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短編集41(過去作品)

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――あの時にもう少し熱意を見せていればよかったかも知れない。やっぱり覚めた性格なのかな――
 悔やんでも悔やみきれない。自分のことを理解するということは、それまでにあったいくつかの分岐点が及ぼした結果を考えなければならないことに繋がっているのだ。
 だが、それから二年もすれば親の見方も変わってくる。裕也が遊びに来た時、親の前で「田舎に遊びに来ないか?」
 と話してくれた時には、
「行ってらっしゃいよ」
 と薦めてくれた。後で裕也に聞いてみると、
「そろそろいい時期じゃないかと思ってね。君が親に対してコンプレックスを持っていたのは知っているし、その原因が二年前に遊びに来れなかったことだというのも分かっていたからね。それに達男にもうちの田舎に来てもらいたいって気がしたんだ」
 今度は二人だけでの旅だった。達男にとって今までになかったほど、心が弾むことだろう。
 裕也の田舎には、おじいさんおばあさんが住んでいるらしい。大きな屋敷だそうで、時々おじさん夫婦が様子を見に行っているので安心なのだが、裕也のことを気に入っているらしく、遊びにいくと喜ぶのだそうだ。定期的に遊びに行っているが、たまには友達を遊びに連れて行くのも賑やかでいいらしく、たまに誘っているのだ。本当は一番がよかったのだが、それは叶わぬ夢となってしまったが、ある意味一番の成長期で、何でも吸収できる今の時期が一番なのかも知れないと思う達男だった。
 今回の旅行は裕也の意見もあって、裕也の田舎だけが目的ではない。近くには観光できるところや、釣りを楽しむところもあるらしく、釣りの好きな裕也に釣りを教えてもらうという目的もあるのだ。
「釣りは結構面白いぞ。僕が親から連れられて行ったところがあるので、そこに行ってみよう」
 砂浜や近くには磯もあるようで、入り江になった一帯は、魚の宝庫だそうだ。釣りのガイドブックには載っていないらしい。あまり知られていないのは、それほど広い範囲の砂浜でないところや、車で入り込むには道が整備されていないのが理由となっている。
「だけど、景色は最高なんだよな。楽しみだよ」
 と裕也は話していた。
 釣りをしたことは一度もない。だが、友達との旅行が最初の釣りというのもオツなものである。最初は、
――せっかくの旅行なのに、釣りなんて――
 と感じたのは、初めての旅で相手にすべてを任せることに対してのわだかまりがあったからだ。
 小さい頃には毎年のように旅行に出かけていたが、決して「旅」ではない。自分の意志が働かなければ旅だとは言わないと思っていたからである。そういう意味で、友達の田舎に行くことに自分の意志を絡めたいと思ったのだ。
――旅行という広い範囲の中に自分がしてみたい「旅」がある――
 これが旅行に対して感じていることだった。
 だが、考えてみれば釣りをしてみたいとも以前から思っていた。土曜日の朝などテレビで釣り番組をやっていると思わず見入ってしまうことがあるくらいで、釣り自体に興味があるというよりも、あまり意識したことのない海や磯というものを見つめていたといっても過言ではない。あくまでも無意識なのだ。
 旅行に出かける日が近づいてくると、自分の中で言い知れぬトキメキを感じるようになっていた。まだ見ぬ田舎というものに思いを馳せる。
――本当に田舎を知らないのだろうか――
 という思いが頭を巡る。
 夢を頻繁に見るようになる。夢の内容は旅行に関係のある夢ではないのだが、今まではあまり見ていなかったと思っていた夢を見るのだから不思議であった。
――それだけ眠りが深いのかな――
 元々すぐに眠くなる方で、午後十一時を過ぎると目を開けているのがやっとということも多かった。そのくせ目覚めがすっきりしているわけではなく、完全に目が覚めるまでには時間が掛かる方ではないだろうか。
 夜中に目を覚ますこともあまりない。熟睡していることには違いないのだろうが、なぜか夢を見た記憶が残っていないのだ。
「俺なんか、夜中は二時間ごとに目が覚めることもあるよ。でもそんな時に限って夢を見ているんだよね」
 裕也との話の中で、眠りについて話をしたことがあったが、その時に裕也が話していたことだ。
「夢の内容を覚えているのか?」
「その時は覚えているんだよ、目が覚める時っていうのは、必ずちょうどいいところで覚めるもので、いい夢だったら、残念だと思うし、怖い夢だったら、よかったと思うんだよ」
「そんなものかな」
 話を聞きながら納得したつもりだったが、どこか釈然としない。
 確かに達男が夢を見たと感じて起きる時も、
――ちょうどのところだったな――
 という思いで目が覚めることが多い。逆に考えれば夢を見ていないと思っているだけで本当は見ているのかも知れないとも考えられる。自分にとってちょうどのところで目が覚めたわけではないので、覚えていないだけではないのかと思う。
 夢というのは潜在意識が見せるものだというではないか。自分の中で納得できる内容を夢の中で完結できれば、夢を見ていたことさえも忘れてしまうのかも知れない。それだけ夢の世界と現実の世界との境は、自分で考えているよりも大きいと言えるだろう。
 これはあくまでも達男だけの考え方である。他の人に話ができるほど達男はこの考えに自信を持っていない。もし反論を唱えられれば、それに対してのさらなる反論をする自信がない。想像力はあるつもりだが、説得力に欠けるのはまだ若いからだと思っていた。だから裕也と話をしていても、何となく釈然としなくても、それ以上夢についての会話を続ける気はなかった。
 だが、裕也はどうだったのだろう? どちらかというとこういう話が好きなタイプに思えるが、裕也もそれ以上の会話を続けようとしなかったのは、逆に裕也は裕也なりの考え方を持っているからだろう。そのことに気がついたのも旅行に出てからだったように思える。
 裕也の田舎に行く前に、最初に釣りを楽しむことにした。裕也の話していた釣りの穴場は早朝から出かけるのがいいらしい。最初に近くの宿に泊まって温泉に入り、おいしいものを食べてから釣りに勤しむ。
――それもよかろう――
 予定が決まってから達男の頭の中にはそのことばかりが残っていた。
 釣り道具といっても、それほどたくさんはない。大きなものは、あらかじめ宿に送ってしまえば、後は大した荷物でもない。途中までは特急電車での旅、そこから先は海岸線伝いにローカル線を使うことになる。
 特急電車に乗っている時間があっという間だったような気がするわりには、海岸線を走るローカル線では、なかなか時間が経たなかった。車窓からの風景が飛ぶように変わっていった特急電車に比べて、ローカル線からの車窓はほとんど変化がない。特急電車での二時間がまるで三十分くらいに感じてしまうほど、ローカル線はゆっくりと進んでいる。
 普段ならイライラが募ってきてもおかしくないのに、その日は不思議と落ち着いていた。まったく変化のない景色を見ながら気がつけば何かを考えている。今までにはなかったことである。
作品名:短編集41(過去作品) 作家名:森本晃次