小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

永遠の保障

INDEX|7ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 そんな時代だったkら、
――俄か作家――
 と呼ばれる人が増えた。
 中には文法作法すら知らない人が、趣味で小説を書く。ただの趣味で満足できている人はいいが、中には本気でプロを目指そうとする人もいただろう。そんな人には自費出版の会社は救世主に見えたのだ。
 彼らは宣伝だけではなく、読み込みのできる人間を営業に置いた。応募してくれた作家に担当をつけて、応募作品は必ず読んで、そして批評をして返すのだ。
 しかもその批評にはいいところだけではなく、批判もしてある。いいところだけを褒めちぎったのであれば、そこは無理があるのか、信憑性に欠けるだろう。批評があれば、応募者も信用し、
――ちゃんと読んでくれているんだ――
 と思うことで営業を完全に信用させる。
 そうなると、金銭的なものがきっと二の次になるのだろう。一度相手を信用させると、信用した人は金銭感覚が鈍ってくる。自分の夢をお金で買うということに感覚がマヒしてしまっていたのかも知れない。
 ただ、それはきっと本当に実力のある人には通用しない。あくまでも企画出版にこだわるはずだ。出版社の方はそんな人を相手にするよりも、圧倒的に多いはずの俄か作家にターゲットを絞ることだろう。
 そうなるとあとは簡単であった。出版させることにそれほどの難関はない。
 だが、経営という面ではどうだったのだろう?
――自転車操業――
 という言葉があるが、まさにその通りだった。
 自転車操業というのは、会員を集めることが最優先となっている。そのために必要なのは宣伝費である。会員が増えて、応募作品が増えれば、営業の数も必要になる。そして一人一人の営業の負担も増えてきて、それぞれの人間のキャパを完全にオーバーしていたのだろう。
 さらに問題になってくるのは、出版しても、その在庫をどうするかである。
 たとえば一人の作家の一作品を千部発行したとして、本屋に置いてもらうのに数冊使い、作家さんに数冊を戻したとして、本屋に置いてもらったとして、
「そんな無名の作家の本を、そんなに長い期間置くわけはない」
 というのが本屋の見解であろう。
 毎日有名作家の作品が何十冊と発行される中で、無名作家の本の入り込む余地などあるはずもない。実際には本屋に並ぶこともないだろう。
 そうなると、本当に本屋に出荷されるかどうかというのも疑問である。在庫はほとんどの発行部数と同等になり、
「発行すればすべてが在庫として持っておかなければならない」
 ということになり、そのための倉庫も必要だ。
 出資の額が大きいのも、宣伝費、人件費、そして在庫の保管費、それぞれを賄うために必要な金額ということになり、あながち最初に言われた金額も出版社側からすれば、無理のない金額ということかも知れない。
 しかし、そのからくりが分かったとして、出資作家が黙っているだろうか? そんなことはありえない。実際に裁判沙汰になり、いくつも訴訟を抱えている状態になった。
 それが社会問題になると、今度は宣伝を見ても、作家を募ることは難しい。しかも最初のようにブームに乗っているわけではなく、数年経てば、ブームは去ってしまうことだろう。
 そんな状態になってくると、自転車操業ほど弱いものはない。全貌がワイドショーなどで明らかになると、あとは衰退の一途をたどる。実際に訴訟を受けた会社には未来はなく、あっという間に負債を抱えて倒産。さらに、他の類似会社も倒産に追い込まれることになる。
 さらに、彼らが民事再生法を適用したことで事態は最悪になった。
 作家が書いた本の在庫を、
「二割引きで買い取ってくれ」
 と著者に申し出たのだ。
「何を言っているんですか。すでに出版する時にお金を出しているじゃないですか」
 と言っても、
「買い取ってくれないのであれば、廃棄するだけです」
 法律というのは冷たいもので、そう言い放たれると、作家は泣き寝入りであった。
 彩香は、
――あの時、見切っていてよかったわ――
 と感じた。
 そしてやっと目が覚めたであろう他の人は、それからどうするのか興味はあったが、火が経てば気にすることもなくなった。また新しいブームが生まれてくるのが分かっているからだ。
 ただ後日談として、
「自費出版関係の会社は統廃合を繰り返して、一つの大きなところが生き残ったようですよ」
 と聞かされた。
 その言葉の裏に、
「その会社の意思が最初からかかわっていたかも知れない」
 という含みがあったことを、彩香は感じていた。
――私さえしっかりしていればそれでいいんだ――
 と彩香は感じていた。
 そんな状態が続いたので、作家になりたいと思っていた人は若干減ったかも知れない。もちろん、真面目に作家を目指して頑張っている人もたくさんいたであろうが、それ以外で軽い気持ちの人が多かったのも否定できない。
「あわやくば」
 あるいは、
「主婦がちょっとした夢を見てもいいじゃない」
 という程度の人もいたはずだ。
 そんな人を悪いとは思わないが、そんな人たちがこの時の事件が原因で作家になるのを諦めたり、他にセカンドライフを見つけたりしたのだ。それはそれでいいことで、彩香もあまり気にもしていなかった。
 それよりも、自分がこれからどうするかが問題だった。
 作家を目指すと言っても、本気だったのかと言われれば疑問に感じる。その他大勢ではなかったとは思うが、この事件を機に、自分のセカンドライフをどうしようか悩む時点で、本気ではなかったと言っているようなものである。
 作家を目指すなら、それから以降の道としては、書いた作品を出版社系の文学賞に応募して、地道に受賞を狙うしかないと思った。持ち込みがほぼありえないのだから、可能性はそれしかない。
 ただ、それは過去に戻っただけなのだ。
 持ち込みの可能性がほぼないという状況の中、プロを目指している人たちの気持ちの盲点をついたような自費出版社の出現。ブームと言ってしまえばそれまでなのだろうが、人の心の微妙な部分に巧みに入り込む商売は、いい悪いを別にして、人の欲がある以上、なくなるということはないのだ。
 彩香は、一時期小説を書くのをやめていた時期があった。
 ただ、自費出版社関係には最初から疑問を感じ、あてにならないということは分かっていたはずなのだ。だから、執筆の再開にはさほど時間が掛からなかった。
――私は騙されることはなかったんだ――
 という思いが強く、また最初から趣味として初心に戻ればよいだけのことだった。
 それからしばらくして、ネットで、
「無料小説投稿サイト」
 と呼ばれるものを見つけた。
 最初は、あまり興味を持っていなかった。なぜなら、
――サイトに無料で公開しても、それが作家になるための登竜門になるわけではないのよね――
 と思ったからだった。
 だが、彩香がその時執筆していたのは、趣味として初心に帰ったつもりで続けようと感じたからだった。だから、無料小説サイトの存在が次第に気になるようになってきたのも無理もないことだった。
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次