巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16
スマホからではなく、すぐ近くで郁の声が聞こえ、瑞は驚く。郁が手を振って駆けてくるのが見えた。
「一之瀬、なんで!?」
「すっごい偶然!あたし、駅前のカラオケにいたから。電話しながら歩いてたら、須丸くんいるんだもん。びっくりしちゃったよ!」
心底嬉しそうに話す彼女の鼻の頭が、寒さのせいか赤くなっていて、かわいいな、なんて思う。かわいい。見慣れない私服だから?いや、違う。
(どうした俺)
瑞を見つけて、駆け寄ってきて、嬉しそうに笑っている。それだけで、なぜかわいいだなんて思うんだろう。嬉しいなんて感じるんだろう。見慣れている彼女の笑顔が、今日は特別なものに思える。不思議だ。迷子の自分を探しに来てくれた、そんな安堵の感覚もあって。
「須丸くん?」
「うん、あ、ほんと偶然…」
瑞は笑顔の郁を前に言葉に詰まる。うまく喋れない。
「なんだよ兄ちゃん。かわいい子がいるんじゃないの。しゃーねえな。はい、やるよ」
中年がコートのポケットから差し出したのは、封筒に入った二枚の紙切れだった。
「え!?これ今日のライブのチケット?しかも二枚?」
ソールドアウトで、もう絶対無理って諦めてたのに!
「こんなおっさんの歌聴いてくれた礼だよ。一期一会ってやつだしな」
「でも自分でコピーしちゃうくらい好きなバンドでしょ?」
賭けだったんだ、と中年は言った。
作品名:巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16 作家名:ひなた眞白