短編集41(過去作品)
トンネルの中で黄色く光った顔を見ているようだ。どんなに笑顔でも、無表情に見せるトンネルの中の色は、オレンジ色というべきか、それとも黄色というべきか。
「あれは黄色だよな」
友達と話したことがある。友達もまったく達男と同じ意見で、黄色だということに落ち着いたのを思い出していた。
桜の木を見た最初、裕也と出かけた断崖で見た色も黄色だった。黄色を見た時に、桜の木のシルエットを感じたというのはただの偶然だろうか?
おばあちゃんの病室から見えた夕日も黄色かった。だが、同じ黄色でもオレンジ掛かっていたので、あまり黄色を意識していなかった。
公園で見かけた横顔、どこかで見たことのある顔だと思っていたが、裕也に似ていなくもない。歳こそ取っているが、中学の時に一緒に断崖から見ていたあの時の顔に似ている。
――だが、あの時はこんなに生気のない顔ではなかったのに――
と感じたが、最近裕也が悩んでいることは風の噂で聞いていた。
父親の突然の死によって、いきなり会社を任されたのだから、いくら裕也といえども大変でないはずはない。あの時に予感があったのだろうか?
後から聞いた話で、あの断崖で自殺を試みる人が後を絶えないらしい。だが、実際に死ぬことができた人はあまりおらず、何らかの形で生き残るという。生き残った人々の口から桜の木を見たという話が聞かれたらしい。
当たらなければいいのにと思っていた悪い予感、不幸にも的中してしまった。裕也が虫の息の中で呟いた言葉に、
「桜が……」
という言葉があったらしい。葬式に参列した帰り道、ふと入り込んでしまった住宅街。知らないところではまるで迷路のようになっていて、気がつけば、また同じところに出てきている。
街灯がやたらと黄色い。その向こうでシルエットに浮かんでいる木は、まさしく桜の木ではないか。
――次は自分だ――
死を考えたこともないはずなのに襲ってくる死への恐怖。桜の木がシルエットに浮かぶ黄色い光を見た時、死への入り口を垣間見たように思えてならない。まるで死というものが人から伝染するもののように信じて疑わない自分に気付いていた……。
( 完 )
作品名:短編集41(過去作品) 作家名:森本晃次