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いたちごっこ

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 とあゆみが切り出した。
「ちょうど、私もそのことが気になっていたのよ」
 えりなは、ちょうど同じことを考えていたあゆみに対して、半分嬉しい思いを持ちながら、半分は怖いと思った。
――まるで自分の心の中を見透かされているようだわ――
 と感じたからだ。
「あゆみさんは、それを本を読んでいて感じたの?」
「ええ、その本はいろいろなことを私に教えてくれたような気がするの。少しオカルトっぽい小説だったんだけど、主人公が私たちと同世代の女の子だというのが、最初に私の興味をそそったの」
 確かに、同年代の同姓が主人公だとすると、自分が主人公になったかのように読み進むこともできれば、自分に主人公を置き換えてみることもできる。いろいろな見方ができることから、えりなも同じ立場だったら、同じようにその本に興味を持ったかも知れない。
「その本の主人公は大学生なの?」
「いいえ、高校を卒業して社会人になったという設定だったわ」
「そうなんですね」
 えりなとは立場が違っているようだ。
 そう思うと、えりなは自分に主人公になったつもりで読むというよりも、敢えて自分なら主人公に自分を重ねてみる方を選んだのではないかと思った。
「彼女はよく夢を見るようで、しかもその夢と言うのがいつも自分が子供の頃の夢なんだそうです。小学生の頃の夢が一番多いようで、しかも、見る夢もいつもパターンが同じだって書いてました」
「それは興味がありますね」
 えりなは、次第にあゆみの話に引き込まれていった。
「学校に行くと、皆は楽しそうに遊んでいるんだけど、誰も自分のことに気づかない。どうしてなのか分からなかったんだけど、トイレに行って鏡を見ると、そこにいるのは社会人になっている自分なんだそうです。その姿を見て、自分が社会人であり、これが夢の世界だって気がつくんだけど、夢から覚めようという意識はなかったそうです。それよりも、このまま夢の世界を楽しみたいという思いの方が強く、どうせ夢なんだから、それまで感じたことのない思いを抱ければいいと思っていたようです」
「その気持ち、私何となく分かる気がするわ」
「そうでしょう? 私も分かる気がするんですよ。それで本を読みながら自分のことを思い出してみると、確かに私も昔の夢をよく見るんだけど、その時、まわりの人が皆現在の大人になっていて、自分だけが子供であり、まわりから取り残された気分になっていることが多いんですよね」
 その言葉を聞いて、えりなも自分の夢を思い出した。
「私も同じ気持ちになることありますよ。でも、逆に自分が大人で、まわりが子供時代の友達だという夢を見たことがあります。その時は、自分だけが先に進んでいて、それを嬉しく感じることはないんですよ。逆に飛び越えてしまった時間がどんなものだったのか、それが悔しく思えるんですよね。ひょっとして本当はちゃんと過ごしてきた時間なのかも知れないのに、それを覚えていないというのは、悔しさと寂しさが交差する何とも気味の悪い気分になっているんですよ」
 と、えりなは自分の意見を述べた。
 しかし、そう口では言いながら、
――本当にそうなのかしら?
 と感じた。
 あゆみの手前、そう言ったが、本当に自分が考えていることが口から出てきているのか、少し疑問だった。
「あゆみさんは、いつも自分が取り残されたと思っているようですけど、逆のパターンの夢も見たことがあって、それを覚えていないだけではないかと感じたことはないんですか?」
 と言われたあゆみは、少し考えたが、すぐに結論は出たようで、
「いいえ、考えたこともないと思います」
 と一刀両断にあゆみは答えた。
 しかし、えりなはその返答が一刀両断であっただけに、余計にその言葉に信憑性が感じられなかった。一瞬間があって答えたのだから、その間にどれほど頭が回転したのか分からないが、一刀両断であったということはないはずだ。
 迷いの時間は長ければ長いほど、たくさんのことを考えたとは限らない。むしろ一つのことを何度も何度も考え直して、結論が出ないまま、結局は自分が納得できるかできないかというビジョンが自分の結論になるのではないか。
「他には、その小説で何か気になることありました?」
 とえりなが聞くと、
「ええ、その小説では、テーマがいくつかあったようなんですが、私の中で一番気になったのは、夢を共有できるのではないかということでした」
「夢の共有ですか?」
「ええ」
 えりなは、夢の共有というのは、昔から考えていた。
「それは、自分の夢に他の誰かが入り込んでいるのではないかという、そういう意味での共有ですか?」
「ええ、そうです。私の夢にいつも同じ人が入り込んでいるんじゃないかって時々思うんです。その人が誰なのか私には分からなかったんですが、その本では、一つの仮説を組み立てていました。それはまるで結論でもあるかのように説得力のあるもので、私もその意見に酸性なんですよ」
「というと?」
「その人というのは、実はもう一人の自分だっていうんです。その人は夢の中では見つけることができない人で、客観的に見ている自分なんじゃないかって、その本は書いているんですよ」
「なるほど」
 えりなはその話を聞いて、自分を振り返っていた。
 そして、自分が考えていることをゆっくりと語り始めた。
「私の場合、もう一人の自分を感じることができるのよ。その人は夢の外にいるの。つまりは夢を見ている自分なのね。だから夢の中では意識することができても、夢から覚めると忘れてしまう。それが夢の宿命のように思うの。でも、時々もう一人の自分はやけにリアルに感じられることがあるの。そんな自分は自分であって自分ではないという雰囲気を醸し出していることで、怖くなるのよね。怖い夢というのは、目が覚めてからも忘れることはないの。だから私にとっての怖い夢の印象として、もう一人の自分が夢に出てきた時が、一番怖いと思っているのよ」
 えりなは、正直に感じていることを答えた。
 しかし、この思いは絶えず頭の中にあるように思えたが、実際にその思いがいつも正面に出ているかというとそんなことはない。むしろ、忘れてしまっている中にあったことのように思えるくらいだ。
 何かひょんなことで思い出すことがある中に、この思いがあるのではないかとえりなは感じていた。
「私もたまに夢の中でもう一人の自分を感じることがあるんだけど、そんな時は遠くから見られているように感じるの。それも自分よりも高い場所からね。それで気になって視線の先にある上の方を見つめるんだけど、そこにあるのは空だけで、とても人が存在できる場所ではないのよ」
「それは私も感じるわ」
 といって、この間感じた箱庭のイメージを思い出しながら、あゆみに話した。
「夢の中じゃないのかも知れないわね。夢を見ている潜在意識が外から見せているものだと思うと、納得もいくわ」
 とあゆみがいうと、
「あゆみさんは、どうして夢を見ると思います?」
作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次