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墓標の捨て台詞

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「堪忍してください」
 と言いたいのを必死で我慢しているようだった。
 確かに我慢している顔を見るだけで快感を覚える人もいるだろうが、五郎はそうではなかった。相手が苦痛の中なら何かを見つけてくれるところまで望んでいる。ある意味で厳しさがあったのだ。
――言いたければ言えばいいんだ――
 心の中でそう叫ぶと、余計に苛めに拍車がかかる。これ以上、どう苛めていいのか迷うところだが、いつの間にか、五郎の中で満足のいくような苛め方になっていた。
――僕って、結構最後は辻褄が合うようにできているのかな?
 女性と知り合うのもそうかも知れない。
 いつも付き合っていて、いろいろ問題が起こったり、喧嘩してみたり、喧嘩がないならないで、相手の気持ちを考えるに至らなかったりして。すぐに悲惨な別れが訪れることになるが、別れてから立ち直ってすぐ、他の女性と出会うようになる。実際に付き合っている時期は長く感じるが、別れてしまったらあっという間、別れから立ち直るのに時間が掛かるのに、いつも堂々巡りを繰り返し、その場所に戻ってきた時には、長かったような気していた。
「お前って、女に困らないタイプなんだよね」
 と、
――こっちの気も知らないで――
 と、自分が普段からまわりに、女性に関してそんな目で見られていたということにショックを感じながら、心の中で呟いた。
 しかし、一人になって考えると、
――確かにその通りかも知れない――
 とも感じる。女に困らないタイプという言われ方には語弊があるが、女性と付き合っていない期間は、思っているよりも短いのかも知れない。新しい女性と付き合い始めると、すぐに辛かったことを忘れてしまうのが、そのいい例ではないだろうか。
 五郎のような男性に、女性は惹かれるということだろうか。
 いや、五郎と付き合っている女性は、一見皆瀬角が違っているかのようだが。共通点も多いような気がする。
 相手がどうのというよりも、むしろ女性によって態度をコロコロ変える五郎の方に問題があり、そのことを五郎自身がなかなか気付かないことも問題なのかも知れない。
 ただ、一貫して、女性に対して苛めたいとう気持ちだけはあるようで、それが、性格的なS性なのかどうか、自分でも分からないところがあった。
「Sなくせに女性によって態度を変えるなんて、本当のSじゃないな」
 と言われたことがあった。
 五郎には男性の友達あまり多くない。最近では、極端に減った。女性とも一人が決まれば、他の女性に食指を伸ばしたりしないので、基本的に友達や知り合いは少ない。それでもいいと思っているのは、下手にたくさんの知り合いを作ると、自分の中で収拾がつかなくなり、何を信じていいのか分からなくなることを危惧したのだ。
 好きになる相手も、若い頃は、自分より年下がよかったが、最近では、年上がいいなどと思うこともある。以前のように一人が決まれば、その人だけだという思いも次第に薄れていき、二股、三股も、
「別に構わないんじゃないか」
 と、言えるようにもなっていた。
 身体を重ねることよりも、最近では会話に重きを置くようになっていた。一緒に食事をしたり、スナックで飲んだりしながら、気持ちを高めていって。次第に身体を寄せあう。その時に感じる暖かさが、
――これが本当に僕が求めていたものなのだ――
 と感じるようになるのだった。
 五郎に暖かさを再認識させたのが、香織だった。
――再認識――
 そう、最初に感じさせた女性がいたのだ。その女性がいたからこそ、五郎は今の自分がいるとまで思っているほどで、付き合っていたわけでもないのに、気持ちが通じ合った気がしたのは、
――もったいないことだ――
 と思うに至るまでになっていた。
 その女性はまたしても、綾香だった。
「あなたの暖かさ、私には十分に伝わってきたわ」
 本気の言葉かどうか分からないが。説得力がある。
――風俗の女性は、皆、説得力のある言葉が言えるものなのだろうか――
 と感じるが、相手を見る目、そして、自分の立場を超えないと見ることのできないものを綾香は感じてくれたのだろう。
 綾香を思い出すと、目の前に浮かんでくるのは、里穂の住んでいる屋敷だった。
 一度だけ食事に呼ばれて行ったが、それ以降、会おうと思ってもなかなか会うことができない。
――里穂って幻のような女だ――
 コーヒー専門店に行けば、会えるのは分かっているが、実はその日から、あの店には言っていない。
――もし里穂がいなかったらどうしよう? もしいたとしても、無視されないとは限らない――
 そう思っていると、会うのが怖くなり、店に近づけなくなった。
 今までにそんな思いをした女性はいなかった。だからこそ、五郎は余計に香織に接近してしまうのだし、香織の口から、何かヒントのようなモノが生まれるのをじっと待っているのかも知れない。
 確かに今まで付き合っていた女性とは、別れの時には悲惨な思いをし、二度と会いたくないというところまで追い詰められたりしたものだ。それでも五郎は諦めの悪い性格である。
 里穂とは一度も肌が触れたわけでもないのに、綾香に感じた暖かさがあるように思えてならない。まるで同じ人間の分身ではないかと思うほど、五郎には二人がダブって見えるのだった。
 里穂は、一度お店で頭にリボンをつけていた。普段からポニーテールにしていた頭の結び目部分に、ちょっと大きな蝶々のようなリボンをつけている。
 そんな里穂を見た時、五郎は、
――リボンをつけているのを見る方が、大人の女性に見えてくるから不思議だ――
 と思うようになっていた。
 ポニーテールの髪型は、顔を少し大きめに見せるが、リボンをつけることによって、今度は小さく見せる。ちょうどいい顔の大きさのバランスは、大人っぽさを感じさせた。笑顔には変わりないが、真剣そうな表情は、肌の細かさを露呈しているようで、そこが落ち着いた大人の表情に見せているのかも知れない。
 里穂は、綺麗というよりも可愛いという雰囲気の女性だ。女の子と言ってもいいくらいで、体型も幼児体型。本当は五郎の好きなタイプであった。
「お前は八方美人だからな」
 と言われたことがあったが、その通りかも知れない。ただ、誰でもいいというわけではなく五郎にも好きな女性の共通点はある。ただ嫌いなタイプの女性はハッキリしていて、それだけに嫌いな人に対しては徹底的に冷たくなったりする。
 そういえば、小学生の頃に、やたら五郎になついてきた女の子がいた。五郎は好きなタイプだったわけではないが、嫌いだったわけでもなかったはずだ。
 逆に懐かれていると、情が移ってくるのか、可愛らしいと感じた時期もあったくらいで、ただ、異性に対しての感情ではなかっただけに、妹のような感覚だった。
――慕われることを至高の悦びだと最初に感じたのは、その時だったのかも知れない――
 と思った。
作品名:墓標の捨て台詞 作家名:森本晃次