでいろいろ問題を抱えていて、精神的に参っていたようだったが、子供の翔子にそんなことが分かるはずもない。先生としては、自分なりに優しく言ったつもりらしかったが、どんなに優しく言われても、同じ人間に対して同じことをして、最初は褒めてくれたのに、次には正反対のリアクションでは納得がいくはずもない。
 しかも、最初は翔子としてももっとものことだと思っていることだったので、余計に確信を持ったことだっただけに、手のひら返しは完全に裏切りでしかないと思わせたのだった。
――もう信用できないわ――
 と、それからその先生のことは毛嫌いするようになり、その先生のいうことに従う気はしなくなった。
 その頃から、少しずつ素直という言葉に嫌悪を感じるようになり、
――自分で納得のいかないことは、いくら人に言われても絶対にしない――
 と思うようになった。
 そういう意味ではその時の先生は、何とも罪作りなことをしたと言えなくもなかった。
 その頃から、
――長いものには巻かれろ――
 という意識を少しだけ持つようになった。
 その考えは、少数派でいるよりも、多数派に属さなければありえないことで、しばらくの間多数派に属し、その中の端の方にいるような女の子だった。
 しかし、多数派で行動していると、よく写真を撮られるのだが、その写真に写っている自分は、いつも端の方にいて、最初は、
――私どこに写っているんだろう?
 と、自分を探していたが、途中から端の方を探すようになって、
――ああ、ここだ――
 と、すぐに見つけることができるようになると、急に自分が虚しくなってきたのだ。
 しかもまわりの人を見ていると皆それぞれいい笑顔を見せているのに、自分は無表情だった。さらに、自分のまわりにいる人も皆無表情で、完全に中央の人と、端の方の人とで表情が違い、同じ団体でありながら、まったく違う人種であるかのように写っていた。
 その思いが翔子に、虚しいという思いを植え付けたのだろう。翔子は次第に団体の中から少しずつ距離を置くようになり、気がつけばいなくなっていた。
 しかも、翔子がいなくなったことを誰も気にしていない。翔子一人くらいいなくなったとしても、誰も意識すらしないのだ。
――なるほど、これじゃあ、意識もしないわ――
 と、再度写真を見直すと、そう思うのだった。
 団体から離れてみると、団体の中にいても端の方にいるのであれば、これほど情けないものはないと思うようになった。その頃から
――人と同じでは嫌だ――
 と感じるようになっていた。
――結局私は、素直ではないということなのかしら?
 それまでの翔子の考え方が、団体に所属しなければ、素直ではないという考えだったことに気付いた。団体を離れたことで自分が素直ではなくなったと思うと、複雑な気分だったが、
――あんなに虚しい思いをするくらいだったら、素直じゃない方がいい――
 と感じたのだ。
 それを確信したのが、中学に入ってからのことだった
 中学に入ると、完全に皆どこかのグループに所属しているような雰囲気になった。グループに所属していないと、完全にクラスから浮いてしまい、そんな生徒が一クラスに数人はいた。翔子もその一人だったが、翔子はその人たちとつるむ気にはならなかった。
 他の無所属の人も同じ思いのようで、皆一人で満足していた。
――私も一人で満足だ――
 と思っていたが、本当にそうだったのだろうか?
 よくよくまわりを見ると、無所属の人たちは、いわゆる
――オタク――
 と言われるような連中で、
――いくら私が団体が嫌だといっても、オタクに見られるのは、もっと嫌だわ――
 と思うようになった。
 じゃあ、どうすればいいのか考えたが、なかなかいい考えが浮かぶはずもない。ただ、そんな中で一人だけ浮いている女の子が翔子を意識しているのに気がついた。
 彼女はオタクではなかった。話をしてみれば、翔子と同じような考えを持っている人のようで、
「私、どうしていいのか分からないの」
 と言っているのを聞いて、
――彼女のような人を素直っていうのかも知れないわね――
 と感じ、感じたことをそのまま彼女にぶつけてみた。
 すると彼女は、
「そんなことはないわ。私は素直じゃないと思うの。もっというと、私は素直って言葉、本当は大嫌いなの」
 素直に見えた彼女が、素直という言葉に過剰に反応していた。翔子の知らない間の彼女に何があったというのだろう。
「私、小学生の頃、苛められていたの」
――なるほど、苛めに遭っていたというのなら、この雰囲気は分かるわ――
 と感じた。
「今は、苛められていないようだけど?」
「ええ、小学生の終わり頃に、急に苛めはなくなったの」
「よかったじゃない」
 というと彼女は寂しそうな顔をして、
「違うの。いじめのターゲットが、他の人に移っただけなの」
 という。