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永遠の保障

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「それはそうなんだけど、チームとしては、いつまでもその選手の復活を待っていられない。だから、選手の復活をバックアップしながら、並行して新しい抑えの育成もしている。もちろん、絶対的なエースがいる時でも、それに続く選手の育成もしているはずなんですよね。もしものことを考えるから。実際にもしものことが起きてしまっているわけだから、育成が急務になってくる。すでに抑え候補ができあがっていれば、そのままその人に抑えとしての地位を奪われ、取って変わられるということになりますよね。それが勝負に生きる人の宿命というべきなのかも知れませんね」
「そうですね。その抑えの人が今の自分の地位を築くきっかけになったのも、前任者が同じように崩れてしまったことからなのかも知れませんしね」
「その通り、彩香さんも分かってきたじゃないですか」
 と言われると、少し照れ気味に、
「ええ、下田さんがよく分かるようにお話してくれているからですわ」
 と答えた。
「そう言ってくれると嬉しいです。とにかくチームにとって、抑えのポジションに誰もいないということは一番困ることなんです。もし、そうなると対戦するチームが考えることは、少なくとも今までであれば、八回までに負けていれば、絶対的な抑えのエースが出てきて、あきらめないまでも、頭の中では、このまま負けてしまうと思い、首脳陣の頭の中は明日の試合を考えてしまうことになるでしょう。でも、抑えがいないとなると、最後まであきらめない気持ちが強くなり、そんな首脳陣を選手が見て、ベンチもあきらめていないんだから、自分たちがあきらめるわけにはいかないと思って、最後に逆転する可能性が大きくなります。しかも、相手は自分のチームに抑えがいないという劣勢な思いがあるので、完全に頭の中は守りに入っていますよね。スポーツというのは、守っている時も攻めの気持ちがなければ、押される一方で、それだけで完全に不利なんですよ」
「分かります。理論的にも精神的にも今のお話はよく分かる気がします」
 と彩香がいうと、
「精神的な部分と肉体的な部分を最初は切り離して考えていても、最後には必ず重ねあわさなければ考えは生まれてこない。その時にうまく組み合わなければ空中分解してしまうでしょうね。チームの首脳がそうなってしまうと、試合どころではなくなり、その試合はおろか、今後のチーム運営にも支障をきたすことになります。結構大きな問題になるんじゃないでしょうか?」
 と、下田は言った。
「いろいろ勉強になります」
「ところで、彩香さんは完全確率方式という言葉をご存じですか?」
「いいえ、初めて聞きました」
「パチンコなど、されたことありますか?」
 といきなり聞かれて少し戸惑ってしまったが、
「え、いいえ」
 と、とりあえず答えた。
 どう答えていいのか、返答に困ったからだ。
 彩香は、パチンコをまったくやったことがないわけではない。大学時代の友達に連れていかれて、少しだけやってみたことはあった。嫌いというわけではないが、嵌ることはなかった。
「彼氏が結構パチンコに嵌っていてね。私が一緒について行ってコントロールしないと、有り金全部使っちゃうのよ」
 というのが友達の言い分だったが、彼女も結構パチンコが好きなようで、彩香から見れば、
――どっちもどっちという気がするわ――
 と思っていた。
 彩香の場合は、大当たりをしては喜んで、収支よりも、大当たりを見るのが楽しみだった。そういう意味ではお金を追いかけるわけではないので、大当たりに恵まれなくなると、その台を追いかける気はしなくなっていた。さっさとあきらめてパチンコ屋を出るのだった。
 最初は友達に連れていかれてやったという気持ちが、いつの間にか暇つぶしに繋がっていき、誰かと行くよりも、一人でフラッと行く方が多くなった。
 そのうち、彩香がパチンコをしているということを知っている人は誰もいなくなり、表面上は真面目な女の子だった。もっともパチンコ以外のギャンブルをするわけではないので、普通に真面目と言ってもいいだろう。彩香の場合のパチンコの目安は、時間で制限を掛けていた。一時間なら一時間、ちょうどその時に大当たりしていなければ、さっさとあきらめるという気持ちがしっかりしていたのだ。
 そういう意味では収支も大きくマイナスになることもない。適度な遊びとしては、ちょうどよかったのだ。
 パチンコは勝つ時もあれば負ける時もある。データを集めたりするところまで徹底はしていないが、台を見極めるくらいはできるようになったと思っている。だから、一時間の間、最初に座った台でいつも粘っている。立ち回りなど、彩香の辞書にはなかったのだ。
 ただ、最近はパチンコにも行く回数が減ってきた。
――飽きてきたのかしら?
 と思うようになっていた。
 そう思うということは、パチンコという遊戯をしている自分がまるで他人事のように感じられるようになったからではないかと感じていた。
 パチンコ屋では馴染みになっていて、店のスタッフや常連客と話をすることもあり、それが結構楽しかったりする。彼らはパチンコをしているということにある程度の罪悪感を抱いているのか、いつもパチンコ屋で見る顔があると安心するようで、お互いに同類という意識を持っているようだ。
 彩香も、何人かパチンコ屋で話をする人がいる。台の動向や、自分たちの最近の成績といったありきたりの会話なのだが、会社で同僚と世間話をしているよりも、よっぽど楽しいと思えた。
――やはり私はパチンコが好きなのかしら?
 と思っていた時期が一番パチンコをしていて楽しかった。
 しかし、最近では、自分がパチンコを好きなのかということに疑問を感じるようになっていた。
 大当たりをしても、最初の頃ほど喜びを感じないようになっていた。その理由が最初は分からなかったが、どうやら、台の特性が分かってきたことで、連荘しない時というのが、だいたい分かるようになってきたのだ。
――そんなこと分からずに単純に喜んでいた頃が懐かしい――
 と感じていた。
 そのことを他の常連さんに話すと、
「それは誰もが通る道のようなものだよ。一過性のものだから、あまり気にしない方がいいんじゃないかな?」
 と、楽天的に話してくれた。
 そして、
「パチンコって適度に楽しむものだということを意識してさえいれば、楽しみなんてすぐに戻ってくるわよ」
 と、女性の常連さんがそう言っていた。
「そうなのかしら?」
 というと、
「それは人それぞれだけど、打っていて、他人事のように思えてくる時があるんだよ。そんな時、我に返って、パチンコをやめていく人もいるようなんだけど、その人にとって、それが一番いい選択で、やめられる時にやめるというのは潔さという意味も含めて、素晴らしい選択なんだって思うよ」
 と、もう一人常連が言っていた。
「なるほどですね。そうかも知れませんね」
 と、彩香は彩香なりに納得していた。
「彩香ちゃんは、やめてもやめなくても、あまり変わらない気がするわ」
 とさっきの女性がいった。
「どうしてなの?」
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次