小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

リミット

INDEX|31ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

「理美は、あの時、誰にも会いたくないということで、この私にもメール一本よこしただけで、私の前からも消えてしまったんです。私もハッキリとした理由は分からないので、私もビックリしていますが、そんな時にあなたが訪ねてきた。私も自分が混乱しているということもあって、あなたに対して、突き詰められると、きっと邪険にしたと思います。私は人を邪険にしたくなかったので、苦し紛れでしたが、知らないと答えたんです」
「そうだったんですか」
 他の人はともかく、未来が理美のことを知らないということはありえないと思っていただけに、未来の話を聞いて、目からうろこが落ちたような気持ちになった。
 しかも、これだけ時間が経っているので、黙っていれば、自然に忘れ去るのを待つことができるのに、それをわざわざ言いに来るというのは、律儀という言葉だけで片づけられるものではないだろう。
 そう思うと、幸一は未来という女性に大いに興味を持った。
 二人が急接近するまでに時間は掛からなかった。冷静に考えれば、
――なるべくしてなった関係――
 と思えるはずなのに、幸一は、
――唐突に訪れた幸運――
 だと思った。
 自分で引き寄せたにしても、本当に運命のように、見えない何かの力が働いたことによって得られた幸福であったにしても、それは、幸一にとって最高の幸せであるに違いなかった。
 未来が幸一を誘惑したのだという発想は、幸一の中にはなかった。だが、その発想が幸一になかったことで、未来の中にあった計画はスムーズに進むことになった。
 未来は、理美に比べて積極的だった。目的に向かって、まるで無駄な動きをしない。だが、そう感じさせたのは、未来があくまでも冷静だったからだ。
 幸一には、冷静な未来が見えていた。頭の中から理美のことは消えていたが、それも冷静沈着な未来がそばにいることで、理美の記憶がなくなってしまったのだということは分かった。
 未来を抱いたのは、未来が最初に幸一を訪ねてきてから、ちょうど三か月が経った頃だった。
 幸一は女性経験がないわけではなかったが、女性と交わってしまうと、何となく付き合いがぎこちなくなってしまい、抱いてしまったことがターニングポイントになり、別れに向かってまっしぐらということが、今までのパターンだった。
 理美とは、身体を重ねるところまで行かずに別れてしまったが、その親友である未来とは、身体を重ねることになった。幸一の中で少なからずの罪悪感があったのは仕方のないことなのかも知れない。
 したがって、今まで付き合った女性と、二度目の性交渉はほとんどなかった。どちらからともなく、二人きりになることを避けるようになっていたのである。そんな息苦しい関係が、そんなに長く続くわけもない。
 だが、未来との付き合いにそんな心配はなかった。
「ここから先が、私たちにとっての『未来』なのよ」
 という未来の言葉に、幸一は黙って頷いていた。
 最初に身体を重ねた時、主導権は未来にあった。
 初体験の時は別として、それ以外の時の主導権は必ず幸一だった。幸一が好きになって付き合うようになる女性は、控えめの女性が多く、主導権は必ず幸一が握ることになる相手ばかりだったのである。
 それなのに、未来の場合は、身体を重ねた時だけではなく、一緒にいる時、そのほとんどの主導権は、未来にあった。今までの幸一なら、プライドが許さない感覚に襲われていたのだが、
――僕は何てくだらないプライドに縛られていたんだ――
 と思えるほど、未来と一緒にいることで、それまでの自分を未来によって否定されたにも関わらず、気分はスッキリとしたものだった。
 未来とのセックスは、それまでの女性とは違っていた。乱暴なところがあると思うと、肝心なところで甘えてくる。一旦落としておいて引き上げてくるタイミングが絶妙なのだから、相手に主導権を握られたとしても、それをくだらないプライドが邪魔をすることはなかった。
――未来は、Sなのだろうか?
 と思ったが、それ以上に、女性というよりも、男性的なところのある女であることを、今さらながら気が付いた。
 そして、自分は今まで決してMではないと思っていたはずなのに、その思いが覆される日がやってきたのだと感じた。
――未来の前であれば、Mであっても構わない――
 それは、自分を曝け出したいという気持ちの表れであるということだろう。
 幸一はその時、未来のことしか見えていなかった。だが、最初に身体を重ねた時、幸一には、それまでに感じたことのない違和感があった。それは、快楽に蝕まれる自分の身体を意識したことだった。
 だが、それは一瞬だけのことで、すぐに未来の身体に、頭は支配された。
 違和感を与えたとすれば、それは理美以外に考えられないが、自分の前から姿を得した理美が、今さらどう自分に影響を与えようというのか、幸一には分からなかった。
 未来への印象が急に変わったことに気が付いた。
 最初の数か月は、確かに自分の知っている未来だったが、途中から、顔や身体は未来なのに、途中から、急に違う女になった。どこが違うのかと聞かれても、
「インスピレーションが違うと言っている」
 としか答えようがないが、未来の中に、血が通っていないかのように思えたのだ。
「ねえ、セックスって、子供を作るためだけのものだっていう考え方は、おかしいのかしら?」
 未来が急にそんなことを言い出した。しかも、さっきまで幸一の腕の中で乱れていた余韻を残した状態でである。
「それじゃあ、あまりにも寂しいんじゃないかな?」
「じゃあ、寂しいってどういうこと? 人って、一人で生まれてきて、一人で死んでいくものじゃないの?」
「人に限らず、生あるものは皆君の言う通り、一人で生まれて一人で死んでいくものだけど、でも、少なくとも生まれる時は、母親のお腹の中からでしょう?」
「そうね、でも、私は寂しいという感情が時々分からなくなるの。寂しいのと孤独ってどう違うのかしら?」
「寂しいから孤独だとは限らないし、孤独だから寂しいとも限らない。僕はそう思う。人によっては、孤独だから寂しいと思っている人がいるようだけど、僕はそうは思わない。孤独と、寂しさというのは、別物だと思うんだ」
「私は同じ意味だって思ってた」
「それは危険な発想なんじゃないかな? 一人でいることが寂しいんだったら、自分の時間を持つことなんてできなくなってしまう。人と協調することを考える人間ばかりが増えてしまったら、個性なんてなくなってしまう。そんなことになってら、世の中は、一人の独裁者が現れるのを待つだけになってしまうんじゃないかな? もっとも、独裁者が出てくるのは、何もそれだけの要因ではないと思うけどね」
 未来は、それを聞くと、身体を幸一から離し、天井を見つめていた。見つめているその先には天井しかないはずなのに、その横顔からは、未来がさらにその先を見ているように思えてならなかった。
 それにしても、その日の幸一は変だった。「寂しい」、「孤独」というキーワードから、なぜにいきなり「独裁者」という発想が生まれるのだろう。確かに幸一は自分の中で、奇抜な発想が時々生まれることを感じていた。
作品名:リミット 作家名:森本晃次