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オーロラとサッチャー効果

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 翔子は、本当は話したいことが山ほどあるのだが、それだけに、何を話していいのか戸惑っていた。ありきたりなことだと笑われるかも知れないし、もしここで笑われてしまったら、翔子のショックはかなりなものだと想像できた。
「じゃあ」
 と翔子は、それを敢えてありきたりな話をしてみた。
 すると、相手は質問に対してのリアクションはなく、淡々と自分たちの話をしてくれた。その内容はありきたりな質問に対してありきたりに答えてくれたのだが、
――ここまでありきたりな質問に対してでも、いくらありきたりとはいえ、ちゃんと答えてくれるのなんて、嬉しいわ――
 と感じ、彼らに暖かさすら感じた。
 だが、その思いはその場にいる時だけだった。話を終えてその場所から出てしまうと、自分が途端に我に返ってくるのを感じた。そう、我に返ってくる思いである。
――どこか冷めてきたわ――
 と思うと、後になって彼らのことを思い出すと、自分とは住む世界が違う人たちだということに気付かされたが、
――でも、あの時確かに私は暖かなものを感じたはずだわ――
 と思い返してみた。
 暖かな思いを感じたことは、あとから思い返しても感覚的に残っている。しかし、それはあくまでも感覚的なものであって、頭の中では冷めきっていたため、その思いが錯覚に近いものに思えてならなかった。
 その時、翔子は初めてさっきの団体が、
――宗教団体だったんじゃないか?
 と感じた。
 そして、もう少しで暖かさに惑わされて、そのまま彼らのことを同志のように感じてしまうのではないかと思ったのだ。
 ただ、彼らを宗教団体だから毛嫌いしたというわけでもなかった。本当の理由は、彼らが、
――皆当たり前のことを言っているだけであって、多数派意見なんだわ――
 と感じたことだった。
 しょせん、人を説得する言葉なんて、たかが知れていると思っていた翔子だったが、あの場の雰囲気の中では、彼らが多数派ではなく、少数派であるかのように錯覚してしまっていたことに翔子は衝撃を受けていた。
――どうして、そんな思いになったのかしら?
 その思いは、自分をその場につれていった友達に向けられた。
 翔子は、彼女とはそれからしばらくは一定の距離をおいていた。すると、彼女はその間に他の友達を例の道場につれていき、まんまと入信させることに成功したようだった。
 彼女たちは多数派になっていた。そんな彼女たちに対して自分が少数派であることに、翔子は喜びさえ感じていた。
――やっぱり、少数派というのは、人と同じでは嫌だという私の考えを裏付けているものなんだわ――
 と感じたのだった。
 それから少しして、
「この間のところなんだけど、今度先生がいらっしゃるので、一緒に行かない?」
 と友達から誘われた。
 その様子がこちらを探るような雰囲気だったことと、誘いが最初に行ってから少々時間が経っていたことから、
――ほとぼりが冷めるのを待っていたかのようだわ――
 と感じ、白々しさを見て取ることができたので、
「いいえ、宗教団体と関わるのは、真っ平ごめんだわ」
 と、けんもほろろに相手にしなかった。
 それでも相手は申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。まるで捨てられた犬のような表情が、さらに白々しさを増発させ、
――その手には乗らないわよ――
 と、睨み返してやったものだ。
 その頃から翔子は宗教団体というものに嫌悪を感じ、自分に寄せ付けないものだという判断だった。
 翔子が占いの館に入ろうと言ったのは、宗教団体を本当に毛嫌いするようになってからだったのかどうか、今では思い出せない。ただ、入ってみようと思ったのはただの気まぐれと言ってもいいくらい、深い意味はなかった。
 中に入ると、手相占い、タロット占い、さらには占星術と、いろいろあった。翔子はその中で、タロット占いの部屋に入ってみることにした。
 中には、ベールをかぶった、あたかも怪しげなおばさんのような人がいて、翔子を待ち構えていた。その時、他の友達は、
「私はいいわ」
 と言って、皆帰ってしまった。
 それでもその日の翔子は、一人であっても占ってもらいたくなり、中に入った。もっとも他の人に占いの内容を知られたくないという思いもあったので、一人というのは好都合でもあった。
――どうせ、明日になったら、誰も占いの話なんかしないわよ――
 高校時代の一日一日というのは、あっという間に過ぎるようで、それだけに、昨日のことであっても、かなり前だったような錯覚に陥ったりするものだ。実際に翌日には誰も占いのことを忘れてしまったかのように、誰も翔子に昨日のことを聞く人はいなかった。
 翔子はベールをかぶったおばさんの前に座り、
「何を占いましょうか?」
 と聞かれた。
「何を占ってほしいかは、占い師のあなたなら分かるんじゃないかしら?」
 と、翔子は最初から挑発的だ。
 おばさんは、ニコッと笑って、
「おっしゃるとおりね」
 と一言言って、静かにタロットを捲り始めた。
 こういうことをいう客は珍しくないのか、それともうなくいなす方法を分かっているのか、相手は平然としているのが、翔子を少し苛立たせた。
 手際よく捲っていくタロットだったが、時々おばさんは露骨とも思えるような手際の悪さがあった。しっかりと注目している翔子でなくても分かるレベルのもので、
――この人、大丈夫かしら?
 と相手に思わせるほどだ。
 しかし翔子はその態度を見て、
――これってわざとなのかも知れないわ――
 相手の緊張を和らげるためだとすれば、なかなかの策士に思えた。
 元々、占いを頼りにくる人は、緊張しているからだ。しかし、藁にもすがる思いであるだけに、しての不手際が次第に、不安を煽る結果になりかねない。
 だが、よくよく考えると、そんな不安の中始まる占いの中で、相手が少しでも自分のことを言い当てれば、却って信頼が強くなるとも言える。相手の気持ちを読んでいるとすれば、それは占いの力というよりも、心理学の範疇ではないだろうか? 翔子は自分がしっかり見定めるつもりで、相手に正対していた。
「あなたは、将来に深い不安を抱いていますね?」
 占いのおばさんは、一言口にした。
 翔子はその言葉に返事をすることもなく、ノーリアクションだった。おばさんは言葉を続ける。
「あなたは、自分が他の人と同じでは嫌だという意識を持っておられる。しかも本当は占いなど信じているわけではないのに、ここに来てしまった」
 翔子はズバリ指摘されて、少しビクッと身体が動いたような気がしたが、それでも何とか平静を装い、目を瞑って聞いていた。
 目を開けると、相手に自分の気持ちを見透かされてしまうようで怖かったからだ。占い師に指摘されたことは図星だったが、心の底を読まれたわけではないと思っている翔子は、まだまだ自分の気持ちを表に出すまでには行かなかった。
――これは私と占い師の戦いのようなものだわ――
 と感じた。
 お金を払ってまで、本当であれば救いを求めてやってくる相手に戦いを挑もうなど、滑稽もいいところだが、翔子は至極真面目なつもりだった。
 さらに占い師は続ける。