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リミット

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 もちろん、永遠という言葉をそう簡単に口にできるものではないという思いは強かった。しかし、それは自分にできることなのかどうかということが意識の根底にあるかどうかが問題だったからだ。
 この時代でタブーとされていることを、誰かの口から聞くだけで、どれほどドキドキさせられるのか、きっと他の人に分かるはずもない感覚だと思っていた。
 だが、その感覚を同じように感じているかも知れないと感じさせる相手がいた。それが未来だったのだが、未来に感じたことをそのまま晃司に感じるようになるとは、その時にはまったく分からなかった。
 理美が最初に過去に行ったのは、高校を卒業してからだった。それまで三年以上を費やしたわけだが、それは決心するのに、それだけの時間が掛かったわけではない。本当は一度高校生になってから、過去に行ってみたことがあった。過去の世界は高校生になった理美が想像していた世界と、ほぼ変わっていなかった。もし、違った世界が広がっていたのなら、その時に、何か行動を起こしていたのかも知れない。その時想像していた通りだったことで、晃司の話の信憑性を、疑ってみたくなったのだ。
――これじゃあ、私の出番なんてないじゃない――
 晃司に言われたのは、
「君が想像している過去の世界とは、かなり違ったもののはずだから」
 という前置きがあったにも関わらず、想像していたのを同じだったことで、理美は頭の中が混乱していた。
 そこで、未来の晃司に連絡を取ってみた。
「なるほど、そういうことだったので、どうしていいか分からずに僕に連絡をくれたわけだ」
「そうなんです」
「今のまま行動しても、いい成果は得られない。仕方がない。もう少し待ってみよう。大学生になった君がもう一度過去に遡って、それで見た世界がどうなのか、見てもらうことにしよう」
 今から考えれば、過去が変わっているのは当たり前のことなのかも知れない。その世界というのは、晃司に言われて、
「変わっているはずだから」
 というだけで、何が変わっているのか教えてくれなかった。
「それは教えるわけにはいかない。先入観が植え付けられてしまうと、見えるはずのモノが見えなかったり、見えないはずのものが見えたりする」
 ということは、変わっているはずのものが変わっていない可能性もあるのだ。
 さらに過去の世界と言っても、一瞬一瞬で、未来にどのように影響するか、抽選が行われているのかも知れない。パラレルワールドが無数に存在するのも、時間ごとの抽選が無数に存在することを示している。無数の抽選は、先入観があっては、見えるものも見えてこない。それを思うとまだ、高校生になったばかりの理美に時間の流れを理屈では理解できても、実際に目の当たりにした時に、信じるだけの意識が備わっているかどうか、疑問である。
 理美は、今自分が頭でっかちになっていることに気付いていた。理美の気持ちに何か変かがあったことに気付いた未来は、
「理美とずっと一緒にいたけど、あなたが今何を考えているのか、少し分からなくなってきたわ」
「そう、実は私も分からないの。未来からひ孫に当たる人がやってきて、過去に起こったことを正さなければいけないって言ってたんだけど、その役割がどうして私なのかが分からない。しかも、彼の話では、『ダミー人間』も連れていくように言われたんだけど、どうしてなのかしらね」
 というと、未来はさらに訝しい表情になった。
「『ダミー人間』がどうして必要なのかしらね」
「考えられることとしては、何かの身代りにできるということかしら? 私が行くように言われた過去には、『ダミー人間』というのは存在しないらしいの」
「そういえば、その指定された過去にいるあなたのお父さんに当たる人というのは、どんな人なのかしらね」
「未来から来た人の話では、一人でいることの好きな人だということ。孤独と寂しさを一緒に考えない発想を持った人だっていうことだけど、過去の人たちって、一緒に考える人が多いのかしらね」
 その会話から、理美の時代は、孤独と寂しさを分けて考える人が多かったようだ。
 それだけ、言葉というものを真剣に見つめ、惰性で生きている人が少ないということなのか、それとも過去の人たちが、本当に心の中が寂しい人が多いということなのか、一度見てきただけでは、すぐに理解できるものではない。
「自分だけの過去を見に行っただけなのに、そう簡単に理解できない自分がもどかしかった」
 と理美が言うと、
「じゃあ、今度は私が見に行ってあげましょうか?」
 と、未来が言ってくれた。
 タイムマシンは数人で乗ってもいいように設計されていた。しかし、自分のタイムトラベルに他人を巻き込んでもいいものだろうか。またしても、晃司に相談してみた。
「未来ちゃんを過去に連れて行くのは問題ないです。実際に彼女の目に何が映るかということにも僕には興味があるんだ。だけど、君たち二人は、一度一緒にタイムマシンに乗ったら、帰りも二人一緒に帰ってこなければいけないんだよ。それをしっかりと肝に命じておくんだね」
 と話した。
 理美はその時の晃司の様子がいつもと違っていることに気付かなかった。どこかつっけんどんな雰囲気だったが、本当はその時に理美は気付いておくべきだった。
「ありがとうございました」
 と言って、電話を切ったが、切った後になって、晃司の様子が少しおかしかったことに気が付いた。ただ、それは晃司が何か気がかりなことがあったわけでも、理美の提案に対して訝しい気分になったからではなかった。それを知らない理美は、電話を切ってしまったことを後悔したが、仕方がない。動き始めた時計の針を止めることは、理美にはできなかった。
 過去に未来を連れていくということがどういうことなのか、その時の理美には分からなかった。それは晃司にも同じことで、それが自分たちにどういう影響を及ぼすのか未知数だった。
 しかし、それは避けて通ることのできない道だったのは確かで、晃司が理美の話を聞いて、訝しい気持ちになったのは、仕方がないことだ。
 それにしても、晃司の助言が入る前に、よく理美は未来を自分の過去に連れて行くことを思いついたものだと感心していた。
「未来という女の子が、理美の過去の世界に大きな影響を及ぼしていることは確かなんだ」
 それがどういうことなのか、晃司にも漠然としてしか分からなかった。
 だが、それは理美が自分で納得して、
「時間の法則に逆らう」
 という気持ちにならないと、そこから先の未来は開けない。それが過去に戻っての「歴史の浄化」であり、理美でなければできないことだった。
 それは理美が女性だからだということもあるが、ただ女性だというだけではなく、理美の父親との間に生まれた感情がどういうものなのか、理美はその時まだ想像もつかなかった……。






























                  第四章 理美にとっての真実
作品名:リミット 作家名:森本晃次