小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

永遠の保障

INDEX|20ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「だって、あなたは最初からパチンコを他人事のように打っているように見えたからなのよ。本人はそんなつもりはないと思うんだけど、見ていると、どこか他人事なのよ。だからのめり込むこともないし、自分の制限の中で楽しむことができる」
「それは言えるかも知れないわね。意地になってお金を入れたりしたことはなかったような気がするわ」
 というと、
「それがなかなかできないから、パチンコでイライラしたり、自分を犠牲にしたりすることになるのよ。私たち常連は、皆そんなことはないでしょう? 普通に趣味としてやっているだけなので、大当たりというものを他人事と思えるのよ。大当たりするのが目的なんだけど、その目的のために、どのような台を選ぶかということだったり、どんな立ち回りをするかということを探究するのが、本当の意味での目的になるのかも知れないわね」
「じゃあ、目的のために探究するのが本当の目的ということになるのかしら?」
 と彩香がいうと、
「そうかも知れないわね。でも、目的が二つというのもおかしいのよ。だから、最終的な目的が他人事のように思えれば、探究が本当の目的として意識することができるというものなのよね」
 と言われた。
「パチンコって奥が深いものなのね」
 彩香はそういって、皆に微笑んだ。
 他の常連の人は、それぞれにデータを持っていて、解析をすることで自分の立ち回りに生かしているようだった。
――まるでパチプロだわ――
 と感じていたが、彼らに言わせれば、
「パチプロなんて言われると心外だな。自分たちでいかにして楽しむかという同好会のような気分でやっていることなので、しいていうと、他の常連には負けたくないという思いの方が、自分の収支よりも大切な気がしているんだ」
 ということだった。
「まるでゲーム感覚ね」
 というと、
「そうだよ。パチンコはギャンブルではなく、ゲームだと思えば、結構楽しいものだよ。彩香さんも最初はゲーム感覚だったでしょう?」
「ええ、収支よりも大当たりを見るのが楽しかったものね」
「じゃあ、最近のパチンコ台についてどう思っているんですか?」
 と聞かれて彩香は、
「最近の台は、やたらと煽りがすごいのに、なかなか当たらないように感じます。少し前の台だったら、これくらいの煽りがあると大当たり確実って思えていたようなことが、結構外れてみたりするんですよ。そういう意味ではやっていて、結構疲れますね」
 と、率直に答えた。
 それを聞いて他の人も、
「うんうん、それは同感ですね。私も同じように思っていました」
 と、まわりのみんなは一斉に頷き、質問者が代表して答えた。
「パチンコ業界も、今は結構規制が厳しくなってきたので、なるべく客離れを防ごうと、あの手この手を考えているんでしょうけど、ここまでされるとさすがに冷めてしまう気分になってきます」
 と彩香がいうと、
「彩香ちゃんも結構玄人好みの考え方ができるようになってきたわね」
 と言われ、少し恥ずかしく感じられた。
「パチンコって、いろいろな確率の台があるでしょう? 大当たり確率によって、マックスだったり、ミドルタイプだったり、ライトミドルだったり、甘デジだったりと、彩香ちゃんはどれが好きなんだい?」
 と、常連の中でも一番貫録のある人に言われた。
「私は、その時の気分によって違いますけど、だいたいはライトミドルが多いかな?」
「どうしてなの?」
「マックスやミドルはなかなか大当たりに結びつかないので、時間で制限をしている私には、向いていない気がするの。かといって、甘デジだと、大当たりの確率は高いかも知れないけど、そのほとんどが出ても、下皿がいっぱいにもならない程度でしょう? あっという間に呑まれてしまって、せっかく当たったのに、その感激の余韻が冷める前に玉がなくなってしまうのはさすがにですね」
 といった。
「なるほど、やっぱり一回当たったら、持ち球でもう一回当てたいわよね。マックスだったら、確かにたくさん出るけど、次までにかなり時間が掛かる。時間制限をしていなくても、結構疲れるものなのよ。だから、僕もマックスはほとんど打たないですね」
 と、若い常連さんが言った。
「マックスの楽しみは、連荘してこその楽しみですよね。確変に次ぐ確変だったら、あっという間にドル箱が増えていって、これ以上の楽しみはないですからね。一度その楽しみを味わってしまうと、今度はやめられなくなる危険性もあるんですよ。今日は駄目でも、次こそはってね」
「それが一番危険なのかも知れませんね。僕も前に一度同じ思いをして、気が付けばその時の勝ち分の倍をその後の何回かで持っていかれて、気が付くと、金銭感覚がマヒしていました」
 という人の横で、冷静にもう一人が、
「それは誰もが通る道なんじゃないでしょうか? 僕にも同じ経験がありますよ。頭の中で計算しているつもりでも、計算を凌駕する感覚ってあるもので、マイナスになっても、前のように出ると、一気にプラスになると思うから、どんどん泥沼に入ってしまうんですよ。それが金銭感覚のマヒだと思うんですが、金銭感覚を計算できる力だと思うのであれば、実際にはマヒしているわけではないですよね。泥沼に入っていく自分を見たくないという思いから、金銭感覚がマヒしているという言い訳を頭の中に描いてしまうんでしょうね」
「それではまるで、金銭感覚のマヒは、悪いことではないように聞こえますが?」
「僕はそう思います。金銭感覚のマヒという言葉の中に、すぐにお金を使っている自分を他人事のように思うことを含めてしまっているから、言い訳のように思うんです。どうせ他人事のように思うのであれば、パチンコにのめり込んでいる自分を見ているもうひとりの自分の存在に気付けばいいのではないでしょうか?」
「それができないから、パチンコに溺れてしまうんでしょうね」
「ええ、その通り。でも、パチンコの場合は、このように他人事のように思うことが二種類あって、片方がいいことであり、片方が悪いことであるという意識は、他にも言えると思うんです。他の場合は、それぞれに力が均衡していて、お互いを打ち消すことで、他人事という意識がまったくない場合がほとんどだと思うんです。だから、他人事という言葉を聞くと、まず悪いことのように意識してしまうので、なるべく考えないようにしているんでしょうね」
「パチンコの場合は?」
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次