小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

オーロラとサッチャー効果

INDEX|28ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「ええ、個人的な恨みをセクハラ問題に摩り替える人が増えてきて、今度はそれが世間で分かってくるようになると、セクハラで訴えた方が、加害者ではないかと思われるようになって、訴えることができなくなる。それも前の時代に戻ることになるわけですよね。だから、もし世の中が今の理屈を分かってきたとしても、簡単にそれを受け入れることができないと考える人もいるでしょうね。それが政治家だったり、権力者だったりすると、厄介なことになるかも知れませんね」
 翔子は、自分の考えていることを言った。女性の立場からだと、セクハラなどは、訴える方の味方をするのだろうが、翔子の場合はそうでもないようだ。冷静な目線で見つめていることは田村にも分かった。
「そういう意味でも、さっきの『慣性の法則』に繋がる部分があるんですね。時間が経過していれば、同じ場所に着地しても、そこは前の場所ではないんですよね」
 と田村がいうと、
「そうですね。時間が経過するということは、少なくともそこに歴史が積み重ねられているということですからね。しかも、未来なんて事情が変われば、いくつもの無限の可能性がある。それは天文学的数字になるんじゃないかって思います」
 と翔子がいう。
「いわゆる『パラレルワールド』の発想ですね」
「ええ、そうです」
 話は、飛躍しすぎるところまで来ているようだった。
「でも、どうして私が宗教に嵌ると思ったんですか?」
「新宮さんは、心のどこかでカリスマ性を持っているような気がするんです。宗教に入信するというよりも、自分で宗教を起こそうとするくらいの気持ちがあるのではないかと思ってですね」
「言われてみれば、私のまわりに寄ってくる人は、なぜかおかしな人が多いんですが、私にすがるような雰囲気を感じさせる人が多かったような気がします」
 以前付き合っていた男性もそうだった。
 電車の中で極度の屈辱を味わわされて、その時はどうしていいのか分からぬまま、翔子と別れることになったのだが、自分からぎこちなくなっておきながら、途中から翔子に対してストーカーのように影から見つめていることがあった。
 翔子は気持ち悪いと思いながら、彼を一喝することで、彼は二度と自分の前に現れることはなかったが、しばらくしてから自殺したと聞かされた時、その時の彼の目が忘れられなかったのを思い出した。
――あれは私にすがるような視線だったんじゃないかしら?
 と今なら感じることができる。
 宗教というと、胡散臭いものだという意識しかなく、教祖などと呼ばれているのは、自分とは別次元の世界の人のことだと思っていた。それは尊敬からではなく、関わりたくないという他の人と同じような感覚だったのだ。
 翔子は占いの館で占い師から言われた
「誰にでも当て嵌まること」
 を思い出していた。
 いっぱい当て嵌まることを言われた気がしたが、そのほとんどを覚えているわけではない。
――どうせ誰にでも同じことを言っているんだわ――
 と感じたからだ。
 ただ翔子は、その時の占い師を見ていて、目の前に鏡でもあるかのような錯覚に陥っていた。目の前にいるはずの占い師が見えなくなり、そこにいるのが自分であり、左右対称に見えていることに違和感がなかった。
――占い師も、私を見ながら、左右対称の自分を見ていたのかも知れない――
 などと考えると、声だけは聞こえているのに、目の前にいるのが鏡に映った自分であると感じると、自分に対してかけている自己暗示のように思えてきた。
――占い師は、裏の自分を代弁しているだけだ――
 と思うと、占い師が顔を見せずにベールに包まれているのも分かる気がした。
 その人がありきたりな当たり前のことを言っているように感じたのは、自分にとって当たり前と思っていることであって、他の人に当て嵌まることではないのではないかと思うと、占いをバーナム効果のように感じることこそ、占いにおけるトラップのようなものではないかと思うのだった。
――だから、占いに嵌る人がいるんだ――
 と感じた。
 占いに嵌る人は、本当は相手がありきたりなことを言っているわけではないことを分かっている。占いを信じているというわけでもなく、占いが自分を本当に救ってくれるとも思っていない。ただ、裏の自分を見たいがために占いに来るのだと思うと、翔子は占い師の存在意義が分かった気がした。
――じゃあ、どうして他の人の前では占いを信じていないように言うのだろう?
 それも簡単なことだった。
 自分が裏の自分の存在を認識していて、その代弁者が占い師だということを悟っているのを、他人に知られたくないからだ。裏の自分が本当の自分であり、まわりに対して偽っていることがまわりに対しての気遣いであり、肝心な時にだけ、本当の自分を表に出せばいいと思っているのではないだろうか。そのことを自覚している人が占いに嵌っていて、占い師は、誰にでもなれるという意味で、
――自分を持たない人だ――
 といえるのではないだろうか。
 だから、占いを信じている人は、決して占いを信じているとは言わない。それを言ってしまうと、占い師は二度と裏の自分になってはくれないと思うのだろう。この発想は宗教に似ているのかも知れない。
――マインドコントロール――
 という言葉を聞くが、宗教では教祖によってもたらされることだと思って、皆宗教を毛嫌いしているが、占いの場合は、マインドコントロールを掻けるのも、掛けられるのも、裏表の違いこそあれ、自分自身なのだ。
「新宮さんが考えていること、今の自分には分かる気がします」
「どうしてですか?」
「実は、僕は大学で占いについて勉強したことがあったんですよ。専攻は心理学だったんですが、その時の先生が、相手を見て、その気持ちを読み取るということを研究している人だったんです。でも、さすがにそんなことが百パーセントできるはずもなく、ある程度までは読み取ることができるようになったらしいんですが、それでも、半分も行っていないというんです。それだけ奥が深いんでしょうけど、人間には裏表が存在しているということを絶えず認識していれば、教授の至ったある程度のところまでは行くことができるといわれたんです」
「じゃあ、私の考えていることが分かるんですか?」
「何となくですけどね。新宮さんの裏の部分を見つめることはできたような気がします」
「でも、そのすべてを見ることができるようになるには、どうすればいいんでしょうね?」
「教授がいうには、そこにサッチャー効果が大きな影響を与えるというんですよ」
「それって、上下逆さから見て、まったく違ったものに見えるという錯覚のことですよね?」
「ええ、そうです。鏡を見て、左右対称だけど、上下が対照ではないということを誰も不思議には感じていないでしょう? 本当なら感じても不思議はないのに、それを感じる人がいないというのは、鏡を見た瞬間に、それを考えないようにさせる魔力が、鏡の奥の世界には存在しているように思うんです」
「じゃあ、それを感じることができれば、相手の気持ちも分かるようになると?」