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いたちごっこ

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「ええ、でも、この失恋という言葉、他の人が使うものとは違うの。恋を失ったのは私だけで、相手は最初からなかったのよ。ある意味スッキリする気持ちにもなれるんだけど、どうして自分があんな男に引っかかったのかという意味では、情けなくも思うわ。友達に対してもそう。いえ、友達に対しての方が酷い気持ちになっているのかも知れないわ」
「それは、きっと、彼氏を争奪するところから歯車が狂ったのかも知れませんね」
 とえりながいうと、
「そうかも知れないけど、最初から無理を押し通したのかも知れないわ。まさか出会いが最高で、そこからすべてが下り坂なんて、思いもしないからね。ひょっとすると、別れたことで、出会う前の自分に戻れたのかも知れない。出会いすら否定したい気分に、今の私はなっているからね」
「そこまでの経験は私にはないですね」
 えりなは、想像を絶する話に、余計なことは考えないようにしようと感じた。
「なんとなく堂々巡りを繰り返している自分が少し怖くなってしまうこともあるんですが、本当なら、こんな最低な男にかかわったことを後悔するのならいいんですが、二人がよりを戻して、万が一幸福にでもなった時には、なんて考えると、変な男に引っかかったということよりも、致命的なショックを受ける気がしたんですよ」
 彼女の話を聞いて、
――これが女としての気持ちなのかも知れないわね――
 と感じた。
 逃した魚は大きいという言葉や、隣のバラは赤いという言葉を思い出していた。彼女は自分のことよりも、まわりのことの方に目が行くようで、将来のことを考えてのことだともいえる。単純に嫉妬深いだけだと思えないのではないかとも思えてきた。
 彼女の話を聞いてえりばは、自分に当て嵌めてみた。
――私も嫉妬深いはずなんだけど、幸運なことに、嫉妬するようなことってなかったような気がするわ――
 それは、単純に嫉妬するようなできごとがなかったというだけで、
――知らぬが仏――
 という言葉で言い表させるたぐいなのかも知れない。
 しかし、人の話を聞いていると、自分にとって何がいいのか分からなくなってしまう。まだ大学生なので、これから恋愛もいろいろ経験するはずなので、余計なことを考えすぎない方がいいのだろうと思うと、気が付けば、いつの間にか他人事のように考えている自分を見ているようだった。
――だから、自分を他人事のように見るようになったのかも知れないわ――
 えりなは、そんなことを考えていると、
「あなたとは、仲良くなれそうな気がするわ」
 という彼女に言われて、
「そうですか? 私もです。あなたを見ていて今まで気付かなった。いや、気付いていたけど、どうしてそんな感覚に陥るのか分からなかった自分を顧みることができるような気がして、それが嬉しく思います」
 これはえりなの本音だった。
「それは私も感じます」
 そういって頷いている彼女を見ていると、彼女も自分のことを他人事のように考えられる人であることを感じていた。それは自分と同じなのかどうかは分からないが、自分の中でショッキングなことが起こった時、そのショックを和らげる手法として、自分を他人事のように見ることができる人だということだ。それを、
――冷静に自分を見ることができる人だ――
 と言えるのだろうが、大人の対応ができるかどうか、最終的にはその人の技量にゆだねられるに違いなかった。
「私は梅田えりなって言います。K大学の三年生になります」
 とえりながいうと、
「私は、町田あゆみって言います。同じ大学の二年生です。学部は理学部です」
 と彼女は言った。
 理学部というのもビックリしたが、自分よりも学年が下だという方がビックリした。落ち着いている様子を見ると、同い年に思えた。学年を聞いても彼女に対してのイメージは変わらなかった。むしろ年上に感じられるほどだった。これからいろいろな話をすることになるだろうが、そのほとんどは、彼女の方が話の主導権を握ることになるのだと思うのだった。
「理学部って、女性は少ないですよね?」
 とえりなが聞くと、
「そうでもないですよ。文学部の男女の比率よりもまだ男女の比率は等分に近いですよ。研究員になって残る人も多いと聞きます。私は将来どうするかはまだ決めているわけではないですけどね」
 と言っていた。
「確かにそうかも知れないわね。私は文学部に所属しているんだけど、教室はほとんどの人が女性ばかりで、男性を見るのはまばらですよ」
 とえりながいうと、
「えりなさんは、何を専攻しているんですか?」
 と聞かれて、
「私は心理学を専攻しているんですよ。文学部の中では結構異色のようですけどね」
「心理学って、文学部だったんですね?」
「ええ、専攻はしているんですが、なかなか難しくて、今でも理解できないことが結構ありますよ」
 というえりなに対し、
「私も理学部で電子工学を専攻しているんですが、最近、急に心理学にも興味を持つようになったんです。電子工学の世界も心理学にまったく関係がないというわけではないような気が最近してきましてね」
「というと?」
「電子や電気というのは、人間とは切っても切り離せない関係にあると思うんですよ。人間の身体の中には絶えず電流が流れているんですよ。そうでなければ、身体が感じた感覚を脳に送ることもできないですし、頭が考えたことを、瞬時に行動に移すための信号を身体に移すこともできないと思いますからね」
「なるほど、確かに人間の身体の中に電流が流れているということは聞いたことがあります。でも、それが心理学とどういう関係があるんですか?」
「コンピュータというのは、二進数の信号を送ることで動かしているようなものですから、その信号も、人間の身体の仕組みと似ているところがあると思うんです。電流が信号を送る流れの中核を示しているとするのであれば、人間と同じですよね」
 あゆみは素人にも分かりやすいように話をしているつもりだったようだ。そのため、同じことを繰り返して話すのではないかという思いを持ちながら話しているようで、そのため、余計にぎこちない話になってしまうのも仕方のないことであった。
 えりなは、人の話を聞いていて、その人の気持ちを読むのは苦手ではないと思っていた。それは中学時代から思っていたことで、大学に入って心理学を専攻するきっかけになったのは、そのあたりの思いがあったからだ。
 だが、実際に大学に入って心理学を勉強してみると、自分が思っていたような学問とは少し違っていた。
――心理学って、こんな感じなんだ――
 心理学というのが、難しい言葉の羅列であるということも、えりなにそう感じさせた要因なのかも知れない。
 難しい言葉を何とか理解しようと思っているが、
――そのうちに、自分が無意識に心理学に時分の性格を凌駕されてしまうのではないか――
 と感じることが怖かった。
 心理学を専攻している学生は、他の文学部の学生たちと明らかに違う。逆に自分たちが専攻しているのを、
「心理学です」
 というと、
「へえ、そんな風には見えなかった」
 と言われることはほとんどなく、
「心理学っぽく見えますね」
作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次