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記憶の中の墓地

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 二度目に同じ夢を見たと思って目が覚めたその朝、同じ夢を見たと思っている一度目の夢をいつ見たのかということを思い出そうと思ったが、ハッキリとしなかった。
――確か、つい最近見たような気がするんだけどな――
 と思ったが、今回見た夢に出てきた女の子は、自分から見て幼い女の子だと最初から分かった。それなのに、最初に見た時感じた女の子には、その子が子供だとは思ったが、主観で見ている自分から見て、それほど幼いとは思わなかった。
 二度目で見た夢では、自分がヒーロー戦隊になって、彼女を助けるというシチュエーションはなかった。
「何とかしなければ」
 という思いだけが先行して、できることとすれば、警察に通報することくらいしかなかった。
 ただ、警察に通報したとして、本当に信じてもらえるのかどうか、最初に考えたのはそれだった。
「誘拐ということであれば、被害者がいて、その被害者の身内に身代金要求があるか、あるいは、行方不明になったということで、捜索願が出ていることが前提となる。
 身代金要求であれば、
「警察には知らせるな」
 と、犯人は言うだろう。
 そうなると、脅迫を受けている人が届けることは普通ありえない。警察に届けていたのであれば、すでに捜査は始まっていて、いまさら通報しても遅いというものだ。
 また、通報することで、警察には知らせてはいけないという警告を、知らない人が知らないところで届けているとしても、犯人にはそのことは分からないだろう。一歩間違えると、被害者の命が危なくなるというのは必至である。
 行方不明になったということで捜索願が出ていた場合も同様である。もし、犯人がいるとすれば、最初から犯人の計画はとん挫している。犯人が狂気の沙汰ではない状態になってしまうと、予期せぬ状態になりかねない。危険な状態と言ってもいいだろう。
 もし、正則の勘違いで、実際に犯人はいないのだとすれば、行方不明者の捜索願などかなりの数が警察に通報されているだろう。そう思うと、その中から一致する人を探すことは至難の業というものだ。
 結局正則は何もできなかった。
 もっとも、正則でなくとも、他の人が目撃したのだとしても、考えることは正則と同じである。
 一度目に見た時は、自分がヒーロー戦隊になっているという妄想をすることで、自分を納得させた。妄想というのは、子供の頃結構していた。今から思えば、自分を納得させることというよりも、元々はいじめられっ子だった頃の意識が残っていて、
――自分がスーパーヒーローになって、いじめられっ子になる前に戻りたい――
 という意識が強かったのかも知れない。
 スーパーヒーローになっている時というのは、自分がいじめっ子になって、自分を苛めていた連中をやっつけるというシチュエーションではない。
 誰か他に苛められている子がいる。苛めているのは、いつも自分を苛めている連中だ。スーパーヒーローの仮面をかぶっていることで、いじめっ子には相手が自分だとは分からない。
 少し複雑な気分だった。
 自分を苛めている連中に顔を見せて、立場が変わったということを思い知らせたいという思いがあるのは山々だ。しかし相手に自分だと分かってしまうと、いくら不思議な力を持っているとしても、自分の気持ちが萎縮してしまって、せっかくのコスチュームも役に立たない。ヒーローの恰好をしていると言っても、中身は正則なのだ。考え方一つで、弱くも強くもなるのだ。
 それは夢であっても同じことだ。
 夢だと自覚していたとしても、自分の中に弱い心があれば、それ以上の力を出すことはできない。正則にもそんなことは分かっている。分かっているだけに強い心を持つには抵抗があった。
 その思いは、自分が苛められっ子だったというトラウマが夢の中にも出てくる時期にしか現れないもので、大人になってからでは見ることのできない夢や妄想だと思っている。
 子供の頃に見た夢であるとすれば、なぜ今頃、もう一度同じシチュエーションの夢を見るというのだろう。
――いまさら――
 という思いが強く、そう思うと、
――今の自分の気持ちが子供の頃に近づいているのではないか?
 と思うようになった。
 さらにもう一つ考えられるのは、
――引っ越ししたことで、忘れていた何かを思い出したのではないだろうか?
 という思いだった。
 環境が変わることで、変わった環境がまったく真新しいものではない限り、過去にあった出来事に思わず重ねてしまおうという意識が生まれるようだ。この街に来て最初に感じたのは、
「この街、どこか懐かしさがある」
 というものだった。
 正則は、子供の頃に住んでいたところから一度引っ越している。子供の頃に住んでいた街は、引っ越した街よりもさらに田舎だった。今度引っ越してきた街には都会を感じるのに、かつて住んでいた片田舎の街を思い出すというのは矛盾を感じるのだが、それでも懐かしさを感じるというのは、個々の部分を見るからというよりも、全体を漠然と見て感じることだと分かるまでには、さすがに少し時間が掛かった。
 子供の頃に住んでいた街全体を見渡したという記憶は確かにあった。そしてその光景をイメージするたび、誰かの顔を思い出しそうになるのを感じていた。その相手というのはいじめられっ子だった正則を助けてくれていたが、小学校卒業を前に引っ越していった女の子のことである。
 その女の子の顔は思い出せそうで思い出せなかった。正則を苛めていた男の子たちに対しては毅然とした態度をいつも取っていたのに、正則に対してはいつも優しかった。本当なら、
「男のくせにしっかりしなさい」
 と、一喝されてもいいはずである。
 その方が正則にとって本当はよかったのかも知れないが、どうしても彼女の方で、正則に対してきついことが言えないようだった。
 そんな彼女のことを正則は好きになっていた。もちろん、異性に対しての意識などまだない時期だったので、女性として見る目があったわけではない。
――自分を助けてくれる頼れる女の子――
 というイメージとは別に、正則のことを慕っているように見えるその態度に、正直戸惑っていたのも本音だっただろう。
 彼女のことを二重人格のようにいう噂を聞いたことはなかった。しかし、正則から見れば、自分を苛めている男たちに対しての毅然とした顔には怖さが見えていて、正則に対しても同じ顔をしたのだとすれば、いくら助けてくれる相手だとはいえ、引いていたに違いない。
 しかし、正則の前にいる時の彼女は、完全な「女の子」である。
 正面から見つめられると、金縛りに遭ってしまっていた。本人に意識はなかったかも知れないが、彼女に女性を感じていたのだろう。
――夢に出てきた女の子――
 女の子を正面から見たわけではないので分からなかったが、正則を助けてくれる女の子が正則を正面から見つめる顔に似ていた。
――潜在意識として残っている記憶が、夢になって出てきたのだろうか?
 夢の中で、正面から見つめられたわけではないのに、金縛りを感じた。彼女を助けたいのに、飛び出していくことができなかった。正則はそれを、
「夢の中だから」
 と思ったが、そうではない。
作品名:記憶の中の墓地 作家名:森本晃次