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いたちごっこ

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 普段から無意識にでも他人事のように接することの多いえりなが、失恋したことで、人に話してすっきりさせようとするなど、普段から考えれば、虫のいいことなのかも知れない。それなのに、立ち直ってから、今度はその友達が失意の元に失恋して、立場が逆になった。
 えりなは、彼女の話を聞いてあげたが、それはいつもの他人事のような雰囲気で、失意の相手には、それが余計に感じられ、
「どうして、そんなに冷静なの?」
 と、相手に疑問を抱かせた。
 相手からすれば、
――最初、自分の話を聞いてくれたそのお返しに聞いてあげているという意識になっているだけなんだわ――
 と思わせたに違いない。
 実際は、そういうわけではなく、えりなは無意識に何でも他人事のような態度を取ってしまう性格だ。その友達もそれくらいのことは分かっているはずなのに、自分が失意にいることと、一度聞いてあげた過去を思い出すことで、えりなの態度に棘があるかのように感じたのだ。
「もういい。あなたとは、今後友達でもなんでもないから」
 と、その友達はえりなの前から去って行った。
 えりなとすれば、自業自得だと思っていた。本当なら、ほとぼりが冷めたら、自分から仲直りにいけば、修復できた仲なのかも知れないが、えりなは後ろめたさから自分から仲直りにはいけなかった。
 相手からすれば、
――しょせん、私はそれだけの仲なんだわ――
 と感じることになっただろう。
 えりなはそこで友達を失ったが、その思いはそれほど辛いものではなかった。
 他にも友達がいたというのが本音なのかも知れないが、一度一人の友達を失うと、それから時期を置かずに、他の友達とも粗悪な関係になり、気が付けば自分のまわりに友達はほとんどいなくなった。
 大学生としては、挨拶をする友達くらいはいるが、大学で挨拶する程度の相手を友達と本当に呼べるのかどうか疑問である。
 今、隣の席で本を読んでいる女性、その時の友達に横顔が似ていた。本当であれば、話くらいは聞いてあげてもいいのかも知れないと思ったが、また他人事のように思われては叶わない。
 そう思うと、この店のマスターのそっけない態度も、別に悪くないと思えた。
――マスターも、きっとどこか私に似たところがあるのかも知れないわ――
 と感じた。
 彼女は、本を読みながら、少しずつ話しかけてくる。
「私の今読んでいる本じゃないんだけどね」
 というところから始まり、
「前に読んだことのある本なんだけど、それは愛欲というよりも、純愛のようなお話だったの。最初は、愛欲のような感じの始まり方だったんだけど、私も最初を読んで、それが愛欲だと思って買って読んだんだけど、途中から愛欲ではなくなってきたの」
「いきなり、純愛関係になってきたんですか?」
「そうじゃなくって、面白いんだけど、急に途中からホラーのような感じのお話になってきたの。サイコホラーではないんだけど、おどろおどろしい感じが溢れてくるような感じなんだけど、そのうちにミステリーの様相も呈してきたの」
「それは誰かが殺されたか何かで?」
「ええ、そう思って読んでいたんだけど、実は殺されたわけではなく、自殺だった。自殺するはずのないと思われている人が自殺したことで、見方によっては、ホラーのような雰囲気だったり、殺人事件だと考えるとミステリーに見えてきたりと、見る角度によって、同じ小説でもまったく違ってくるという作風の小説だったの。これって本当にすごい作品だって思ったわ」
「面白そうですね。私も読んでみたいわ」
 というと、彼女はメモを取り出して、作者名と、作品名を書いてくれた。
「ベストセラーとかになっているわけではないので、小さな本屋さんには置いていないかも知れないわね」
 というと、ニッコリと微笑んだ。
「そういう小説を読むのって私は結構好きなんですよ。ミーハーなわけではないので、皆がいいと言う小説は、私意外と読まないことにしているんですよ」
「そうなんですね。私と似ているわね」
「そうですか?」
 と言ってお互いに笑った。
――人と目を見つめあうようにして笑ったのなんて、いつ以来かしら?
 とえりなは感じた。
――彼女も、同じことを思っているといいな――
 と、感じたが、それはあまりにも虫のよすぎることだった。
「私、今日失恋したんだけど、本当はそんなに悲しいわけではないのよ」
 と彼女は言った。
「そうなんですか?」
「ええ、どちらかというと、友達を失う方が悲しいかも知れない」
「どうしてですか?」
「実は、付き合っていたその彼というのは、友達と取り合った相手なのよ」
 という告白に、一瞬、口を開けてボーっとしてしまったえりなだったが、
「そうだったんですか。争奪戦で、あなたが勝ったというわけですか?」
「ええ、そうね。形の上では」
「というと?」
「彼を独り占めできると思った時は、私もさすがに有頂天だったわ。取り合った相手が友達だったというのは、後ろ髪をひかれる思いだったんだけど、それだけに、幸せになれるような気がしたの。そうじゃないと、友達に悪いでしょう?」
「ええ、そうですね」
 どうやら、彼女はポジティブに考えられる性格のようである。
「だから、友達とは少し気まずい関係になったけど、それでも時間が解決してくれると思っていたのよね。そうすれば、彼にも彼女にも、私は自分の立ち位置を確保できると思ったから」
「それで?」
「そこまではよかったんだけど、実は、その彼というのが、私の構想を打ち砕くだけのロクでもない相手だったの」
「というと?」
「争奪戦を繰り広げて、私が勝ったはずだったのに、私が彼の正式な彼女になってから数か月もしない間に、何と、友達とその彼とがまた付き合いだしたの」
「えっ?」
「どうやら、彼の方が、私に分からなければいいと彼女に言いよって、またよりを戻したみたいなの。彼女も私に負けたままでは嫌だと思ったんでしょうね。私に対してのあてつけのつもりもあったのかも知れない。でも、彼とは別に彼女の方は私へのあてつけがあるから、よりを戻したことを黙ってはいられなかった。だから私に告白したのよ」
「それって、修羅場になりそう」
「ええ、私は彼女から勝ち誇ったように告白された。その時の彼女に後ろめたさなんてこれっぽちもなかった。その様子を見て、私は友達が許せなかった。私は彼と付き合い始めても、気を遣っていたつもりだったのに、こんな人に後ろめたさを感じていたのかと思うと、自分が情けなくなったの」
「分かるわ。その気持ち」
「だから私は、彼女の言いたいことはそのまま受け流して、その思いを彼にぶつけたの。すると彼は開き直って、『どうせお前のような女とは、そんなに長くないと思っていたからな』なんていうのよ。彼の本心を聞けて、私はこの二人がロクでもない連中だって分かった。いや、この男がロクでもないから、よりを戻した彼女も、私に対しての敵対心をあらわにし、その思いが優越感に浸らせることになったのよ」
「それで失恋なのね」
作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次