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いたちごっこ

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――夢がその間に入り込んでいるからなのかも知れない――
 と感じたことがあった。
 確かに、夢を見ている時、
――今、夢を見ているんだ――
 と感じることもある。
 夢というものを意識していたのだという思いだけが、忘れてしまった夢とは別に記憶として残っていたりする。実に不思議な感覚なのだが、その思いが、中学時代の夢を見た時、他の人は社会人なのに、自分だけが中学生だったり、その逆に皆が中学生なのに、自分だけが社会人だったりという意識を生むのではないだろうか。そう思うと、夢は妄想であり、現実ではないことを前提として見ていると感じる。
――夢を見る時ほど、冷静な気持ちになっている時はない――
 とえりなは感じていた。
 夢の世界が妄想だという思いは他の人も持っているだろうが、夢を見ている時が一番冷静な自分であるということを意識している人が果たして他にもいるだろうか? えりなはそのことを確かめるのが怖い気がした。
 大学生のえりなが、社会人になっているという夢を見たことがあったが、それは未来の夢ではなかった。高校を卒業して進学せずに、そのまま就職した時の発想であり、今の自分とは別の次元の世界の話だった。
 社会人になったえりなは、ずっと学生気分が抜けないでいた。実際に社会人になったことなどないのだから、それも当然のことだが、そのことを高校時代から意識していたような気分のまま夢を見ている。
 社会人になったえりなはなぜかモテた。先輩社員から言い寄られることも多く、他の会社の営業の人で、訪問してくる人の中にもえりなの「ファン」がいたりした。
 えりなは、そんな言い寄ってくる男性を軽くいなしていた。
――どうしてこんなに平気にいなせるのかしら?
 と考えた時、
――そうか、これは夢なんだ――
 と感じる。
 モテたことのない自分がモテてていることでこれを夢だと思ったのではなく、冷静にいなすことのできる自分を感じたことで、これが夢なのだと感じたのだ。
 途中で夢だと感じる時というのは、それまで意識しなかった色や匂いを感じた時、
――これは夢だ――
 と感じるのだと思っていた。
 夢には色も匂いもないという話が自分の中で納得のいくものではないと思った時、逆に色や匂いを意識した時に夢だと感じるというのも、逆転の発想としてはありではないかと思えた。
 実際に、現実世界で色や匂いを必要以上に感じることはない。なぜなら、色や匂いがあるのが当たり前だと思うからだ。それを無理にでも意識させようとするのは、色や匂いを否定する世界に自分がいるのではないかと感じたからだ。
 心理学を専攻するえりなにとって、逆転の発想は、自分の考えを冷静に持っていくことのできるものとして、いつも心がけているものだった。
 自分の中にある二つの世界を足して、百パーセントを超えているという発想を夢の世界に抱いたことがあったが、それは夢が一つの次元で構成されているのではないかという思いにいたるものであった。
――同じ時代を平行して見ることができるのが夢なんだ――
 と思った。
 それが中学時代の夢を見ながら、自分だけが社会人なのに、まわりは中学生だという夢を見せるのだろう。
 その証拠に、友達と会話をしているところを夢に見ることはないし、出会うというわけでもない。しかし、中学生の教室に、社会人の自分が混じっていても、別に誰も不審に思わない。まるで当たり前のことのように時間が流れ、その時間が平行した別世界だという意識は夢を見ている間にはないのだ。
 不思議だと感じないからなのだろうが、それも究極の冷静さが、違和感を抱かせないからなのかも知れない。
 えりなが夢を見ている時に感じることは、正直目が覚めてから覚えていることはない。見た夢を断片的に覚えている内容から、想像して夢を思い出すのであって、ところどころ繋がっていないので、見た夢が納得できるものではないはずなのに、なぜか夢を形成している時がある。
――偽りの記憶――
 それは重々分かっているのだが、偽りの記憶の中には、きっと忘れてはいけない記憶が混じっているのだと思うと、数少ない覚えている夢が、現実世界の自分に、何か影響してくるのではないかと思わせるのだった。
 しかし、覚えている夢のほとんどは怖い夢ばかりだった。それは断片的な記憶を継ぎ接ぎだらけになるのを分かっていて、敢えて?ぎ合わせようとするからなのかも知れない。
 えりなあh、百パーセント以上の夢の中に、重なった部分があるわけではないことを知っている。それは、
――決して交わることのない平行線――
 だということを示していて、見た目には重なっているように見えるが、断面から見れば、その距離は想像以上に離れているという意識を持っている。まるで宇宙に思いを寄せているかのようだった。
――そんなことばかり考えているから、いたちごっこから抜けられないんだわ――
 とえりなは思っている。
 その時に思い出すのは、ペットショップのハツカネズミだった。必死になって前に進もうとするのに、それ以上進むことができない。人間だったら、ストレスから精神異常をきたすかも知れない。
 ハツカネズミだから、大丈夫なんだろうか?
 いや、ひょっとすると、ハツカネズミも精神異常をきたしているのかも知れない。ただ、彼らは何も言わず、訴えることもできない。ただ、それは人間が見ていて、気付かないだけで、人間以外の動物が見ると、その悲しい運命を分かっているのかも知れない。
「人間はなんて残酷な生き物なんだろう?」
 と、人間以外の動物が囁いているのが聞こえてくる。
 考えてみれば、人間ほど傲慢な生き物はいない。
 人間だって動物の端くれなのに、他の動物とは違う「人間」として、特別扱いをしている。
 また、宇宙的な発想でも同じで、中学時代にクラスメイトの男の子たちの会話を思い出していた。
「前に見た昔の特撮ビデオにあったセリフなんだけど、地球人と侵略してきた宇宙人との会話に面白いものがあったんだ」
「というと?」
「そのお話は、地球を征服しようとしてやってきた宇宙人が、武力で侵略するのではなく、欺瞞から相手を油断させる方法を取っていて、自作自演のガス攻撃で、それを自分たちの科学力がそのガスを排除したという話から始まるんだけど、これって、彼らの科学力のすごさで半分は威嚇しているようなものなんだけど、そこには子供向けの番組なので、敢えて触れていなかったんだ。でも、なぜか地球人は、彼らの科学力のすごさに、彼らを信じてしまう。これもおかしな話なんだけどね」
 少し話が脱線していたが、彼はまた続けた。
彼らは、自分たちが地球人の兄弟だというんだ。しかも、それが地球人がまだまだ未開の弟で、自分たちは文明を持った兄だとね」
「地球にもありえることだよね。先進国と、発展途上の国への皮肉のようなものだよね」
「俺は、それも一つの真理だって思うんだ。確かに先進国と発展途上の国を差別するのはいけないことなのかも知れないけど、現実的に、下等民族というのはいるもので、彼らが先進国の民族に支配されるのも、一つの運命としてはありなんじゃないかってね」
「差別なんじゃないか?」
作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次