小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

リミット

INDEX|28ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

「そうね。人と決して交わることのないものをいつも感じていたわ。それが平行線であれば分かる気がするんだけど、そうじゃないのよ。今までに接点があったとは思えないし、これからも交わることは絶対にないと思っている。これって矛盾よね」
 未来が話していることは、結界についての話なのに、理美は違う話をしてしまったと思った。
「それがあなたの結界なのね?」
 と言われて、理美はハッとした。
 今まで人との間に交わることのない感覚がずっとあったのだが、それを表現する術を持たなかった。
 未来はそれを、「結界」だと教えてくれた。
 理美の中で漠然としてではあるが、結界という言葉に少し違った意味での発想があったのは事実だ。それを表現することができずに、人と交わることのない感覚を言葉に表したとすれば、それが結界になるなど、今までに考えたこともなかった。
「理美は、私の親友だからね」
 親友という言葉を先に使ったのは。未来だった。
 理美と未来を比べれば、まわりの人から見れば、性格的には正反対、光と影、明と暗、白と黒、いろいろ表現ができるだろうが、そのどれにも当て嵌らないようにも見えるが、どれか一つが当て嵌まっているように見えると、そのすべてに当て嵌まるのが、理美と未来の関係だった。
 それを親友という言葉で表すとすれば、少し陳腐な気もしたが。今のところ、それ以外の言葉で表すことができない。
「そうね、でも、私たちの関係を言い表す本当に適切な言葉が、もっと他にありそうな気がするわ」
 と、理美は答えた。
「もし、光と影で言い表すとすれば、私が光で、理美は影なのかも知れないわね」
 理美もそう感じていたが、未来が自ら言葉にしようなどと、想像もしていなかった。
 理美と未来は、親友という意味だけではなく、もっと深い関係に入っていった。そこには、お互いの共通の意識として、
「血の繋がりへの意識」
 というものがあった。
 血の繋がりを異常に意識するこの時代だが、そのことは他の人には意識がなかった。他の時代がどうであったかということが分かるわけはないからである。慣習的なことは、口で伝えていうものであり、なかなか歴史上、重要な文献に書面として残っているものではない。
 なぜなら慣習とは漠然としたものであり、生活や風俗のように、人の話として言葉に残せるものではないように思えるからだ。
 血の繋がりを意識しているというのは、道徳問題とも密接に繋がっていることもあり、問題としては、デリケートな部分を含んでいる。それを思うと、他の時代との比較だけは絶対にさせてはいけなかった。
 理美がこの時代に血の繋がりが異常に強く意識されていると思ったのは、他の時代と比較していうわけではない。理美の意識の中で、
「異常だ」
 と感じただけで、理美本人の感性によるものだと言っても過言ではないだろう。
 その思いを他の人は感じることはできない。あくまでも自分だけの感覚だと思っていた。他の人誰にも言えることではないと心の奥にしまいこんでいた。
 だが、もう一人理美と同じ感覚を持った人がいるのを知ることになったのだが、それがまさかこんなに近くにいようとは想像もつかなかった。未来はクラスこそ違えど、同じ学校の同じ学年だったのだ。
 その時、理美が感じたのは、
「こんな身近に一人いるんだから、実際には、もっとたくさんの人がいるのではないだろうか」
 ということだった。
 だが、その発想は思い過ごしだった。
 なぜ、そのことが分かったかというと、
「私、血の繋がりというのが、昔はさほど強くなかったということを、祖母から聞いて知っていたんです」
 と言ったからだ。
 しかも、
「血の繋がりの意識というのは、この時代で話をするのはタブーのようになっているので、きっと誰も子供に話したりはしていないだろう」
 ということを祖母が話したと言っていたからだろう。
 特にこの時代の特徴としては、過去の時代について、どこか偏見の目で見ているところがあった。確かに学校では歴史の授業があるが、それは完全に暗記物でしかない。本屋に行っても、よくよく見てみると、一つの考えに固まった書籍しか置いていないようだ。
「自由という言葉は名ばかりで、書籍にしても、出版するための検閲が行なわれていて、自由が半分損なわれているように思える」
 というのも、未来の祖母の話だったようだ。
 そのことについて、異議を申し立てる人がいても、権力で抑えるようなことはしない。そんなことをしなくても、社会が異議申し立てした人物を社会的に抹殺してくれる。
 法律で裁くわけではなく、その人間に対しての態度や見方が、厳しいのだ。それによって、時には権力よりももっと厳しい制裁が、その人に待っていることになるのだ。
「法律で裁くのであれば、刑期を終えて戻ってくれば社会的立場が復帰することもあるが、まわりからの偏見であれば、いつ終わるとも知れない恐怖をずっと味わうことになるからな」
 というのが、この時代の制裁だった。
 この悪しき時代の罪を裁こうという動きもあるらしい。それは、晃司からかなり先になって聞かされた話だった。
 晃司が理美に目を付け、この時代を選んだ理由のもう一つに、
「未来の存在」
 というのもあったのだ。
 理美と未来が、お互いに惹き合うようになったのだが、最初に近づいてきたのは、未来の方だった。
「あなたには、人を惹きつけるものがある」
 未来はそう言って、理美に近づいてきた。
 その言葉はあまりにも唐突だったが、理美はさほど驚いた気がしなかった。
「なんか、初めて言われたような気がしないんだけど、どうしてなのかしらね?」
 その思いは、晃司が自分の目の前に現れた時、感じたものだったが、それを未来との出会いに事前に感じるなど、おかしな感覚だった。
――これもデジャブ現象なのかしら?
 デジャブというには少し違った感覚だったが。将来に感じることを、前もって知るというのは、特殊な能力の表れなのだろうか?
――未来に見つめられると、私は金縛りに遭ってしまうわ――
 と感じた。
 学校では立場は逆だった。
 理美の方が目立っていて、未来は影に隠れた存在だった。今までもそうだったのだから、理美と知り合ってからは、特にひどくなった。
 未来は完全に理美の影に隠れてしまって、本当に目立たない存在だった。だが、未来はそんな自分を、
「おかげで、自分の世界に入りやすくなったわ」
 と、表現し、理美に礼を言うほどだった。
 理美も自分の世界に入りこみやすい方だったが、未来はもっとその意識が強かった。未来がその時々で、光にも影にもなれるのは、そのためだった。
 理美にとって未来は、
――私の中に、もし不思議な力が備わっているのだとすれば、それを引き出してくれるのは未来しかいない――
 と思える相手だった。
 理美には「永遠」という言葉を意識することは今までになかった。それがこの時代に生きている人間の宿命のようなものだと思っていたからだ。
 だが、未来を見ていると、「永遠」という言葉を、自分が口にしてもいい何かが見つかるように思えるのだ。
作品名:リミット 作家名:森本晃次