巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16
「ママがお店してるから、おいでよ~」
兄妹の母親は手作りアクセサリーの店を出していて、兄から瑞の話を聞いていたく恐縮した。ビーズや毛糸、ボタンで作られたヘアゴムや指輪、ブレスレットなんかが並んでいて、若い女性が集まっている。
「本当にありがとうございます。この子はもう、兄の言うことを全然聞かないもので」
「いいんです、気にしないで下さい」
それじゃあ、と去ろうとしたとき、兄の方が瑞に何かを手渡した。
「お礼に…って、こんなもので失礼かもしれないけど、よかったらもらってください」
「レシート?」
「駅前商店街で福引きやってるんです。大当たりは海外旅行。俺興味ないから。ニンテンドースイッチならよかったのになあ」
ニンテンドースイッチ…今どきの子だなあ。
(みかんが福引券に変わった。これってわらしべ長者?)
昔呼んでもらった絵本を思い出し、瑞は笑ってしまう。じゃあこの福引券つきレシートで、特賞海外旅行が当たっちゃうのか?
「あたしからはねえ、これ!」
妹の方は母親の店の商品の中から、かわいらしいピン止めを一つ選んだ。シルバーのピンの先に、淡いピンクのガラスストーンがついていて、小さな花の形を作っていた。それを母親が手作りの紙袋に入れてくれる。
「悪いですよ、商品なのに…」
「いいんです、お礼の気持ちですから。彼女さんにでも上げて下さい」
そうして親子はにこやかに手を振ってくれたのだった。瑞は丁寧に礼を言い、その場を離れる。
(こういう出会いもあるんだなあ)
心が晴れ晴れするような出来事に、心が軽くなるのを感じる。
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作品名:巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16 作家名:ひなた眞白