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記憶の中の墓地

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 正則が自分と麻衣子の平行線を想像していた時、さっき思い出した子供の頃に自分を助けてくれた女の子と麻衣子の関係について想像してみた。
 二人を同じステージに上げて考えたことなどなかった。二人は子供の頃の一時期に自分にかかわった相手ではあったが、決して同じ時期にかかわっていたわけではない。それだけに想像が重なるなどありえないことだったが、今のように遠い過去として昔を振り返ると、どこか重ねて見てしまうことがあるような気がしていた。
――ひょっとして記憶の中に、交差して覚えている部分があるのかも知れない――
 錯覚が重なったという意味だが、思い返してみると、二人の間にまったく共通点がないことにいまさらながら気が付いた。
 それにしても、同じくらいの時期に、まったく共通点のない女の子二人にかかわっていたにも関わらず、感じていた思いにさほど差がないのは不思議だった。
 助けてくれていた女の子を慕っていたつもりでいたし、麻衣子には慕われているつもりでいたのに、二人ともから慕われていたという意識を持ったのは、後で知り合った麻衣子の印象が深かったからなのかも知れない。
 しかし、今思い出してみると、自分を助けてくれた女の子が転校していった時に感じた寂しい思いは、今までに感じた寂しさの中でも群をぬいていた。むしろ、彼女との別れがあったことで、寂しさを自分の中で封印することが自分を納得させることだと気が付いたと言っても過言ではない。
 正則は、確かにこの時、麻衣子と出会った。それは運命と言ってもいいはずだった。
 しかし、麻衣子の方では何も感じていない。それはボクシングのパンチを入れているのに、相手にはまったく効いていないのと同じで、力を入れるだけ相手に吸収されてしまうことで、余計な力が却って自分を消耗させることになる、
――やはり麻衣ちゃんとは、近づけば近づくほど、超えられない何かがあるのを暗示しているかのようだ――
 と感じさせられた。
 いまさら思い出したくないおばさんの顔が頭をよぎる。首を振ってその思いを断ち切ろうとするが、今度は頭の芯が痛くなってくる。
――思い出さないようにしようと思うのも叶わないのか――
 正則は、その場の自分の状況を受け入れるしかなかった。
 横を見ると、何もなかったかのように無表情で前を見ている麻衣子が恨めしい。
――何も思い出さなかった方がよかった――
 そう感じた正則だった……。

                 第四章 墓前

 新垣麻衣子が、正則の昔から知っている「麻衣ちゃん」なのかどうか、すぐには分からなかった。しかし、席が隣り合わせということもあり、話をする機会は増えた。しかも、正則も最近引っ越してきたという共通点がある。いろいろ話をしているうちに打ち解けてきて、彼女が本当に「麻衣ちゃん」なのかどうかも、そのうちにハッキリとしてくる予感があった。
 昼休み、購買部でパンを買って食べる正則は、いつも一人、校庭の奥にある木陰のベンチにいた。そこには誰も近づけないオーラがあるのか、正則に近づく人はいなかった。
 もっとも新参者ということで、自分から溶け込まない限り、他の人との関わりは持てないだろう。正則は孤独が好きなので、別に無理して他人と関わる必要もない。却って放っておかれる方が気が楽だった。
 麻衣子も別に自分から他の人と関わりを持ちたいと思っているわけではなさそうで、最初の頃は教室で一人お弁当を食べていた。そんな麻衣子が正則と一緒に校庭の奥で昼食を一緒に食べるようになるまでに、それほどの時間は経たなかった。
「サンドイッチ作ってきたんだけど、一緒に食べない?」
 麻衣子に声を掛けられた正則はビックリして、顔を上げた。自分が一人の時に誰かに声を掛けられるなど今までにないことだったからだ。
 最初の日に感じた麻衣子の無表情な雰囲気は、その時だけだった。きっと正則の中で、
――彼女も俺と同じように、孤独を嫌だとは思っていないんだろうな――
 と感じたからだ。
「いつもお弁当だけど、自分で作っているのかい?」
「ええ、お母さんが作ってくれる時もあるけど、私の時が多いの。お母さんお仕事で忙しいからね」
「お父さんは?」
「お父さんはいないの。私が子供の頃になくなったらしいのね」
 少し寂しそうな顔になったが、それも一瞬だった。
「ごめん、余計なことを聞いてしまったね」
「いいのよ。私は気にしていないわ」
「俺も両親がいないので、君の気持ち、分かる気がするよ」
 そう言いながら、正則は両親の顔を思い浮かべた。
 父親の顔はすぐに思い浮かんだが、母親の顔は写真でしか見ていないので、どこかぼやけている。ただ、そのぼやけた写真から感じる表情は、最近にも感じたことがあるような気がしていた。
「母一人子一人なので、結構大変なことも多いわ」
「お母さんのお仕事も大変なんでしょうね?」
「ええ、昼パートして、夜も居酒屋でバイトしているの。でも、お休みの時は私とお買い物に行く時もあれば、昔からやっている趣味があるので、それをしているわ」
「寂しくないの?」
「ええ、実は私もお母さんの影響からか、同じ趣味があるのよ」
「というと?」
「絵を描くんだけどね。と言ってもデッサンのようなものなんだけどね」
「デッサンなら僕もするよ」
 正則は高ぶってきた気持ちを何とか抑えるように、冷静さを装って何とか返事をすることができた。
 しかし、自分もデッサンをしているということを告げると、高ぶった気持ちが次第に覚めてくるのを感じた。
――今の高ぶりは何だったんだろう?
 という思いもあったが、その理由は麻衣子と母親が隣に座って、デッサンをしている姿を思い浮かべようとしたが、どうしても思い浮かばなかった。彼女の母親の顔が、前に父親から見せられた母親の写真とかぶってしまったからだった。
――お母さん――
 そう思うと、思わずこの間行った神社にいた女性を思い出した。
――今から思うと、あの時に見た女性の雰囲気は、写真の母親に似ていたんだ――
 母親の写真が十何年も前のものなので、似ているというイメージは、
――どこかで見たような――
 と感じた時、母親の写真を思い出したことで、強引にそして勝手に自分の中で結び付けただけだとも思えた。
「お母さんは、今でも絵を描いているんですね?」
「ええ、描いている場所まではよく知らないんだけど、なるべくお母さんの邪魔にならないようにしたいって思うんですよ」
 と言いながら、少し寂しそうな表情になった。
「どうしたんだい?」
「いえ、私はお母さんのことを考えていると、急に寂しい思いがしてくることがあるんですよ。なぜなのかしらね?」
「僕はお母さんのことを知らないのでよく分からないけど、お父さんと二人で暮らしている時、お父さんのことを考えると、やっぱり寂しく感じることがあったんだ。それは、父親の顔が寂しそうに見えたから、その思いが移ったんじゃないかって思っていたんだよ」
 父親の寂しそうな表情は、珍しいことではなかった。普通にしていても寂しそうに見えるのは、やはり家の中が男だけだからであろうか。母親だったり、姉妹がいれば、少しは違ったのかも知れない。
作品名:記憶の中の墓地 作家名:森本晃次