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短編集39(過去作品)

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 告白のタイミングを逃すと、ずっと後悔を残すことになると思ったからで、それが玉砕であっても仕方のないことだと思っていた。それよりも、かなりの自信があったことには違いなかったのだ。
 思ったとおりの告白が自分なりにできたのが成功に繋がった。鏡を見ながら自分に言い聞かせたのが一番の成功の元だったに違いない。
 告白というのは終わってみればあっという間のことだった。何をどんな風に話したのかあまり覚えていないし、彼がどうOKしてくれたのかもおぼろげである。しかし、ニコニコしながら頷いてくれた瞬間だけはしっかり覚えている。
――いつまでも続いてほしい瞬間だ――
 と思ったのも否めない。
 まるでスローモーションを見ているような瞬間だった。それから自分にとっていいことはスローモーションで見えてくるような錯覚に陥っていた。
 昭雄の気持ちがすべて分かっているような気がしたのは最初からだった。何を考えているか分かるし、自分の考えていることも昭雄にはすべて見抜かれているように思えた。それまで男の人と付き合ったことのなかった千春は、お互いのことが分かることが付き合うきっかけになるのだと思った。
「あなたのことが分かるような気がするの」
 と付き合い始めてしばらくして話したことがある。
「僕もなんだ。今までにはなかった気がするよ」
「それは私が分かりやすい性格をしているから?」
「それだけ君が素直な性格で、あまり人に隠そうとしないところからだね。そこはいいところだよ」
「そうね、前からあった人見知りはなくなったような気がするわ。それもこれも昭雄に告白できたからだわ。あの時から私は変わったのかも知れないわ」
「まるで別人のようだね。でも、僕は今の君が本当の君のような気がして仕方がないんだよ。だから付き合っているんだろうね」
 その言葉は嬉しかった。どこまで信じていいか分からなかったが、それは彼が何を考えているか想像できるからで、すべて本心からでないことが何となく分かったからである。
 千春にしてもそうだ。心の底から話しているつもりでも、どこかで、
――本心から喋っているのかしら――
 と思うところがあり、自分でも分からないところの一つであった。
 公園のベンチにずっと座っていた夢を後になって見ることがある。夢の内容は覚えていないのだが、夕方の黄昏時であることは間違いない。夢の中でも身体のだるさを感じ、足元から長く伸びた影を見つめていると、時間を忘れてしまいそうになった感覚が思い出される。
 身体のだるさを感じている感覚があるからだろうか。公園の夢を見る時に限って足が攣ってしまう。夢を見ていて、
――うっ、来そうだ――
 と感じるのが早いか否や、夢であることを悟ると一気に現実に引き戻される。
 真っ暗になり、影が影でなくなるのが分かると、真っ暗なはずなのに、目の前の暗闇の世界が狭まってくるような不思議な感覚に襲われる。今まで見てきたどこかのシーンが残像として残っているのだろうか。重なりすぎて特定できるはずもなく、ものすごい速さで頭が回転しているのが分かる気がしてくる。
 足が攣る瞬間になって、本当に来るのが分かってもどうにもなるものではない。もう止めることができないほど足に掛かった負担が、痙攣を起こさせるのだ。
 痙攣はやがて感覚が麻痺するほどの痛みを伴い、脈を打ちながら熱を帯びてくる。
――揉むと楽になるんだ――
 と思って触ると、カチカチに硬くなっている。麻痺した状態で揉むこともできないほどの痛みを、ただ堪えなければいけないのだが、その辛さたるや数秒で痛みが引いてくるのは分かっているのに、永遠に続いてしまいそうなほどである。
 静寂と暗闇が襲ってくる。暗闇は痛みに耐えている時に見えたものではなく、痛みが引いたあとの現実による暗闇だ。時計を見ると四時前、まだ誰もが寝静まっている時間である。
 耳鳴りが襲ってきたあとに訪れた静寂の中には、違う耳鳴りがあるのだ。耳鳴りは足の脈に合わせて強弱を感じる。
――自分で作り出した耳鳴りなのではないか――
 と感じる。
 今まで自分が自然現象を作り出すなど考えたこともなかったが、究極の痛みに耐えている時には作り出せるのではないかと思えるようになった。
 それは幻なのかも知れない。だが、一瞬でも自分が作り出したものだと思えば、痛みへの気持ちを拭い去ることは難しかった。
――喉元過ぎれば熱さ忘れる――
 ということわざがあるが、痛みも引いてくると忘れていってしまう。まるで夢だったかのようにすっかりと引いてしまえば足が攣ったこと自体が幻のように思えてくる。
 忘れっぽい性格である千春は、痛ければ痛いほど忘れてしまう。何かの防衛本能が働くのではないかと思えるくらいで、自然な感覚がそうさせるのではないだろうか。そういえば忘れっぽいと感じ始めたのは、足が攣るようになってからである。
「どうして私はこんなに忘れっぽいの?」
 鏡の中の自分に問いかけてみる。もちろん声に出してではあるが、答えを期待などしていないのにである。何が言いたいのか自分でも分からない。
 鏡を毎日見ているのは、忘れっぽいからというのもあるのだろう。自分に言い聞かせることで忘れないようにしようと思うからなのだが、どうやら効果はあまりないようだ。そんな時は得てして自分を見つめる鏡に写った顔は、とても自信がなさそうだ。
 忘れっぽい性格が生まれ持ってのものではないかと思い始めたのは、それからしばらくしてからだ。
――それほど影響がなかったから気付かなかっただけなんだ――
 と思うようになったのも、さらにしばらくしてからだ。
 いつも眠たい感覚があり、まわりから頼りなさそうに見えたのは、そんな小学生の頃だった。
 足が攣ったからといって、じっとしているとなかなか治らない。むしろ歩いている方が治るというもので、筋肉がほぐれるからではないだろうか。いわゆる逆療法に近いものがあるようで、痛みを耐えることがさらなる成長を促すことに繋がることを知ったのは、昭雄と知り合ってからだ。
 いや、昭雄と知り合ったというよりも、男性というものを知ったからかも知れない。異性というものを、まるで違う生き物のように思ってきたのは、まだ発育の段階で変化が序実に現われる前だったが、本能的に感じたことというよりも、小さい頃の経験がトラウマになっていることは間違いない。
 あれはまだ幼稚園の頃のことだっただろうか。近くの公園でよく遊んでいた。友達と遊ぶことも多かったが、一人で遊ぶこともできた子供だった。
――一人なら一人なりの遊び方ができる子供――
 まわりの大人たちからは、可愛げがないとでも思われていたのではないだろうか。幼稚園の子供に暗いなどという表現は不適切だろうが、想像しているだけでも哀愁を誘うかも知れない。本人は至って平気だったにもかかわらずである。
 一人で遊ぶことができた理由の一つに、おばあちゃん子だったことがあげられるだろう。
昭雄と知り合っていろいろ話していく中で、今では信じられないが、小さい頃はいつも一人で遊んでいたらしい。その理由が分からないまま話を続けていると、そんな中、
作品名:短編集39(過去作品) 作家名:森本晃次