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墓標の捨て台詞

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 男女の関係は、人の数だけあると言っても過言ではないが、実はそれ以上なのかも知れない。それまで仲良くしていて、ベッドを共にしていた相手か、自分かのどちらかの気持ちが少しでも動いてしまうと、関係がもう一つ存在してしまうように思えてくるのだ。同じ相手を抱いているつもりでも微妙に感じ方が違えば、もはや、元に戻ることはできないだろう。五郎にそのことを気付かせてくれたのが香織という女性の存在であり、ひょっとすると、香織もそのことに今気付いていて、それを気付かせたのが言わずと知れた五郎なのだろう。
 最初よりも次の付き合いの方が、必ずいいとは限らない。以前の経験で教訓として身体に染みついているのだから、同じ過ちは繰り返さないだろうと思うのは、間違いではないだろうか。
 恋愛は成長していくものなのかも知れないが、恋愛感情が成長していくわけではない。前にひどい目に遭ったことで、似たような女性を好きになることはないかと言われれば、ないと答えられる人がどれほどいるだろう?
「俺は自信ないな」
 という人が結構いるかも知れない。
 実際に、五郎も今、そのことを感じはじめている。元々、五郎は逆を考えていた。最初に付き合った相手が一番よくて、次第によくない条件になっていくように思えるのだ。それは転職して、条件が悪くなるという感覚と似ているのかも知れない。少なくとも、以前は、
「どんどん男も女も年を取っていくのだから、少なくとも身体の関係としては、悪くなることはあってもよくなることなどありえない」
 と思っていたのだ。
「恋愛について真剣に考えてみたのは、香織と知り合ってからだ」
 結婚した相手までいるのに、恋愛について真剣に考えていなかったというのは、おかしなことだが、考え違いをしていたというわけでもない。真剣に考えていたと思っていたことは、慣れないのような付き合いをイメージしていたからだろう。もちろん、今まで慣れあいだったと言い切れないし、香織との仲も、慣れ合いではないとも言い切れない。付き合っていく中でのお互いの気持ちが、噛み合っているかどうかということだ。噛み合ってさえいれば、お互いに気持ちに余裕も出て来て、ベッドの中での会話も変わってくる。切羽詰ったような気持ちを相手にぶつけるのは決して余裕がないわけではない。相手にも自分と同じ気持ちにさせる迫力、それも大切なことだった。
 他の女性と付き合っている時は、それまでに付き合った女性と比較してみることも確かにあった。香織と付き合い始めても、以前と比較していないとは言い難いが、同じ比較でも次元が違っているように思えてきた。
 何が違うのかはハッキリとはしないが、単純な比較、同じ物差しでは測れない何かがあるように思える。
「香織だからなのかな?」
 とも感じたが、どうも違う。
「香織と付き合うことで、香織がそのことを教えてくれたんだ」
 と、思う方が正解ではないだろうか。
 今まで付き合った女性との比較の中で、香織は明らかに別格だ。大人の女性という表現がピッタリで、妖艶な雰囲気で大人を感じさせた外見からは想像もできないほど、考え方も大人だった。
 話をしていて、
――どこが大人なんだろう?
 と考えさせられるが、確かに漠然としていてハッキリとしているわけではない。
 ひょっとすると、香織も五郎のことを大人の男性だと思っているのかも知れない。今までどんな男性と付き合ってきたのかも分からないが、付き合ってきた男性を知ったおかげで大人になれたのか、それとも元々大人の考えを持っていて、人と付き合うことで研ぎ澄まされていったのか、そのどちらかなのかも知れない。五郎には、後者ではないかと思えるのだが、違うだろうか。
 もし、五郎と同じように、今まで付き合ってきた相手と五郎は、明らかに違う性格で、大人の男性だと思っているとすれば、お互いに醸し出すオーラは相乗効果を生み、お互い成長しているのかも知れない。
――お互いが成長する相乗効果を醸し出しているんだ――
 と考えれば、モヤモヤとしたものが晴れてくるように思えるではないか。
 香織が今まで付き合った男性の話をしないのは、したくないからではなく、する必要がないという確固たる気持ちの表れだ。そう思うと、五郎が、今まで付き合っていた女性をイメージしなくなった理由も分かるような気がする。
――比較するというレベルのものではないのだ――
 要するに、「格」が違うのだ。
 香織とのベッドの中で、香織な時々、哀願の表情を見せる。他の女性も見せていたが、その顔は、快楽に溺れた表情そのもので、愛おしさがこみ上げてきて、
「もっと愛してあげなければいけない」
 と、身体を貪る。自分の快楽も相手にぶつけることが、相手にとって求めていることと同じだという感が出あった。
 しかし、香織に対しては、同じ哀願の表情でも、そこには快楽だけではない。本当に切羽詰った感覚が見え隠れする。
――まるで、毎回今日が最後であるかのような圧迫感がある――
 だが、その中にも余裕があるからこそ、抱きしめることができる。余裕のない本当に今日が最後に思えるような雰囲気には、とても耐えられそうにもないからだ。
 確かに、今までのような感覚とは違っている。
「もっと愛してあげなければいけない」
 という思いは、今までの女性に比べれば強いのかも知れないが、自分の快楽に溺れ、相手にぶつけるかのような放出で、まかなえるものではない。
 今までであれば、放出してしまえば、そこから先は、精神的に一気に冷めてくる。男なら誰でもそうなのだろうが、香織に対しては、放出したとしても、興奮は変わらない。
 ただ、香織が相手であれば、放出がもったいないと思えるのだ。放出することが最終目的であり、後は惰性のようなものだと思っていた五郎には、最初は分からない感覚だった。――我慢することも快感の一つ――
 これを教えてくれたのも香織だった。
 他の女たちと比べて、快感は群を抜いていた。
――精神的にもピッタリ嵌っている相手だと、身体の相性もピッタリなのだろうか?
 と感じさせる。
 確かにそうだろう。今まで気付かなかったのは、そんな女性に出会わなかったからだ。出会えたことが本当に幸せなのかどうかは、すぐには結論が出るはずはない。それに、結論を出すのは自分ではないような気がするからだ。そう思うと、
――結論など出す必要はないのかも知れない――
 と感じるのだった。
 香織という女性、幻のように思うことがある。放出して身体が痙攣するなど初めてだが、そんな時に感じることだった。
 幻だと思っても、放出した後に訪れる気だるさがマヒしてくる頃には、他の女性が相手の時では、ハッキリと相手が自分の腕の中にいることが意識できるのだが、香織の場合は、逆にとろけてしまいそうになるくらいだった。しかし、気が付けば魔法は解けて、幻が永遠に続くのではないかという霧の中に迷い込んでも、一気に晴れ間が覗くのだった。
 香織が幻だとすると、香織は五郎をどう思っているのだろう?
作品名:墓標の捨て台詞 作家名:森本晃次