巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16
バッグから郁が取り出したCDを見て、寂しい気持ちが蘇ってしまう。この俺を置いて、この大好きなバンドのライブに行ってしまう先輩。それを郁に伝えると、残念だったねと少し困ったように笑った。
「俺だけチケットあたんなかったー」
すげー凹む。
「あたしもいつか行けたらいいな」
歌詞カードを覗きながら、郁が柔らかい表情で話す。瑞はその横顔を見つめながら思う。
一之瀬の好きなひとって誰だろう。
そいつとも、こうやって一緒に好きな音楽とか映画とかについて話をしたりするのだろうか。
郁とは様々な場所で同じ思いを共有してきて、趣味であるとか考え方であるとか、そういったものがかなり似通ってきたように思う。それは瑞の思い込みかもしれないし、元々好みが似ていたり考え方が近かったりするだけなのかもしれないけれど。
「ほら、ここの歌詞の和訳とか、すっごい好き」
伏せた睫毛の奥の優しい目を見て、ああ嫌だなと瑞は唐突に思う。
嫌だな。俺の好きな音楽とか映画とかの話を、一之瀬が別のやつと共有して話したり幸せな気持ちになったりするのって、なんか嫌だな。わがままだろうか。これも独占欲だろうか。
俺とだけ話してればいいじゃん、なんて。
どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。
作品名:巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16 作家名:ひなた眞白