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いたちごっこ

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 と言われたり、言われないまでも、納得していると言わんばかりに頭をうんうんと何度も下げている様子に出会うことがほとんどだった。
――もう慣れっこだわ――
 と感じた。
 えりなも、類を漏れず、まわりからは心理学を専攻している女性として意識されているようだった。
 彼氏がなかなかできないのも、心理学のせいではないかと思うこともあった。
 もちろん、言い訳でしかないのは分かっている。心理学を志している女性の中には彼氏がいる人も結構いる。心理学を志している女性はえりなが思っているよりも多く、男性よりも女性の方が比率としては多いのは分かっていた。
「理屈っぽいって思われることが多いのは、少し考えちゃいますね」
 とえりなは、あゆみに言った。
「そうかしら? 心理学を専攻している人と話をしたのはえりなさんが初めてなんですけど、えりなさんには、そんなことは感じませんよ。むしろ、他の人の方が理屈っぽく感じられるほどで、理屈っぽい話をしている時というのは、何か後ろめたいことがある時だったり、何かを隠したいと思っている時が多いような気がします。私の気のせいなのかも知れませんけどね」
 とあゆみは言った。
「なるほど、確かにそうかも知れませんね。私はそんな人って、自分を保身したいから理屈っぽくなると思っちゃいます」
 と、えりながいうと、
「そうでしょう? だから、えりなさんがさっき言われたように、自分を他人事のように感じている人には、自分を保身するという意識はほとんどないような気がするんですよ。だからえりなさんには、理屈っぽさが感じられないと思うんです」
 とあゆみが言った。
「でも、人間には、自分が相手に対して優越感を持ちたいという意識があると思うの。だから自分が持っている知識や他人にはない自分だけの知識をひけらかせたいという感覚が出てくるのではないかって思うんだけど、違うかしら?」
「それはあるでしょうね? でも、今えりなさんは、『違うかしら?』って言ったでしょう? それは自分の意見に完璧さが感じられないから、相手に気持ちを確かめようという気持ちになるんじゃないかしら? そういう意味ではえりなさんは、知識をひけらかすという意識はないように思うんですよ。無意識にでもですね」
 というあゆみの言葉を聞いて、
――それはいい意味なのかしら?
 と、ついあゆみの言葉の裏を読んでしまおうとしている自分に気が付いた。
 えりなが少し考えていると、
「大丈夫よ。えりなさんは、人を不快にさせるような言葉を言わない人だと思いますから、自信を持っていいと思いますよ」
 とあゆみに言われて、
――どうしてあゆみさんは、こんなに自信ありげに話ができるのかしら? それに比べて私は最後に「違うかしら?」と繋げるような自信のない言い方しかできないのに――
 と考えていた。
 やはり電子工学を勉強していると、心理学に近い発想が生まれてくるのではないかとえりなは考えた。
「あゆみさんが専攻している電子工学が心理学に近い発想を生むことができるんじゃないかって今感じています」
 とえりながいうと、
「そうなのかも知れないけど、考え方を柔軟にしようと思っているんですよ」
「どういうことですか?」
「機械やコンピュータというのは、プログラムで皆動いているんですよ。プログラムというのは、基本的なシステムがあって、それに沿うように作り込んでいくんですね。つまりは、自分で作ったようにしか動かないというのが当たり前のことですが、真理なんですよね。だから、思った通りに動かなかった場合、何がおかしいのか自分でいろいろ調べたり、試したりして修正して、正しく動くようにするんですよ。基本は決まっているんだけど、そこから派生して、正しく動くように纏めるというのが、大きな作業でもある。だから、柔軟な考えを持たないとできない作業なんですよ」
「なるほど、失敗して、そこから経験を得ることで今後に生かすということもあるわけですね」
「ええ、それが中核といってもいいかも知れませんね」
 えりなは、その話を聞いて、
―ーなるほど――
 と感じた。
「えりなさんは、本を読むのが好きなようですが、本だってそうですよね。小説のようなお話には、起承転結という基礎があって、そこからいろいろ幅を広げていきますよね。最後に読み手に、なるほどと思わせたり、そうだったのか? とビックリさせたりするのが本の醍醐味ですよね」
「ええ」
「でも逆なんですよ。結末は決まっていて、そこからどのようなプロセスで組み立てていくかが問題になってくる」
「小説も同じですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、読み手は頭から小説を読んでいくから、ラストを楽しみにする。でも書き手はラストを決めてから、途中を考える人が多いんじゃないでしょうか? もちろん、書きながら話を膨らませて、最後にラストをどうするか考える人もいる。人それぞれなんでしょうけどね」
「そうですね。私は確かに読み手の方向からしか見ていませんでした。確かに私たちが作ったものを使う人には、出来上がるまでの過程なんか、まったく関係ないですからね。そういう意味ではえりなさんのお話に同感いたします」
 とあゆみは言った。
 最初はあゆみが話の主導権を握っているようだったが、途中から話の展開からか同等な立場になってきていることに気が付いた。
――こんな関係っていいわね――
 とえりなは感じた。
「えりばさんは、心理学の勉強をしていて面白いですか?」
 とあゆみが聞いてきた。
「面白いというか、興味のあることには結構深く入っていくことが多いですが、そうでもないことは、流してしまうことが多いですね。心理学と一口に言っても、いろいろありますからね」
「それは電子工学にも言えることですね。私がどうして面白いのかと聞いたかというと、私は何もないところから何かを作り出すことが好きなんですよ。そういう意味では電子工学というのは私にピッタリだと思ったんですが、心理学というのはそういうものではなく、既存のものを掘り下げていくものでしょう? 私にはその感覚が分からなかったので、面白いのかと単純に思っただけです」
「そういうことだったんですね。そういう意味では私もあゆみさんと変わりないですよ。あゆみさんも、自分が興味のある新しいものを作り出すということだから面白いと思うわけでしょう? 私も同じです」
「でも、世の中って、自分のやりたいことだけを続けていけるほど甘い世界ではないですよね。私もそれは分かっているつもりなんですが、それでもどうせならやりたいと少しでも思うことであれば、だいぶ違うと思うんですよ」
 というあゆみの話を聞いて、
「私は少し考え方が違うんですよ」
「どういうことですか?」
「いくら自分のやりたいことであっても、すべてが思い通りにいくわけはないと思うんですよね」
 というと、あゆみはうんうんと頭を下げながら聞いていた。
 えりなは続ける。
作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次