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短編集40(過去作品)

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 そんな意識でいっぱいである。黒によって完全に白が支配されていた世界だったのだ。
 それから比べると白の世界は、黒を支配することができない。いくら白でまわりを覆い隠そうとも、黒は動くことができるのだ。白が動くたびに黒はついてくる。決して白から離れることなく存在し続ける。
 そういう意味では百以外はすべてがゼロという考え方が揺らいでしまうかも知れない。この夢を見てから、自分の中にすべてのものを半分で割り切るという考え方が存在していることを知ったように思う。
 その夢がいつだったかというと、これがまた不思議で覚えていない。
 小学生の頃に見た夢だったのか、大学時代の夢なのかも分からない。分かっているのは大学生の頃に、自分がすべてを半分に割り切る性格であるということを自覚し始めたと言う事実であった。
 夢はいつしか忘れていくもの、この夢にしても心の中に何かしらのわだかまりを残しているようだが、夢の内容までハッキリと覚えていない。それを少しの間だけだが思い出させてくれるような人が現れた。
 中学三年生の頃から女性に興味を持つようになった中島だったが、なかなか付き合うというところまでいく女性がいなかった。別に高望みをしているわけではない。女性を目の前にした時、面と向ってまともに話ができるかと言われると、少し疑問が残るが、それとて最初は誰でもそうではないだろうか。ただ、女性に興味を持つのが遅れた分、他の男性には追いつけないという気持ちがあるのも事実で、そこが女性から見て気になるところかも知れない。
――どうしても先駆者には敵わないんだ――
 という気持ちが大きい中島である。
 何をするにしても最初にやった人が一番偉いという考えは、大なり小なりそれぞれの人にあるだろうが、中島のそれは大きいものだった。気持ちの中で絶対と言ってもいい。
「初めてふぐを食べた人って勇気がいるよな」
 と、よく言われる話である。だが、それはふぐに限ったことではない。たまたまふぐには毒があるというだけで、見た目で毒があるかないかというのは判断がつくはずがない。今はおいしそうな高級料理として食されているものの中には、元々の姿を見て想像もつかないものがかなりある。
「こんなものが本当に食べられるのか?」
 と疑問を抱きながら食べたはずである。高級料理にしても、試行錯誤が繰り返された中での調理法によっておいしいものになっているが、最初にどんな人がどんな気持ちで食べたのかということを考えると何とも言えない気持ちになってくる。
 元々、ものを作るのが好きな中島は、学生時代に作ることの楽しさを味わいたくていろいろやっていた時期があった。途中ですぐにやめてしまったものもあるが、基本的には何もないところから自分で作り上げることに喜びを感じていた。
 美術部に所属し、絵を描いたり彫刻に勤しんだ時期もあったが、センスがないのか、なかなかうまくできるものではなかった。
 また、作曲をしようと楽器を勉強した時期もあったが、それもうまく行かない。試行錯誤を繰り返しながら、それではと文芸を考えてみた。
 本を読み漁って、詩やエッセイを書いてみたりしたが、それなりにしっくりいく。図書館や本屋などの静かな雰囲気も好きで、一人孤独な作業を満喫するには最高だった。
 もの作りという作業には共通点がある。芸術という言葉で表されるという意味でも共通点であるし、孤独な作業だということも共通点だ。一人孤独に、いや自分の世界を創造することが第一で、それさえできれば、あとは芸術という言葉の名の下に、自分に自信をどこまで持てるかということが大切である。
 以前見た光と影の世界を創造した夢、孤独で自分だけの世界を創造する時、いつも意識しているように思えた。
――誰も意識していない世界を、自分は知っているんだ――
 という気持ちが自分の中で優越感を作り出し、孤独の中に自信を植え付ける。
 それだけに、自分の前に先駆者がいれば、どうしても意識してしまう。
――絶対に追いつくことはできないんだ――
 という思いが強く、先駆者よりもどんなに素晴らしい作品を作ったとしても、それは二番煎じでしかないと思っている。
 最初は二番煎じでもいいかも知れないが、いずれは自分だけの世界を作り出し、誰かがそれにしたがっても、
――自分がパイオニアなんだ――
 という自信を持つことが一番大きいことである。目指すはパイオニアだ。
 そんな頑なな気持ちを持ち続けていると、自分の世界に入る以外で、孤独を余儀なくされるものだ。
 この考え方は、一種独特で、ある意味危険性を秘めていることは分かっていた。どうしても自分主体の考え方で、それにまわりが同調してくれるとは到底思えないからだ。この考え方を他の人が感じた時、不快感があらわになることも分かっている。実際に、
「お前の考えは突飛過ぎてついていけない」
 と面と向って言われたことも何度かあった。
 それでも、話してみると同じではないにしても、似たような考えを持っていて共感してくれる人もいた。彼らも自分の考えに自信を持ちながら、誰からも受け入れられないことで悩んでいた連中である。学生時代はそんな連中と夜を徹して話すのが好きだった。きっとまわりからは、
――ちょっとおかしな連中の集まり――
 くらいにしか見えていなかったことだろう。
 だが、それも学生時代までのことだった。就職して皆それぞれの職場につくと、それどころではなくなってしまう。なかなか連絡も取れなくなったり、五月病に掛かったりする友達も出たりで、社会という壁の前では、やはり自分たちの考えなど受け入れられるはずないと思わざる終えないところまで来ていた。
 会社に入って孤独な自分を惨めに感じ始めかけていた頃である。事務所の女の子で気になる女性が現れた。
 仕事が忙しくそれどころではないと思っていた中島のお尻を押してくれたのは、パートさんたちだった。
「中島君は、吉岡さんが気になっているんでしょう?」
 と唐突に言われてビックリした。何しろ気になっているということを意識していなかったのだから寝耳に水だ。初めてその時に意識していたことに気付いたほどで、その時の中島の表情をどんな気持ちでパートさんが見ていたか想像もつかない。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって見ていればすぐに分かるわよ。ひょっとして意識しないようにしていた?」
 意識しないようにしていたというところまで行っていないようにも思うが、無意識にそう思っていたのだろう。
「意識しないようにしていたのかも知れないですね。そんなにすぐに分かります?」
「分かるわよ。女の勘って鋭いものよ」
 ということは、当の吉岡さんも分かっているということだろうか?
 バレてしまったのなら、もう開き直ってもいいだろう。バレるというほど意識していなかったのだから変な気持ちだ。
 吉岡和江。高校を卒業して入社三年目ということなので、中島より年齢は一つ下だ。だが、見ていると中島よりもいくらか年上に見えることがある。会社では先輩であるためか、それとも、落ち着いて見えるからか。そんなところを意識していたのだろう。
作品名:短編集40(過去作品) 作家名:森本晃次