小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

リミット

INDEX|6ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

 普通では考えられない発想だった。
――そんなことってありえないな――
 と思いながら、自分には、相手への観察力よりも、妄想力の方が強いように思えてきた。
 文章にするとあっという間のことであるが、実際に掛かった時間は結構なものだった。一つのことを思うと、ずっとそれが頭を離れずに、ずっと考えている。それが何日も続き、終わらなかった。
――こういう発想は、最初に感じたことが一番的を得ていて、それ以上考えようとすれば次第に的から遠ざかっていく――
 つまりは、最初に的を得ることができなければ、永遠に悩み続けるだけのことだったのだ。
 幸一は、理美のことを想像すると、他の人ではできないような想像ができることが、一目惚れの一番の原因だったのではないかと思うようになっていた。
 それは勝手な想像でしかないのだが、思ったよりもリアルで、今まで想像力に関してはあまり達者ではないと思っていた自分が不思議なくらいだった。
「待った?」
 と聞かれて、何と答えようか、考えてみた。
「そんなに待ってないよ」
 と、答えるのが、デートでは鉄則なのかも知れないが、それでは面白くないように思えた。
 デートの待ちあわせに「面白さ」など必要はないのかも知れないが、理美には楽しみを与えてあげたい気がしていた。やはり父親のような感覚にもなっているのではないだろうか。理美から、
「私、お父さんいないの」
 と聞かされて、ドキッとした。
 何となく分かっていたような気がしたからだ。甘え下手なところもそうなのだが、理美はこちらが聞いてもいないのに、自分から答えたことで、却ってこちらから質問する機会を奪われた気がした。
 しかし、それは幸一にとって不幸中の幸いでもあった。
 もし、今度のように唐突に言われたのではなく、話の流れから出てきた言葉であれば、幸一の方から、何かを聞いてあげないといけないようなシチュエーションを感じる。
 幸一には、
――聞いてみたい――
 という思いは十分にあったのだが、実際に考えると、
――何を聞いていいのか分からない――
 という思いだけではなく、
――本当は、聞いてはいけないことなんだ――
 という思いがあり、きっと言葉に詰まったことだろう。
 聞いてはいけないという思いは、理美に対して、気を遣って聞けないという思いと、幸一自身、
――僕には聞く権利はないんだ――
 というなぜか権利の問題に発展しそうだった。
 最近知り合ったばかりの相手に、何をここまで気を遣う必要があるのか、幸一は自分でもよく分からなかった。
 ただ、相手に気を遣うことがこれほど心地よいことだということを、幸一は今まで知らなかった。理美にお父さんがいないという話を聞かされ、胸の奥がドキドキしてくるのを感じると、
――理美が今までどれほどの寂しい思いをしてきたのだろうか?
 と思うようになり、これまで幸一の知らない理美の今までの人生を想像しようとしているうちに、たまらない気持ちになってきたのだ。
――この娘に、寂しい思いをさせたくない――
 その時の幸一の気持ちを支えていたのは、この思いだったに違いない。
「少しだけ待ったよ。でもね、絶対に来てくれると思っている人を待つのって、本当に楽しいものだよ」
 幸一は、どう答えようかと、本当は気持ちの中で固まっていたわけではないが、
「下手な考え、休むに似たり」
 というではないか。
 何も考えずに答えたとしても、同じことを口にしたかも知れないと思うのだった。
 理美は、幸一の返事を聞いて、幾分か涙腺が緩んでいるように見えた。
――そのまま泣き出してしまうんじゃないか?
 と思ったほどで、しばらく理美から言葉が返ってくる様子もなかった。
 かといって、幸一の方から話しかけるわけにはいかない。何か返事を返そうと思っているのは伝わってくるので、少々の膠着状態くらいは、気にしなくてもいい。
「絶対に来てくれると思ったの?」
 理美がしばらくしてボソッと答えたが、幸一の言葉のどこに反応するか気になっていたが、まさか、
「絶対に来る」
 というところに反応するとは、想像していなかったので、今度は、幸一が戸惑ってしまった。
 しかし、この言葉に反応したということは、今まで理美は誰かと待ちあわせをしていて、待ちあわせをした相手が、
「絶対に来る」
 という確信が持てないでいたのかも知れない。
 確かに絶対というのはありえないことであるが、それでも自信を持って口にされると、ありえないことであっても、あり得ることに思えてくるような気持ちになるというのも、心の奥にしまいこんでいた感覚ではないだろうか。
 それは幸一に限ったことではなく、誰にでもあり得ることであるが、表に出してしまうと、
――本当に来る相手であっても、来なくなることがあるかも知れない――
 という逆の心理が働くとも考えられる。
 幸一も、今までに何度も人と約束をした。
 相手が女性で、しかも、まだ付き合うかどうかハッキリしていない相手との初デートの時など、期待と不安が入り混じる緊張感の中、気が付けば、相手に対して、
「絶対に来てほしい」
 と、願いを込めている。
――来ないかも知れない――
 絶対に相手が来るとは限らないという気持ちの中で、時間が経つにつれて、そう思うようになってくる。それは、最初に期待しすぎていたために、万が一だと思っていた確率は、次第に現実味を帯びてくると、今度は、自分の中で、
――なるべくショックを少なくしたい――
 という、絶対に来ると思っていた相手に対し、かなりの確率で、来ない方に傾いた時に働く防衛本能が、幸一の中で現実味を帯びてくるのだった。
――そんな思いを何度したことか……
 幸一は、黄昏気味に考えてしまう。
 しかし、この時の理美に関しては、
「絶対に来る」
 という思いが変わることはなかった。早く来てくれたからというのもあるが、理美が来ないという思いが、頭に浮かんでこなかったからだ。
 理美は笑顔を浮かべていた。今までに何度も女性の笑顔を見てきたつもりだったが、それらをすべて頭の中で打ち消してしまいそうなほど、ドキッとするものだった。
 理美の笑顔は自然であり、自然さが新鮮だった。どこに自然な感覚を覚えるのだろうと思ったが、あどけなさがすべてであることにすぐに気付いた。
 しかも、その笑顔は、今まで知っている女性の笑顔とは違ったものだった。
 どこが違うのか、最初は分からなかったが、他の女の子の笑顔には、不特定多数の人に対しても同じような表情をするんだろうなと思わせるものがあったが、理美に関して言えば、
――この笑顔は、誰か一人のためにできる笑顔なんだ――
 と感じさせるものだった。
 不特定多数相手にする笑顔とは一味違ったものを感じる。その顔にはあどけなさの中に、相手を見つめる視線を、一度見つめられると、逸らすことのできない雰囲気を感じさせ、
「この人と、初めて会ったような感じがしない」
 という気分にさせられる。
 しかも、理美に対してだけは、その思いが錯覚ではないと思わせるに十分なオーラを感じる。
作品名:リミット 作家名:森本晃次