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短編集41(過去作品)

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自信過剰



                 自信過剰



 自分の性格というのを分かっている人が一体どれだけいるだろう?
 自分一人のことであっても、また人との関わりについてもそうなのだが、特に相手が異性ともなれば、なかなか分かるものでもない。男にとって女性が謎であるように、女性にとっても男は謎である。特に好きになったら身体を求め合うという自然なことであるが、その心境がどこから来るのかハッキリと感じたことのある人がどれだけいるだろう。
「身体がお互いに求めるから、それが自然なんだ。細かいことは気にしない」
 それが大方の考えである。
 人を好きになるのは相手の性格を分かることが前提であるが、一目惚れにしても同じこと。相手の表情や雰囲気から推測して自分の好きな性格であると判断するからだろう。
「ビビッと背中に何か電流のようなものが走り抜ける」
 と言われるが、それも冷静な判断の元にあるものではないだろうか。少し冷めた考えかも知れないが、竹下はそう思うのだった。
 そして竹下はいつも考えている。
――誰かを永遠に好きになれるなんてことは、本当にあるんだろうか――
 と……。

 今年で三十歳を迎える竹下は、最近仕事の帰りに居酒屋に寄ることが多くなった。誰かと一緒に呑むわけではなく、一人で呑みに行くのだが、同じ店に何度も通っているとさすがに常連と言われるようになってしまう。元々常連の多い店なので、まったく違和感がない。一人で来て、常連同士話に耳を傾けている人にいつも間にか自分はなっていた。
 一人で行動することに違和感はなかった。大学生になるまでは一人で行動することが多く、友達もそれほどいる方ではなかった。一人が気楽だったというのは友達が少なかった言い訳だと気付いたのは大学に入ってからだったが、大学を卒業して社会に出ると、また一人の生活が戻ってくる。ただそれだけのことだった。
 それでも、一人に戻るのに超えるハードルは高かったのではないだろうか。人と一緒にいることに慣れてしまっていたこともあって、一人が孤独なものだということを初めて知ったのだ。
 それだけに、今までずっと自分のまわりに誰かがいたような人が社会に出て感じるギャップの激しさを思うと、きっとかなりなものだということを感じてしまう。
ハードルを越えるとその先に見えてくるのは、自分の性格だった。
――今まで自分に自信を持ったことなどなかったな――
 今さらながらに感じることだった。高校までずっといつも一人でいたのも人と一緒にいて皆から自分の性格を指摘されることを無意識に恐れていたのかも知れない。
 竹下は自分に自信を持てなかったが、ある程度状況の先読みをする方だった。いつも一人でいる時、何かを考えているようなタイプで、我に返るとその時に何を考えていたかを忘れてしまうほど自分の世界を別に作っていた。他の人が立ち入ることのできない厚い殻を作って、その中で自分を包み込んでいる。
 それがいいことなのか悪いことなのか分からない。もちろん三十歳になった今でも分からない。
 それでも大学時代は友達の多い方だった。
――今までの人生の中で一番輝いていた時期だな――
 と感じる。
 高校時代までは一人孤独な人が急に大学に入ると何かが弾けたように性格が変わってしまうことがあるらしいとは先輩から聞いていた。もちろん一人一人性格も違うだろうが、無意識のうちにまわりの雰囲気に乗せられる人もいるだろう。大学のキャンパスというところはそういう魔力を持っているのは事実である。
 だが、竹下の場合は、そうではなかった。自分の意識の中で、
――大学に入れば性格を変えてやる――
 という意志がハッキリとしていたのだ。先輩が話していたように何かが弾けたように性格が変わる場所だということを分かった上で、それならば自分の性格を変えられるはずだという思いを強く持っていた。
 教室に入ると、隣に座った人に積極的に話しかける。
 まずはそこから始めることにした。
 相手も話しかけられて嫌な気がしないのが大学のキャンパスの魔力である。話しかけられて嫌がるような人は露骨に顔に出ている。見ていて分かる。高校時代までの竹下には分からなかっただろう。なぜなら露骨に顔に出ているような人を見ていると、高校時代までの自分の気持ちになれるからだ。
――なるほど、これでは話しかけにくいわけだ――
 と感じるのも当たり前のことである。
 次第に友達が増えていき、短期間に一気に増えた。夏休みまでにかなりの友達ができたが、それ以降は少し友達を増やすのをやめることにした。
――あまり増えすぎるのも考えものだ――
 と思うようになったのは、竹下自身が自分に自信がないことに起因している。
 何か悩みがあって人に聞いてもらいたいことがある時には、たくさんの人の意見を聞きたいと思うのも無理のないことだろう。しかし、あまりたくさんの意見を聞くと却って頭が整理できなくなる。一人一人性格が違うのだから、同じような意見でも肝心なところが違っていたりするものだ。
――人に意見を聞くときは、ある程度自分の中で考えをまとめておかないと、混乱するばかりだ――
 と思うようになった。
 竹下の友達の中にあまり人に相談することのないやつがいるが、たまに相談を受けることがある。竹下以外にも数人に聞いているらしいが、
「やつが人に意見を求める時は、すでに自分の中で考えがまとまっている時さ」
 と彼にもっとも親しいやつは語っている。まさしくその通りだろう。またその方が意見する方も気が楽である。あまり自分の意見を真剣に聞いて、そのまま実行されるよりも、真剣には聞いてくれるが、参考意見程度に聞いてくれる方が話していて気も楽だし、結構大胆な意見が言える。そう感じると、自分も人に意見を聞く時は、すでに考えを固めてからにする方がいいと思うようになっていた。
 だが、それに気がついたのも大学卒業前くらいなので、それまでの相談は、結構まとまっていない考えの元に相談しているので、頭で整理できないことも多かった。友達を増やすのをある程度抑えようと思ったのは、そんな気持ちが強かったからだ。
 大学三年生くらいになると、今度は社会に出てからの不安が付きまとってくる。人生を先読みして不安に感じることがいいことなのか悪いことなのか分からないが、少なくともあまり自分に自信を持っていない竹下にとってはあまりいいことではないだろう。
 自分でも短所だと思っているが、心の底で、
――本当に短所なんだろうか? 先読みできるだけいいのではないか――
 と思っているから始末が悪い。まわりの楽天家の人たちを羨ましいと思いながらも、先を見通せない人たちに向って、
「せいぜい、今のうちに楽しんでおくがいいさ」
 と自分を擁護する考えに向いがちだ。これでは自分をますます孤立化させることになるのだが、それでも人に染まるよりはいいと感じていた。この頃からだろうか、また一人で考える時間が増えてきたのだ。
作品名:短編集41(過去作品) 作家名:森本晃次