短編集37(過去作品)
鮫島も前世はキリシタンだったに違いない。鮫島に裏切られた彼女は、まるでその怨霊を晴らすかのごとく、自分の目の前で浮気をして見せたのかも知れない。今までに何度生まれ変わったか知れない三人が、今の世の中で一緒になるということは実に信じがたいことのように思えるが、偶然ではなくいつも同じ時を生きているとすれば、今、感じている自分は前世を引っ張ってきた彼女や鮫島に誘発されたのだろう。
尾道で出会った彼女と、天草で鮫島と過ごした時代は違う前世なのだろう。しかし、彼女は同じ運命をたどっている。相手が鮫島であろうが、桜井であろうが、二人にとって彼女は同じ人間に見えているに違いない。
尾道で見た二人も、天草で見た二人も間違いなく存在している。ただ時空を超えたのが桜井だということに本人は気付いていないのだった……。
( 完 )
作品名:短編集37(過去作品) 作家名:森本晃次