小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

オーロラとサッチャー効果

INDEX|11ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 この場合の矛盾というのが何を指すのか分からないが、少なくとも「結界」という言葉が関わっているのは間違いないと思っている。
「あなたは、自分に対して従順な人を求めているのは間違いない。でも、それは過去に出会った人との再会を望んでいるとあなたは思っている。でも、そこには乗り越えなければいけない結界がある。どうすればいいんでしょうね?」
 と、占いのおばさんは、そう言って、翔子に問いかけた。
 翔子は、何も答えられなかった。
「まずは、あなたは自ぶなどうしたいのかを考える必要があるようですね」
 と、占い師は言うと、それ以上何も言わなかった。

                無限ループの矛盾

 占いがそこで終わったというわけではなく、何かを言ったのは間違いないが、その日の夜に夢を見たことが原因なのか、目が覚めると占いで言われたことを忘れてしまっていた。
 翔子はその時、占い師から言われたことを思い出そうとしたのは間違いない。だから思い出せないということを意識したのだ。だが、思い出せないことをショックだとは思わなかった。
――まあいいわ。そのうちに思い出すでしょう――
 というくらいにしか感じなかったのだ。
 だが、翔子が肝心なことを思い出せない性格になったのはそれからのことだった。
「物忘れが激しくなっちゃって」
 と、友達と約束したことが次第に守れなくなり、最初はそう言って苦笑いをしていたのに対し、友達も、
「何よ。おばさんみたいじゃない」
 と言って、茶化していたのだが、物忘れが本当にひどくなり、笑い事では済まなくなると、まわりは誰も何も言わなくなった。
――どうせ翔子に言っても覚えていないんだわ――
 と思っているのだろう。苦笑いすらしなくなった。
 それでも、友達としての地位だけは確保できていたのは、ただの人数合わせだったのか、短大に入ってからは、合コンの人数合わせに利用されるくらいに、付き合いが減ってしまっていた。
 翔子は物忘れが激しくなってから、やたらと夢を見るようになった。その内容はほとんど覚えていないのだが、
――ひょっとすると、いつも同じ夢を見ているのかも知れない――
 と感じていた。
 普段であっても、毎日同じことを繰り返していると、
――あれっていつのことだったっけ?
 と、昨日のことなのか、一昨日のことなのか、はたまた一週間前のことなのかすら、はっきりとしない場合もあるくらいだ。
 ましてや、それが夢となると、余計に分からない。だからこそ、意識から飛んでしまっても無理もないのだろう。
――夢とは目が覚めるにしたがって忘れてしまうもの――
 というのは、本当は、
――覚えていることができない――
 とも言い換えることができるのではないだろうか。
 翔子はそんなことを考えていると、高校時代の占い師を思い出していた。
――あの人は当たり前のことしか私に聞かなかった気がするわ――
 と思った。
――当たり前のこと?
 それはつまり、誰にでも当て嵌まることであり、それを言われると、まるで他の人にはない自分だけのことを言われているような錯覚に陥ってしまった自分を思い出した。
――そうだわ。バーナム効果って言ったっけ?
 短大の授業で、心理学を受講していたが、この間の講義でそんな言葉が出てきたのを思い出した。
 普段は心理学の授業など、あまりまともに聞いていないのに、この時のバーナム効果という言葉が何となく気になったのだけは覚えている。
――どうしてなのかしら?
 なぜその言葉に反応してしまったのか分からなかったが、夢を一度経由すると思い出した。
 普段は意識していることではないが、急に何かの拍子に思い出すことのある占い師のこと。この時は夢を経由して、心理学の講義内容とシンクロしたことで思い出したに違いない。
 翔子は、人と同じでは嫌だと思っていることで、本当ならバーナム効果は否定的な考えのはずなのに、たまに、自分に言われたことが、誰にでも当て嵌まることだという意識があるにもかかわらず、どこか自分にも当て嵌まっていることに矛盾を感じていた。
――私は結局、誰にでも当て嵌まるような平凡な女なのかしら?
 と考えたが、すぐに否定した。
 前に彼氏だった近藤を思い出し、
――あのオトコは彼氏というよりも、自分の奴隷のような存在だったんだわ――
 と、まるで声に出せばセクハラ発言になりかねない言葉を頭に描いていた。
 近藤とはすぐに別れることになった。
 彼がもう少しで翔子のものになろうかという寸前だった。
 翔子は最後まで彼との肉体関係を拒否していた。彼の方では、オトコとしての性癖が露骨に表れていて、その表情はご馳走を目の前にして口から涎を垂らしているオオカミだった。
 翔子は、そのオオカミを手なずけていて、オオカミも従順であった。しかし、ぎりぎりまで性欲を溜めている相手は、爆発寸前でもあった。翔子は自分が危険に晒されていることを意識しながら、ハラハラした気持ちを味わってもいたのだ。
 もし、彼のオオカミが爆発し、翔子が蹂躙されることになっても、それは翔子の女としての魔力が彼を惑わせたのであって、果ててしまった後に残る彼の後悔の念は、その後の彼の運命を決定付けるであろう。つまりは、翔子の肉体が、まさしくアメとムチとして、彼を自分の奴隷として永遠に支配できることを確約できると思っていた。
 しかし、彼は一向に爆発しようとしない。
 翔子は知らなかったが、近藤には翔子の他に女がいた。その女は近藤が翔子にいいようにあしらわれているのも分かっていて、それで彼を手なずけていたのだ。
 近藤も、迷ったことだろう。
 自分は、女に服従するのが運命のように思っていたので、最初は翔子に対して従順だったが、あとから現れた女は、近藤に簡単に身体を許したのだ。
 翔子からはお預けを食らいながら、もう一人の女を貪る。ひょっとすると、近藤はその女の身体を貪りながら、翔子を想像していたのかも知れない。
 その女はそのことまで分かっていた。自分の身体を貪りながら、頭の中では他の女を抱いているという意識を彼が抱いていることをである。
 しかし、彼はそれが本懐ではない。あくまでも抱きたいのは翔子だったのだ。彼女は翔子の代替でしかない。そんなことを分かっているから、翔子にじらされることが余計に彼を追い詰める。
 近藤は、そんな自分の立場をどう考えていたのだろう?
 彼は元々のマゾヒストであった。じらされることで自分の性欲を満たそうとしていた。その思いを彼女は分かっていて、身体を許しながら、彼を蹂躙できることに満足していた。それが彼の本懐ではないと分かっていながらである。そういう意味では彼女もマゾの気があったに違いない。
 お互いにマゾの関係でもうまくいっていたのは、近藤には翔子というサディスティックな女がいたからである。
――翔子さんには感謝しなければいけないわ――
 と思いながら、どうして自分が近藤に惹かれたのか、彼女は分からなかった。
 彼女の名前は麻衣という。苗字が何なのか、近藤は知らなかった。麻衣が教えようとはしなかったからだ。
「あなたには、名前だけ教えれば十分よね」