永遠の保障
「ただでさえ、パチンコをしている人には、大なり小なりの罪悪感があるので、他人事という意識を持つことは、普通なら悪いことにしか考えられないでしょう。でも、それを敢えて感じることができるというのは、意識して感じているんだと思います。それは罪悪感に打ち勝つためのものであり、罪悪感自体が他人事だと思うようになると、そこに他のことのような均衡が同じ力で保たれるということはないと思うんです。それなのに、他人事を意識させないのは、無理して他人事という意識を考えないようにしているからではないでしょうか? だから逆にふとしたことで他人事という意識を思い立てば、今度は意識からなかなか抜けてくれないことを感じるでしょう。それをいいこととして捉えるか、悪いこととして捉えるかということで、大きくその人の感覚が変わってくる。パチンコをやめたいと思っているのにやめられないと思っている人は、どうしても、他人事という意識を自分に都合よく考えてしまうからなんでしょうね」
と、本当に冷静に淡々と語っていた。
「パチンコ屋には、パチンコの他にスロットってあるじゃないですか? あれはどんな感じなんですか?」
彩香の友達の中にはパチンコをしている人もスロットをしている人もいた。それぞれにいろいろ話をしていたようなのだが、興味がなかった頃は何を言っているのかさっぱり分からなかったこともあって、まったく聞いていなかった。しかし、下田が勝手にパチンコの話を始めたことで、漠然としてではあるが、パチンコに興味を持った。そのついでにスロットについてもこの際だから聞いてみたいと思ったのだ。
「彩香さんはスロットにも興味があるんですか?」
「と聞かれて、
「興味があるというわけでもないんですが、友達にパチンコが好きな人とスロットが好きな人がいて、今まで興味がなかったんですが、せっかく下田さんがパチンコを教えてくれたのだから、一緒にスロットの話もしてくれると、これから友達の話にも少しは入っていけるんじゃないかって思ったんです」
「なるほど、今まではパチンコもスロットも毛嫌いしていたけど、今話を聞いて少しパチンコに興味を持った。友達のことを考えると、パチンコだけを知っているというのはなんとなく不公平な気がしたんですね?」
「ええ、その通りです」
「彩香さんは正直な人だ」
「そうですか?」
「ええ、そうですよ」
そういって、お互いに笑みを浮かべた。
そして下田はおもむろに話始めたのだった。
「パチンコとスロットというのは、ゲーム性という意味で違っていますね。パチンコの場合は基本的に、玉がアタッカーに入ると液晶だったり、リールが回転して、三列ある数字や図柄が揃えば大当たりということになる。でもスロットの場合は、三枚のコインを入れて、レバーを叩くと、リールや液晶が回り出して、これが揃えば大当たり。あくまでも基本的にですね」
「ということは、パチンコはアタッカーに入らないと何も起こらないけど、スロットの場合は必ずリールは回るということですね?」
「その通り。でも、大当たりの確率はそれぞれで違うし、当たるための演出も問題だったりする。演出があるからゲームをしている人はドキドキするんだし、特性を知っていると、もっと楽しいものだと思いますよ」
「パチンコは、少しだけやっている人を見ていたことがあるので、なんとなく分かります。リーチが掛かってから演出が始まって、連続演出だったり、色が変わったり、約物が落ちてきたりするとチャンスだったりするんですよね」
「ええ、その通りです。スロットも同じような演出なんですが、パチンコとスロットの一番の違いは、スロットには設定というものがあるということかも知れません。もちろん、他にもいろいろな違いがあるので、人によって一番の違いという部分は一定しないでしょうが、分かってくると楽しいという意味で、僕は話そうかと思います」
「設定というのはなんですか?」
「設定というのは、一から六まであるんですが、数字が上がるごとに当たりやすかったり、勝ちやすかったりするというものですね。ざっくりとした言い方ですみませんが、設定がいいからと言って、必ず勝てるというわけでもないんです」
「というのは?」
「設定差というのは、その機種によっていろいろあるんです。スロットというのは、パチンコのようにリーチが掛かればチャンスが来るわけではなく、何かのチャンス役というものを引いたら文字通りチャンスになるというわけです。そのチャンス役を引くと、チャンスゾーンというところに発展して、そのゾーンにいる間は当たるための高確率状態に入っていると思えばいいでしょう。だから、まずはチャンス役を引けるかどうか、そしてチャンス役を引いて、どれだけの確率でチャンスゾーンに入るかということが大切になりますよね」
「ええ、そうですね」
「そこに設定差というのが入ってくるんです。たとえばチャンス役を引く確率として、設定一なら、三パーセントだけど、設定六なら十パーセントあるとかですね。つまり、確率が高くなればなるほど、大当たりに近づくわけで、でも、設定六でもしょせんは十パーセント、必ず当たるというわけではないですよね。しかも、それはチャンスゾーンに入るための確率でしかないですからね。でも、設定が悪いよりもいい方がいいに決まっている。だからスロットをする人は設定のいい台を探しているんですよ」
「なるほど、そうなんですね」
「パチンコの場合は設定というものはありません。あくまでも、公表されている大当たり確率をものにするために、一番考えることは、よく回る台を打つということになるんです。つまりは、どれだけアタッカーに入るかということですよね」
「なるほど、スロットの方が難しい感じがしますね」
「そうですね。まずは台の特性を知らないと、闇雲に追いかけることになってしまう。投資も増えるし、なかなか当たらない。だから、スロットにはいろいろなものが台に含まれているんです」
「たとえば?」
「たとえば、ゲーム数によって、チャンスのゾーンがあるということです。さっき言った、チャンス役を引かなければいかないチャンスゾーンとは違って、たとえば百ゲーム付近とか、二百五十ゲーム付近に、高確率になりやすいゾーンが隠れていたりします。それも設定によって、確率が上下したりするので、本当に台の特性を知る必要はありますよ」
「そうですね。そのゾーンを逃すと次まで結構あると思うと、他の台を見てみようという気になったりもしますからね」
「ええ、その通り、いろいろなところに潜んでいる設定を読むのも、スロットを打つ醍醐味だったりします。またスロットには天井というものもあるんですよ」
「天井ですか?」
「ええ、パチンコや一部のスロットにはないんですが、決まったゲーム数まで大当たりがなければ、必ず当たるというものです。これは確実に当たるので、天井が近い台を探している人もいるくらいですよ」
「それはすごいですね」
「面白いのが、天井の中には、天井に到達すると恩恵を受けられる台もあるんです。たとえば、必ず高確率から始まるとかですね。でも、その恩恵のために、ショックを受けるkともあるんですよ」
「どういうことですか?」