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記憶の中の墓地

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 もちろん、デッサン画というものが、鉛筆で描いているにも関わらず、立体感を浮かび上がらせる力を十分に持っているのを感じたからだったというのも大きな理由だった。
 だが、凍り付いた世界に感じた思いとのギャップがどこにあるのか、最初は分からなかったが、気が付いてみると、
――なんだ、そういうことか――
 と拍子抜けしたほどだった。
 アニメで見た凍り付いた世界には、立体感が感じられなかった。モノの形を表すためだけのために明暗が存在し、立体感を表すことはなかったのだが、その理由として、
「影がないことだ」
 ということにはすぐに気づいた。
 考えてみれば当たり前のことである。
 影というものは、光があってこそ現れるものであり、凍り付いたモノクロの世界というのは、影を作るだけの力を持っていない。何しろ、色というのも、太陽の光の魔術のようなもので、スペクトル線が影響しているからこそ色が発生するのだ。それを思うと、モノクロの世界に影がないのも当たり前のことで、凍り付いた世界に太陽の恩恵は存在しないのだ。
 ということは、
――時間の流れにも太陽の光が影響しているのではないだろうか?
 という思いも生まれてくる。
 影の角度は日の光によって影響してくるが、そこに時間まで操る力を持っているのだという発想を絡めるのは危険な気がしたが、考えを深めれば、解明できていない不可思議な出来事も、太陽の光と時間の関係を考えることで分かってくることもあるのではないだろうか。
 正則は、自分の考えがいつも堂々巡りを繰り返していることに気づいていた。
 ある時点を限界として、繰り返すことになるのだが、そこに共通点があるものだと思っていた。
 しかし、その共通点がなかなか見当たらない。
 自分で妥協してしまうことが無意識な時間を作ってしまい、油断から気が付けばまた同じ位置に戻ってしまっているのかも知れないと考えたこともあった。
 油断は確かにあったかも知れないが、無意識な時間を作るのは、妥協が原因ではなく、自分としては、
――息継ぎ――
 のためだと思うようになっていた。

                 第二章 運命の出会い

 父親が死んでからしばらくは親戚に預けられていた。
 親戚の家では同じくらいの男の子がいて、預けられた頃は仲が良かったのだが、次第にギクシャクしていた。
 何か、いつも話しかけてくれようとしているのだが、声を掛けるところまでは行かない。正則も相手が、
「預けられた家の子供」
 という絶対的な優劣を感じることで、自分から話しかけることはなかった。
 頭の中では、
――皆、平等なんだ――
 と思ってみても、そんなことありえるわけはない。
「友達と仲良くするには、相手の気持ちにどこまでなりきれるかということかも知れないね」
 と、学校の先生は言っていたけれど、絶対的な立場の違いを感じている二人の間に存在する溝は、相手の気持ちになれるような環境を与えてくれるはずもなかった。最初から、優劣は決まっていたのである。
 そんな優劣を少しでも払拭しよういう意識は、相手が持てるはずはなかった。
 もし、立場が優越の相手が気を遣ったとすると、それは押し付けになってしまう。逆に劣等の立場の人間が気を遣うのは、それこそ立場をわきまえないおこがましさに繋がるだろう。
 つまりは、歩み寄りは二人の間では難しいのだ。
 しかし、最終的には二人の間の問題だった。
 最初はお互いに意識していなかったのでうまく行っていたのだろうが、どちらかが少しでも優劣について意識してしまうと、歩み寄りは不可能になってしまう。その原因は、相手側にあった。
 彼は自分の両親の話を聞いてしまったのだ。
 元々両親があまり仲が良くないことを不安に感じていたこともあって、両親の一挙手一同をずっと気にしていた。ある日、深夜、皆寝静まったはずのリビングから、両親の会話が聞こえてきた。
 皆の寝室は二階にあり、トイレも二階に配備されているので、夜トイレに起きてきたとしても、一階に降りてくることはない。リビングは一階にあり、扉を閉めていれば少々の声であれば二階に聞こえるはずがない。その時彼の耳に両親の声が聞こえてきたのは、それだけ二人が興奮した会話をしていたということであり、しかも、一度その声に気づいてしまうと、両親のことには過敏になってしまう彼にとっては、黙って済ますことのできないことになってしまった。
 彼は恐る恐る階段を下りて、両親の会話に耳を澄ませていた。
「いつまでこんなことを続けるの?」
 母親の声だった。
「しょうがないだろう。お前が同じ立場だったら、どうするんだ?」
「何よ。あなたがしっかりしていないから、お兄さんたちの言いなりになって、余計なものを抱え込んだんじゃないの」
「余計なものとは何だよ。少なくとも一人の少年なんだぞ。俺の兄貴の忘れ形見じゃないか」
「そうね、あなたにとっては甥っ子ですもんね。でも、私は血が繋がっているわけじゃないのよ。他人なの」
「そんな言い方するなよ」
「だって、本当の子供だけでも大変なのに、どうして他人まで抱え込まなければいけないの? 第一、私は他人と思う子に、どう接すればいいのよ。特にこれから受験だったり、いろいろなデリケートな問題が出てくるのよ。もし、他人の子が受験に合格して、自分の子供が不合格なら、どんな顔をすればいいっていうの? あなたは、そういうことが何も分かっていないのよ。目の前に見えていることだけを表に立って解決し、その善後策はすべて私に押し付けなのよ。私だって人道的なことは分かるわよ。でもね。現実に目を向けると、大きな問題は山積みなの。あなたはそんな問題すべてに目を瞑って、私に押し付けているだけなの」
 父親は、何も言えなくなった。
 ここで何かを言い返せば、何を言ってもすべてが言い訳でしかない。
 確かに彼としても、自分が思春期で、自分でもどうにもならないような感情が芽生えてきていることを感じていた。そんな環境の中、最初から正則がいたことで、あまり気にしていなかったが、自分の母親を苦しめていることに気が付かなかった。
 母親のいうことはもっともだった。父親が言い返すことができないのも当然である。だが、男として父親の立場も分からなくはなかった。しかし、どうなるものでもない。
 自分から母親に何か助言できるはずもなく、当事者でありながら、何もできない自分が情けなく感じられるほどだった。
 彼は基本的には優しい性格である。優しい性格でなければ、いくらおじさんが亡くなったから仕方がないとはいえ、自分の家に急に一人の同年代の男の子が一緒に住むようになったのだ。動揺があったのはウソではない。
 それに、少しでも「優しい」という言葉で言い表すことができるような性格でなければ、最初から正則に対して優越感を持っても不思議はなかった。
――ここは俺の家なんだ。お前は居候なんだ――
 という思いが芽生えても無理もないことだろう。
作品名:記憶の中の墓地 作家名:森本晃次