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オーロラとサッチャー効果

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 学生服にニキビ面の同級生の男の子たちを見て、気持ち悪いという思い以外には何も感じなかった。しかも、彼らからは特殊な臭いがする。独特な臭いで、正直、吐き気しかしなかった。
――こんな連中に何を恋愛感情なんか抱いているのよ――
 と、他の女子を見ていて、彼女たちに対しても気持ち悪く感じる。
「この間、初めて彼としたの」
 などという言葉を聞いただけで、嘔吐を催しそうになる。
 まるで動物としか思えないオスと身体を重ねるなど、信じられなかった。
 そういう意味では近藤にはオトコとしてのフェロモンを感じない。肌は本当に白ヘビのように白いし、きめ細かさはその辺の女性に比べても、
――女らしさ――
 を感じるほどだった。
 翔子は彼に、マッサージをさせたことがあった。身体が疲れていたというのもあったが、彼にマッサージをさせたのは、彼の指の動きを感じたかったからだ。
 正直、マッサージは気持ちよかった。身体が浮いてしまうほどの滑らかさが彼からは感じられた。さらに彼の指の動きからは、指の中の鼓動すら感じられた。
――指が脈打っているようだわ――
 その打っている脈と、自分の胸の鼓動とがシンクロして、さらに心地よさを増幅していた。
――なんて気持ちいいのかしら?
 相手が男性だという意識は完全に飛んでいた。
「彼にこんなことをさせてもいいのかしら?」
 もう一人の自分が翔子に語りかける。
「いいのよ。これは彼が望んだこと」
 と、答えた自分がいたが、これも本当の自分ではなかった。
――私っていったい、何人いるのかしら?
 もう一人、自分がいるのではないかということは、以前から感じていた。しかし、まさかもう一人存在しているのではないかと感じるなど思ってもみなかった。そう思うと、まだまだ自分がいるような気がして、その数は自分が表に出している正確の数だけいそうな気がした。
 自分では一人の性格のつもりでいたが、どうやらまわりには多重人格に見えているようで、翔子がまわりと接触したくないと思っている以上に、まわりも翔子のことを避けていた。
――きっと、まわりも私を見て、気持ち悪いと思っているのかも知れないわね――
 そういう意味でも、なぜ近藤が自分に寄ってきたのか分からない。
 中学時代までの親友だった彼女とも、もうほとんど連絡を取っていない。彼女と一緒にいる時はここまで自分が多重な性格だとは思っていなかったのに、高校生になって感じるようになったのは、彼女というタガが外れたからなのかも知れない。
――いや、彼女の方も、途中から私と関わりたくないと思い始めていたのかも知れないわ――
 と感じたが、その思いは彼女と別々の高校に進んだことで疎遠になったことが原因というよりも、夢の中に彼女が出てくるのを感じたからだった。
 ただ、夢というのは目が覚めると覚えていないものだ。彼女が夢に出てきたという意識はあるのだが、どんな夢だったのかは覚えていない。まるで幻でも見たかのような感覚は、つい最近だったはずの中学時代が、かなり昔のことだったかのように感じさせる魔術のようなものだった。
 そんな時に現れた近藤という男性。彼は忘れかけていた何かを翔子に思い出させる力を持っているような気がした。それが上から目線の自分なのか、自分以外にもう一人以上の自分が存在していることなのか、不思議な感覚だった。
 翔子は、中学時代の親友とは対等の立場だったように思う。
――いや、お互いに相手に対して優位性を持っていて、それぞれのタイミングでそれを表に出すことで、均衡を保っていたんだわ――
 と感じた。
 近藤は翔子に従順であったが、まったくすべてに従順だったというわけではない。彼の中でも結界を持っていて、
――これ以上自分の領域に入ってくると、許さない――
 という思いがあったようだ。
 だが、結界という意味では翔子の方にあり、その幅は翔子の方が大きかった。
 結界というのは、相手に自分の領域に入り込ませないというもので、相手に悟られないようにするものだと翔子は思っていた。その思いは無意識に持っているもので、翔子には自分が彼に対して結界を感じているとは感じていなかった。
 ただ、彼の方には結界という意識は明らかにあり、従順であるがゆえに、その結界を意識していなければ、従順さのために、彼女から離れられなくなると思ったのだ。
 近藤が翔子から離れられなくなると、近藤よりも翔子の方に重荷がのしかかることになる。それは近藤にも分かっていることで、重荷を一緒に背負うのであればそれでもいいのかも知れないが、お互いに違う重荷を背負ってしまうことになるのだが、その思いは近藤は意識できるが、翔子に果たしてその重荷を意識することができるかが疑問だった。
 重荷を意識することができないでいると、いつの間にか自分が疲れ果ててしまっても、その原因がどこにあるのか分からない。いつの間にか身体にガタが来てしまうのだろうが、意識していない場合、それは身体に来るだけではなく、精神的にもガタが来ることになるだろう。
――結界なんて、どうして存在するんだろう?
 自分で意識していて、張り巡らせているくせに、結界の存在を疎ましく思うのは、矛盾していると感じる近藤だった。
 翔子は近藤を見ていていろいろ考えているが、近藤は翔子が考えていることをまったく意識していない。それなのに、結界だけは翔子以上に意識している。二人の関係は、どちらかが意識していないことを相手が意識することで、お互いを補う関係にあり、二人で一人前という関係なのではないだろうか。
 だから、翔子は上から目線であっても、彼には自尊心を傷つけられたという意識がないのだ。結界を意識しない翔子がいるように、自尊心を傷つけられたという意識のない近藤が存在するのだ。
 翔子は以前のことを思い出していると、頭の中が走馬灯になっているのを感じ、現実に引き戻された気がした。
 目の前には先ほどの占いのおばさんがいて、
「どうですか? 今あなたは、今までの自分のことを顧みていたはずですよ。何が見えましたか?」
 という言葉に対し、
「結界……」
 と翔子は一言言った。
「そうね、結界ね。あなたは今までそれを意識していなかった。でも、そのことを意識するようになって、自分が前にも後ろにも進めなくなったのを感じたはずですよ。自分がいるのは真っ暗な世界。そして、足元がまったく見えないことで、前にも後ろにも進めないと思っているんですよね。それを分かっていて、それでも進まなければいけないと思う。ひょっとして、一思いに楽になりたいとでも思っているのかも知れないわね。でも、その気持ちは誰にでもあるものなの。だから、人と同じでは嫌だと思っているあなたには、それを認めることはできない。苦しい思いをしていることで、あなたは不安から抜け出すことができない」
 占いのおばさんは、そこまでいうと、言葉を切った。
――その通りだわ――
 さっきまで疑うことしか頭になかった翔子だったが、本当は藁にもすがる気持ちだったことを思い出した。
――やはり、私の中は矛盾だらけなんだわ――
 と思った。