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リミット

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 しかし、それならすべてとはいかないまでも自分のために、その力が使われてしかるべきなはずなのに、実際には自分に不利になるような使われ方が多かった。
――どういうことなんだ?
 自分へのマイナスの力が働いていることに気付いたのは、数か月前からだった。だが、それは自分の考えに反してはいたが、直接的な被害を被ったというわけでもない。
 大学時代に遡ってまで自分にマイナスの力が働いていたのではないかと感じたのにはさすがに驚いたが、考えてみれば、不思議な力が働いたのは一貫していた。
 そのほとんどが、付き合っていた女性と別れることになったり、いい雰囲気にまで行って、あと一歩で付き合うことになりそうな時に限って、現れるのだ。
「あなたのあまりよくない噂を聞いたの」
「えっ」
 せっかくそれまでうまう付き合ってきて、温めてきた関係を、いきなりそんな言葉で相手から引導を渡されるなど、想像もしていなかった。
 特に大学の時、
――彼女とは感性が合うんだ――
 と感じた相手、話が合うのも当然で、相手も同じように思っていると確信していた人から、
「あなたのあまりよくない噂を聞いたの」
 と、言われた時はショックだった。
「えっ、それがどんな噂か知らないけど、そんな根も葉もないような話を君は信じようというのかい?」
「私もだいぶ悩んだのよ。でも、あなたのことが分かるだけに、噂の信憑性を考えた時、まんざら嘘ではないという気がしたの。それは私があなたのことを好きになった部分だったから。その裏返し、つまり盲点を突かれたような気がしたの。盲点を突かれると、私はどうしたらいいの? まるで金縛りに遭ったかのように、指先は痺れて、冷や汗が出てきたわ。そんな風にしたのは、結局あなたなんじゃないかって思ったら、もう噂の信憑性なんてどうでもよくなった。私は、これ以上あなたと一緒にいてはいけないという結論に陥ったわけも分かってくれるかしら?」
 かなり、彼女の話は身勝手に聞こえた。
 もし、これ以外の言い草であれば、もう少し粘ってみようと思うのだろうが、ここまで言われてしまえば、言い返すこともできない。それに、彼女の最後に言った、金縛りに遭い、手足指先の痺れ、さらには冷や汗をその時に感じたのだ。
 さすがにすぐには返事はできなかったが、その時に気持ちが固まっていたのは事実だった。
 幸一が、相手の別れ話を自分から受け止めた最初だった。
 それまでにも、うまく行きかけて相手から、
「お友達でいましょう」
 であったり、
「お友達以上には思えない」
 と言われたことはあった。
 中学の時、一度言われたのは前者だったが、その時は、そのまま友達に戻ることができた。実はその娘とは今でも友達であり、女心の相談や、彼女からの恋愛相談などは、お互いにオープンで話ができる仲になっていた。
 しかし、高校生になってから、後者がほとんどだった。それもまわりに対しても公然と付き合い始めてからのことである。
「友達以上には思えない」
 ということは、
「友達ならいいのか?」
 と、思われがちだが、一旦付き合い始めると、後退することはできないのだ。もし友達に戻ったとして、彼女か自分に新しい人ができれば、どう思うだろうか? 相手にまだ未練が残っていれば、ショックを感じるのは当然のことで、それがどれほどのものなのか、幸一には想像もできなかった。
 幸一は、理美との付き合いを、見えない力で邪魔されることを恐れていた。
――なるべく焦らないようにしていこう――
 高校時代、うまくいかなかったのは、噂を聞いたと、相手から言われた時だけではなく、幸一自身の付き合い方が、単純に下手だったことがあったのも事実だ。
 いや、その方が自然であり、
――そりゃ、あんな付き合い方してれば、相手も呆れるわな――
 と、後で思い出せば、顔から火が出るようなこともあった。
 それは、本人の考え方が、理性や感性などとは程遠い、本能だけで行動してしまおうとした時があったからだ。
 相手がもし、幸一の感性を好きになったのだとすれば、本能による行動は、
「もっともやってはいけないこと」
 だったに違いない。
 幸一には、そういう意味では二重人格性があるのかも知れない。
 いや、完全な二重人格ではなく、本能が理性や感性を凌駕してしまう瞬間があるのだ。
 ただ、それは幸一に限ったことではない。
――男はオオカミだ――
 と言われるゆえんは、そのあたりにあるのではないだろうか。確かに
――紳士の仮面をかぶったオオカミ――
 というイメージをテーマにしたドラマや映画も少なくはない。そう思うと、幸一が本能で行動するのは仕方がないことだ。
 だが、本当はこの考えがいけないのかも知れない。
 それが自分に対しての甘えになり、この甘えに敏感なのは、本人ではなく、一番本人に近い他人ではないだろうか。
 この場合であれば、付き合っている女性だったり、付き合い始めようとして、幸一に近づこうと思っている人だったりする。
――やだ、この人こんなことばかり考えている人なんだ――
 本能として行動に出そうとしていることばかり考えているわけではないが、一度本能による行動が自分の頭の中に発動されてしまうと、もう自分ではどうすることもできない。前に進むしかないのは、本能であるがゆえなのであろう。
「一点だけを見て、すべてだと思われるのは理不尽だ」
 と言いたくなるが、言ってしまうと、今度は相手から、
「何言ってるのよ、その一点だけで十分、それ以上想像すると、あなたはオオカミから野獣になってしまうのよ」
 と言われるに決まっている。
「オオカミなら、満月が消えると人間に戻れるけど、野獣なら満月が消えても、元に戻ることはできないの。あなたは野獣としてずっと生きていく運命なのよ」
 と言われたかのようで、そこまで考えてしまうと、いくら未練がましい幸一でも、関係の修復が不可能であることを悟るに違いない。
 そんな関係が長く続くわけもない。最初の頃は、訳が分からずに別れを迎えたような気がして来て、
――僕は恋愛に向いていないんじゃないか?
 と感じた。
 そもそも、恋愛に向き不向きを考える時点で、恋愛ということに対して、偏見を持っているということに気付いてしかるべきなのに、そのことに気付かなかった時点で、自分の本能を抑えるなど、できっこないのだ。
 幸一は、今まで好きになったと感じた女性を思い浮かべた。中学時代などは、
――まるでままごとのようだったな――
 と、恋愛ごっこに夢中になっていたような気がしていた。
 高校に入ると、今度は自分の感性と、本能について少しは感じることができるようにはなっていたが、実際にそれをコントロールできなかった。まだまだ理性が頭の中でも固まっていなかったからに違いない。
 理性は、確かに持って生まれたものなのかも知れないが、そのまま成長がなければ、意味がない。
 なぜなら、本能も成長とともに大きくなるものだし、感性も同じように大きくなるものだ。
 だが、本能とは本当に成長とともに大きくなるものなのだろうか?
 今の幸一は違う考えを持っている。
作品名:リミット 作家名:森本晃次