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リミット

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「いわゆる『宇宙の墓場』と言われるもので、小規模なブラックホールのようなものが存在し、形あるものをすべてその吸引力で撮りこんでしまうと、取りこまれたものは、動くことすらできず、そのまま朽ちていくのを待つしかないんだ。そのサルガッソーというのは、宇宙にだけ創造されたものではなく、時間の流れにもあるんだよ。だから、タイムトラベルの危険性は歴史を変えてしまうだけではなく、自分自身にだけ襲ってくる恐怖も別に存在するということだ」
「そんなに脅かさないでくださいよ」
「ただ、それは、すべて『パラレルワールド』を意識していないから、落ち込んでしまう幻なんだ。実際にはサルガッソーというものは存在しない。それをあたかも存在するかのように演出しているのは、夢なんだ。だから、実際にサルガッソーに落ち込んでしまったと考えられることは、すべて、夢によって成される業だということになる。だから、君はサルガッソーの存在だけを知っていればいいんだ。それを必要以上に意識することはない」
「でも、それって一度意識してしまうと、必要以上に思うなと言われても難しいと思うんですけど」
「いや、大丈夫。君は意識することはない。実際にタイムトラベルを始めると、意識できることは限られてくる。サルガッソーについて記憶としては残っても、意識として表に出てくることはない」
「それならいいのですが」
「ただ、君が着地するところは、本当の過去ではないんだ。時間の流れを考える時に君はまず最初に『パラレルワールド』のことを考えるだろうが、タイムマシンでタイムトラベルをする時、『パラレルワールド』を意識することはない。タイムマシンでの移動中は、軽いこん睡状態に入る。気が付けばその場所に着いているというわけで、その時の頭の中には、『一つしかない過去を遡った』という意識しかないと思う」
「それはあなたも同じなんですか?」
「僕も同じだよ。でも、僕はそれだとタイムトラベルをした理由がなくなってしまう。だからタイムトラベルの前に一旦、意識を格納した媒体を作って、タイムトラベルで一緒に持っていき、そして、そこで自分の意識を再度よみがえらせるようにしているんだ」
「じゃあ、今のあなたは、未来の世界の意識に戻っているというわけ?」
「いや、まだ戻っているわけではない。そこにある装置をつかわないと、元の意識を持てないのだが、どうやら、それを使わなくても、十分意識は残っているような気がする」
「ところでさっき言っていた。過去を変えない話はどうなったんですか?」
「要するに、結論から言うと、君は正当な過去に戻る必要はないんだよ。広がったパラレルワールドの中で、一番今から見た正当な過去に一番近いパラレルワールドを選んでそこに行くことになるのさ」
「でも、それを選ぶことはできるんですか?」
「私の作ったタイムマシンは。パラレルワールドをきちんとナビできるように設計してある。その瞬間から次の瞬間に無数に世界が広がっていると思うから、なかなか一つを見つけるのは難しいんだけど、逆に正当な過去さえ見つかれば、一番近い世界を探すのは簡単さ。何しろ、実際に形が見えているわけだからね」
 その話を聞いているうちに、理美は頭が混乱してきた。
 要するに結論から言えば、
――今いる自分のこの世界。そして、晃司がやってきたという未来の世界。どちらも正当な過去であり、未来だということなのだろうか? ただ、それは一点を見た世界が正当な世界だと思いこんでいるから、そのラインにあたる世界だけが正当な世界のように思われているが、元々の世界を本当に正当な世界だと言いきることができるのだろうか?
 理美はその疑問によって、頭が混乱しているのだった。
 晃司は言う。
「今すぐ君に、過去に行ってくれとは言わない。君がゆっくりと考える時間を与えてあげようと思う。そして、君が実際に考え始める前であれば、私はいくらでも君の前に現れる」
 そう言って、晃司は理美に携帯電話のようなものを渡した。
「これは、時間を飛び越えて話ができる機械で、あなたたちの時代の携帯電話のようなものです。私に話がしたかったら、これを使って私に連絡をすればいい」
「でも、あなたが、ここにわざわざ来たっていうことは、急いでいるんじゃないの? 私の考えを待っている暇はあるの?」
 というと、晃司はしばし苦笑いを浮かべ、
「それはまだ君が自分の常識に取られている証拠ですね。それは無理もないことだと思います。でもね、考えてもごらんなさい。あなたはタイムマシンを所持しているんですよ。どの時代からだって、目的の時間に行くことはできる。つまりは、出発点の座標は関係ないんですよ、到達点の座標さえ間違えなければね。そのためには到達点の座標をしっかりと理解し、自分の意識をその時点に持っていくことが大切なんです。だから、あなたがしっかり理解できるように、私たちも協力する。これもさっき話したように、間違った時代を正すという考えで臨めば解決できる。そしてもう一つ言っておくけど、ここでモラルなんて考えてはダメ、相手の思うつぼに嵌ってしまう。あなたが考えることはただ一つ『自分は間違っていない』というしっかりとした信念を持つことです」
 晃司の話を聞いていると、次第に頭がスッキリしていくのを感じた。考えはしっかりしているけど、どこか信用できないところがある。それが頭のモヤモヤに繋がっていた。
「あなたが感じているのは、私への不信感だと思いますけど、それも自然に解けていきます。今は信じられないだけなんですよ。でも、今信じられないというのも事実。大きな問題には違いない。だから私もこれ以上しつこく言うつもりはないですので、あなたからの質問を待とうと思っています」
「未来から来たということは、この画策がもし成功すれば、未来のあなたたちは困るといことですよね? そして、困る人がいれば得をする人がいる。それがつまり画策をもくろんでいる人がいるということなんでしょうね」
「そうです。そのことに最初に気が付いたのは、私たちの時代の人間で、彼らはその時代で迫害された人生を生きています。それも時代の流れなのだから仕方がないとですね。でも彼らも気づいたんですよ。歴史を変えることをね。それでタイムマシンを作り、元々の間違った道にいつ迷い込んだかということを探り始めて、そして辿り着いたのが、これから君に行ってもらおうと思っている世界なんだ。そして僕たちが手出しできないのは、未来の人間が、過去の人間が、さらに過去に遡って何かをしようとしているのを妨げることはできないということだ。つまりは、君に任せるしかないんだ」
 同じような話を何度も聞かされることになったが、理美は何とか理解できているように思えた。
――きっと今の私は、髪の毛が逆立って、目はカッと見開いているのかも知れないわ――
 と思ったが、
――でも、この人の話を理解できるようになると、これ以上ないというほどの涼しい顔になるんじゃないかしら?
 と感じた。
 理美は、歴史のことを勉強するのは好きだったが、自分の過去にはまったく興味がなかった。
「ねえ、少しくらい未来のことを知るのって、まったくいけないことなの?」
作品名:リミット 作家名:森本晃次