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永遠の保障

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 きっとそれを相手はエゴだというだろうが、小説家などの芸術家というのは、そもそもエゴから始めたものだと思う。
 そう思うと彩香は、
「誰だって自分のために何かをしているんじゃないの? 芸術家が作品を作るのは別に人のためではない。出版社からの要望もあったりするだろうけど、最初は皆自己満足から始まっているんじゃないかしら」
 というと思っている。
 どちらに説得力があるのかは難しいところだけど、彩香は芸術家であっても、まずは自分が中心だと思っている。
 彩香はまわりに小説を書いていることは話していて、
「別に文学新人賞や本を出したいなんて思っていないわよ」
 と口では言っていたが、出版社系の新人賞にも応募していて、自費出版社系にも応募していた。
 さすがに出版社系の新人賞はすべて一次審査も通らないという惨敗状態で、自費出版社系の会社に応募すると、
「あなたの作品は優秀だとは思いますが、出版社がすべてを出資する企画出版のレベルには達していませんので、共同出版をお願いする次第です」
 という評価になる。
 自費出版系の会社は、ブームになっているのか、複数の会社があり、彩香もすべての会社へ作品を応募していた。出版社によってはコンクールを頻繁にやっているところもあり、彩香も応募した。しかし、応募点数はかなりのもので、出版社系の新人賞募集とは桁が違っている。
「これだけの応募があるということは、そのほとんどは箸にも棒にもかからない作品ばかりなんじゃないかな?」
 という人もいるが、彩香もその通りだと思っている。
 出版社もそれぞれで、営業も熱心なところもあれば、カフェを作ったり、他業種に手を出しているところもあったりろ、さまざまであった。
 営業に熱心なところも善し悪しで、会社の営業方針なのか、営業の人間の人間性によるものなのか、一度応募すると自分の営業は決まってしまうようで、何度目かの応募の時、電話がかかってきて、
「あなたの作品は実にいい作品です。こちらから提案している共同出版に協力いただければあるがたいです」
 と言ってきた。
 今までに応募した作品は、ほとんど全部、共同出版の話があり、相手からは見積もりが送られてきた。
 その内容は、製本した時の部数と、定価、そして、こちらが出資する額だけが書いてあるのだ。
 その時彩香は出版社に不信感を抱いていた。なぜなら、本を出すための総金額が載っているわけではない、つまりは、出版社側がいくら出資するのかが分からないのだ。
 しかも、単純に計算して、出資額というのが、出版部数と定価を掛けたものよりも大きいのだ、経済学の基礎しか知らない人間でも、おかしいと思うだろう。
 それを指摘すると、
「有名本屋や、国会図書館に置いてもらうのにお金が掛かる」
 という苦しい言い訳にしか聞こえない返答をしてきた。
 ここに至って、不信感は頂点に達した。それでも、穏便に済ませようとして、
「私にはそんなお金はありません。企画出版ができるようになるまで投稿を繰り返すだけです」
 というと、相手の返事として、
「今でなければもう次はありませんよ」
 という。
「どういうことですか?」
「今は私の権限で、あなたの作品を優遇して出版会議に挙げているんですよ。もうここで出版しないと、これ以上私の力で推薦するなどできません」
 と言われた。
 これは完全に相手も切羽詰まってきているということだろう。彩香は相手の気持ちが次第に読めるようになってきた。
「ええ、それでもいいです。私はあくまでも企画出版を目指します」
――こんな出版社のために、数百万などという馬鹿げたお金を出資するなんてありえない――
 と思った。
 彩香の怒りは次第に湧き上がってきて、すでにこの出版社は見切ればいいと思っていたのだ。
 すると、相手も腹をくくったのか、ここから先はまるでヤクザまがいの表現だった。
「企画出版など、ハッキリ言って百パーセント無理です。もし、できるとすれば、それは芸能人か、犯罪者のような名前だけでも通っている人でなければ無理なんですよ」
 彩香は、
――これが本音なんだ――
 と感じた。
 ここまでくれば、もう修復などありえない。
「そうですか、私は普通の一般市民なんで、あなたの希望には添えません」
 と言って、最後通牒を渡した。
「分かりました」
 相手も分かったのだろう。
「もう二度とお話しすることもありません」
 と言って、彩香は電話を切った。
 怒りはしばらく収まらなかったが、溜飲が下がってくると、冷静になってきた。
 自費出版関係の会社は、どこもこんな感じなのかと思うと、
――ブームというのは恐ろしいものだわ――
 と感じた。
 実際に自費出版関係の会社から共同出版と言われて出版した人の数も半端ではなかったからだ。
――皆、そんなにお金持ちなのかしら?
 と感じたが、冷静になって考えると、
――お金を出せば出版できるんだったら、それは自費出版と変わらないじゃないか――
 と思う。
 確かに営業のあいつの話の中に出てきた、
「出版して世に出れば、他の有名出版社の人の目に留まることもあるでしょう。でも、何もしなければ、表に出ることはないんですよ」
 と言っていた言葉を思い出した。
 確かにその通りであり、その考えがあるから、営業の連中の口車に乗ってしまうのだろうと思った。
 それにしても、数百万というお金を他の人はどうしたのだろう?
 それだけの貯金があったということか? 彩香は自分に貯金があった場合を考えてみた。確かに出資も考えてみるだろうが、大金をはたくのだから、それだけのリスクも考える。もし無駄になってしまうと後悔の念は半端ではないからだ。
 彩香が見切りをつけたのが本当に早かったのかどうなのか分からないが、それから二年もしないうちに、自費出版関係の会社は終焉を迎えた、
 最初は、出版した人たちが、
「あなたの出版した本は、一定期間有名本屋に置かれて、国会図書館にも登録されます」
 と言われて、それを信じたことから始まった。
 その言葉が作家の心を打ったからであるが、この言葉がほころびの発端になるというのも実に皮肉なことだった。
 彼らは、実際に全国の本屋に自分の本が置かれているかどうか確認したという。そして同志を募って、同じような思いをしている人たちと協力して、出版社を訴えた。
 それが社会問題になったのだ。
 自費出版の会社にどうして人が集まったのかというと、以前であれば、出版社に持ち込むか、新人賞などに応募して入選しなければ、作家になることなど道はなかった。
 新人賞などは一握りの人だけで、なかなか難しいので、一般的には持ち込みになってしまう。しかし持ち込んだ原稿というのは、ほとんどが誰の目に触れられることもなく、そのままゴミ箱にポイというのが常識になっていた。自費出版系の会社はそこに目を付けたのだ。
 確かに目の付け所はよかったのだろう。
「本にしませんか」
 という宣伝が出版したい人の目に留まる。
 しかも当時は、バブルが弾けて、それまでたくさん残業していた人が、経費節減で残業ができなくなった。そのために、セカンドライフをいかに過ごすかというのが問題になっていた。
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次