巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16
中年の言葉は物悲しいのに、その口調がやけにすっきりとしているのが印象的だった。そのとき、聴きなれた着信音が響いて、瑞はスマホを取り出した。
電話だ。
『須丸くん?』
「一之瀬、どうしたの?」
柔らかい郁の声。
『今日予定なくてどうしよってこの前言ってたでしょ?どうだったかなって、今日一日』
心配して、気にしてくれていたらしい。瑞の心に、ぽつんと小さく温かな灯が点るような感覚。
「うん、これといって特別なことはなかったけど」
でも。
「でも、楽しい一日だった」
さっぱりとした、爽やかな気分だ。いろんなひとと関わっていろんな思いを受け取ってきたからかもしれない。
「飯でも食って帰ろうかなって思ってるとこ」
『あの、あたし行こうか?ごはん、付き合うよ』
「え、いいの?」
『うん。あたしももう、帰るところなんだ。どこにいる?』
何となく優しい気持ちになって、瑞は少し気恥ずかしくなる。今日は一人ぼっち、なんて言っておいて、いろんなひとに関わって、こうして自分を心配して気にかけてくれるひともいてくれることに、気づく。
「ありがと、俺、駅裏の路地の…」
『あたしもそのへんに…ああっ、いた!』
作品名:巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16 作家名:ひなた眞白