永遠の保障
「ある程度まで打ち込んでいって当たらなければ、当然天井を目指すようになるでしょう? 大当たりすればそれだけで恩恵が受けられるということで、天井狙いが多くなる。でも、そういう恩恵を受けられる天井を搭載している台は、そのほとんどが天井手前で当たってしまうゾーンがあるんです。もちろん、天井に到達していなければ恩恵は受けられません。つまりは、かなりの投資をしていて、天井で回収しようと思っても、手前で当たってしまうと、投資分の回収どころか、単発で終わってしまうと、当たってもまったく嬉しくないですよね。天井に行くのと行かないのでは天と地ほどの開きがある。これもスロットの醍醐味なのかも知れませんね」
「本当ですよね。でも、それでも天井があるというのはありがたいことだと思いますね。天井に到達しても、到達しなくても、必ず当たるわけですからね」
「物は考えようということですね」
「スロットにしてもパチンコにしても、共通しているのは確率ということですね。スロットは設定によって、それぞれの場面で確率が変わってくる。複雑ではあるけど、それだけに楽しいとも思える。私のような素人には難しいかも知れませんね。しかも、スロットは当たれば、リールを揃えなければいけないでしょう? 七だったり、バーだったりとですね」
「ええ、でも今の台は揃えなくてもよかったりしますよ。大当たりが確定すれば、勝手に揃う台もあるし、揃わなくても揃ったことにしてくれる台がほとんどです。だから、コインを無駄に消費することもないし、遊びやすくなっているんですよ」
彩香がパチンコよりもスロットに興味がないのは、揃えなければいけないという段階があるからだった。
――もし私がやるとすれば、きっと揃えられずにあたふたとしてしまうに違いないわ――
と感じていた。
「でも、スロットの台の特性は、パチンコ屋に設置してあるその台の説明書があるんですが、それでは完全ではないんですよ。たとえば天井についてゲーム数を書いていなかったり、設定差の確率や、どこに設定差があるかなど書いてないことが多いです。だから知らない台を打つ場合は、それなりに研究していく必要があるんですよ」
「どこで研究するんですか?」
「本屋の雑誌コーナーにある、パチンコ、パチスロの攻略本を買って読むか、それともネットで調べるかですね」
「ネットでですか?」
「ええ、メーカーの公式ホームページにはパチンコ屋で出ている説明書くらいのことしか書いていませんので、たとえばその台の掲示板などを覗いてみるのもいいかも知れません。実際に打ってみた人がいろいろな情報を落としてくれていたり、または、攻略のサイトについて書いてくれていたりします。攻略のサイトは、その機種を検索しても出てきますが、より正確なサイトを探したい場合は、掲示板を有効に使うのもいいと思います」
「でも、掲示板の信憑性の問題もありますよね?」
と彩香が聞くと、
「だから、有効性を気にする必要があります。自分で実際に打ってみて、その感触に近い内容のことを書いているサイトは信憑性が高いかも知れません。見極めは自分の感性によると思った方がいいかも知れませんね」
「なるほど、奥が深いんですね」
「ええ、その通りです。パチンコにしてもスロットにしても、問題は確率なんですよ。彩香さんは、確率については、野球を見ているので、普段から感じるものがあると思いますが、僕も野球とパチンコは似ていたりすると思うんですよ」
「野球の打率は、そう簡単なものではないですよね。その人間の出すものなので、スランプだったり、好調な時期が定期的に訪れるわけではない」
「パチンコだってそうですよ。パチンコは完全確率方式ですからね」
「さっき、一番最初におっしゃっていたことですよね」
「ええ、そうです。これはパチンコだけのものではないんでしょうが、あまり使われるものではないんですよ。福引やおみくじの確率とは少し違いますからね」
「というと?」
「福引というのは、最初に当たりを引かなければ、次の確率は上がってくるわけでしょう?」
「ええ」
「玉が五十個あって、その中に一等賞が一つ入っているとすれば、最初に一等賞を引く確率というのは、五十分の一ということになる。でも、最初にはずれを引くと、次の確率は四十九分の一ということになる。ここまでは分かりますよね?」
「ええ、分かります」
「だとすれば、どこで当たるかは別にして、五十回引けば、必ず当たるということになりますよね?」
「ええ」
「じゃあ、パチンコで大当たり確率が三百分の一という台があるとすれば、必ず三百回のうちにあたりを引けますか?」
と言われて、彩香は少し考えた。
「確かに引けない場合がありなす」
「ね。五十回転で引けるかも知れないけど、五百回転回しても引けない場合がある。それはどうしてかということなんですよ」
「どうしてなんですか?」
「それが完全確率方式というもので、大当たりを引けなければ、次の回転でも同じ確率で抽選されることになるからなんですよ。つまり一度外れた玉を、もう一度福引の中に入れて、二回目も五十個で福引を行うということになるからなんです」
「なるほど」
とは言ったが、彩香は少し疑問を感じた。
それが何なのか分かりかねていたが、その疑問を感じるということを、彼は想像していたようで、
「福引なら分かるけど、どうしてパチンコの場合、ここまでハッキリとした確率が出てくるのかって思うでしょう?」
「ええ」
彼は、財布から十円玉を取り出した。
「ここに十円玉が一つあります。これを十回投げて裏が出る確率はどれくらいですか?」
「ハッキリとは言えません」
「そうですよね。裏が何度か重なって出る可能性もあるし、表が何度も重なる場合もある。でも、それは十回だからなんですよ。それが二百回、五百回、千回と増えていけば増えるほど、二分の一に近づいてくると思いませんか? それが完全確率という考え方なんですよ」
「なんとなく分かりましたが、大当たり確率は、どこまであてにすればいいんですかね?」
「それもその人の感性でしょうね。やはり、その台の特性を知って、打ち込んでいくうちに自分で感じることで理解する。さらに回数を重ねると、大当たり確率に近づいてくるという感覚をどれほど信じられるかということなのかも知れませんね」
「じゃあ、それまでの履歴も大切だということになるでしょうか?」
「それだけを信じてやるのは危険を伴うことになりますね。やはり確率というものを頭の隅に置いておいて、自分の感覚でゲームを楽しむのがパチンコであり、スロットだと思います」
――しょせん、ギャンブルなんだわ――
と思っていた世界だったが、話を聞いてみると、その奥の深さに驚嘆していた。
不良少女
彩香が下田とパチンコの話をしている時、一人の少女が同じ喫茶店で、一人コーヒーを飲んでいた。
彼女の名前は杉山ゆあ。学校の制服を着てはいるが、学校に通っているわけではなかった。
「おい、ゆあ。今日もダーツでもしにいこうぜ」